不登校でも参加前提!? 修学旅行の知られざる「ルール」

#不登校#行き渋り

アンケートに見る「不登校と修学旅行不参加」

「不登校オンライン」が2024年8月に行った「修学旅行」に関するアンケートでは、修学旅行への参加について次のような回答結果が得られました。

【お子さんの修学旅行がこれからある】
24名のうち、11名が「お子さんの気もち」として「参加したくない」を選択、また、12名が「親の気もち」として「参加しなくていい」を選択しています。親子ともに、およそ半数が「修学旅行への参加には消極的」でした。

 

【お子さんの修学旅行が終了した(その時期、お子さんは不登校だった)】
36名のうち、24名が「修学旅行に参加しなかった」を選択、つまり、3分の2が修学旅行へ参加しなかったと回答しています。

 

「不登校と修学旅行」について思うことについて、以下のような声が寄せられました。

修学旅行は楽しいとか参加するのがあたりまえとされているので、行けないことでさらに落ち込む。(まるさん)

自分が思っていた以上に、子どもの不参加はつらかった。(Minetteさん)

学校にも行けない、あるいは行っていないのに立ちはだかってくる行事だなと思いました。(パンダママさん)

こうした声からは、「子どもが修学旅行に参加しないこと」に対する保護者の戸惑いや、割り切れない思いが伝わってきます。

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修学旅行不参加はどれくらい?

では、修学旅行不参加の子どもはどのくらいいるのでしょうか。子どものクラスや学年を見渡すと、「わが子だけ……」と感じるかもしれません。しかし、少数派ではあるものの、修学旅行不参加の子どもはたくさんいることがわかっています。

■「コロナ禍開け」直後の修学旅行調査

新型コロナウイルス感染症の流行により、令和2(2020)年度から令和5(2023)年度は、修学旅行にもそれまでとは異なる対応が求められました。中止や行き先・期間の変更、感染症罹患等による参加キャンセルなどのため、この期間の「不登校の子どもと修学旅行」の関係はわかりにくくなっています。

令和5年5月、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行しました。その直後の令和5年7月から11月、公益財団法人全国修学旅行研究協会が「修学旅行の実施状況調査」を行い、その調査結果を公表しています。

参考:(公財)全国修学旅行研究協会公式ウェブサイト「修学旅行ドットコム」2023(令和5)年度調査研究報告

残念ながらこの調査は全国調査ではなく、関東5県(茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉)の公立中学校を対象とした調査ではあります。とはいえ、新型コロナウイルス感染症の影響が軽減しつつあるなかでの調査なので、「不登校の子どもと修学旅行」の関係も、ある程度見えやすくなっています。

■「不登校」による修学旅行不参加の実情は?

この調査は、茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉各県の公立中学校1,296校を対象に行われたものです(回答率100%)。

「実施予定なし」4校を除いた1,292校のうち、修学旅行不参加の生徒がいた学校は1,150校で、全体の88.7%にのぼります

つまり、多くの学校に「修学旅行に参加しない生徒」がいるということです。

修学旅行不参加の生徒数は7,942人でした

この調査結果には正確な参加生徒数の記載がありませんので、不参加生徒の割合を算出するのは難しいですが、おおよその割合を考えてみます。

同調査によると、「国内修学旅行1泊目の宿泊人数」は15万6,961人となっています。この人数には、海外修学旅行3校の参加生徒数、途中参加・途中帰宅等の生徒数は含まれていませんが、それらは大人数ではないと想定して、いったん計算から除外します。

そうすると、修学旅行対象生徒のうち不参加だった生徒の割合は約4.8%と考えられます

では、気になる「不参加の理由」です。

「複数回答」のため複数の理由を挙げたケースや、理由不明のケースもありますが、「不登校」を理由に修学旅行不参加だった生徒が4,968人。不参加生徒数のおよそ6割です

県別に見ても、茨城712人、栃木551人、群馬448人、埼玉1,802人、千葉1,455人と、いずれも2番目以下の理由を大きく引き離して、最も人数が多くなっています。

■個々の生徒への配慮が課題

この調査の最後に、「これからの修学旅行実施について課題と思われること」として、各学校から自由記述で寄せられた回答が報告されています。費用高騰に関する課題が多く挙げられるなか、個々の生徒の事情への配慮として、以下のようなものが挙げられています。

・不登校生徒が修学旅行に参加するケースへの対応
・(部屋割りや入浴など) LGBTの生徒への対応
・宗教的理由で神社仏閣へ入場できない生徒への対応

 

費用にしても、個別対応にしても、学校側の「修学旅行参加へのハードルをできる限りなくしたい」という意識が見て取れます。もちろんそこには、使命感をもって働いている学校の先生方の、「生徒に対する思い」もあるでしょう。

一方で、その「思い」だけではない、別の事情もありそうです。

修学旅行には「ルール」がある!?

修学旅行は文部科学省の「学習指導要領」に「特別活動」として位置付けられ、実施にあたってのねらいが明記されています(こちらについては別記事で扱います)。そのほかに、各都道府県や区市町村の教育委員会が「修学旅行実施基準」を定めています

実は、修学旅行には学校が判断できることのほかに、こうした「ルール」に合わせなければならないこともあるのです。

前述の調査を行った団体のほかにもう一つ、修学旅行に関する研究・調査を行っている団体があります。公益財団法人日本修学旅行協会です。

この団体が公表している「2024(令和6)年度修学旅行実施基準概要一覧」には、全国の都道府県、政令指定都市の修学旅行実施基準がまとめられています。

参考:(公財)日本修学旅行協会ウェブサイト内「修学旅行実施基準」

この一覧で「不登校オンライン」が注目したのは「生徒参加率の基準」です。

「全員参加」は全国一律じゃない! 

修学旅行の「生徒参加率の基準」の傾向を、「原則全員参加・100%」「参加比率指定」「その他ユニークな規定」にまとめました。

※「区市町村立の小中学校」については、35の都道府県で各区市町村教育委員会が修学旅行の実施基準を定めており、この一覧では詳細を見ることはできません。

■原則全員参加・100%

  • 市町村立小中学校:4府県、10政令指定都市
  • 府県立中学校:11府県
  • 公立高等学校:18都道府県、6政令指定都市

■参加率指定

  • 市町村立小中学校:4県、3政令指定都市
    最小は石川県の「80%以上」、次に小さいのが埼玉県とさいたま市の「85%を下らない」。
  • 県立中学校:5県
    最小は長崎県の「60%以上(休業日は40%以上)」、次に小さいのが熊本県の「3分の2以上」。
  • 公立高等学校:20道府県、7政令指定都市
    最小は長崎県の「60%以上(休業日は40%以上)」、次に小さいのが熊本県と熊本市の「3分の2以上」。
    全日制、定時制、通信制で別途基準を設けているケースや、「原則全員」だが条件付きで比率を設定しているケースも。

■その他ユニークな規定

  • 「保護者の理解と協力を得て、原則として全員が参加できるよう計画する」(茨城県市町村立小中学校)
  • 「事前に児童生徒一人一人の健康状態を調査し、心配のある者の参加については十分配慮すること」(静岡県市町村立小中学校)
  • 「大多数が参加できるものでなければならない」(茨城県公立高等学校)
  • 「できるだけすべての生徒が参加するよう配慮する」(三重県公立高等学校)
  • 「大多数の生徒が参加するものとする」(鳥取県公立高等学校)
  • 「全員参加を建前とする」(富山県市町村立中学校)
  • 「規定なし」(富山県市町村立小学校・高等学校、横浜市ほか)
  • 「特に実施基準はない 学校の裁量による」(新潟県)

ただし、実際の教育現場でこの「生徒参加率の基準」がどれくらい重視されているかは不明です。

「行きたくない」と「参加率」の間で

「不登校オンライン」が実施したアンケートには、「行きたい人だけが行けるようにしてほしい」「行くか行かないかは子どもの意志を尊重したい」といったご意見も多くありました。修学旅行に対する、不登校の子どもの保護者の切実な思いが伝わってきます。

しかし各教育委員会の「実施基準」では、できるだけ多くの(場合によってはすべての!)子どもが修学旅行に参加すること、としています

不登校の子どもの保護者の気持ちと教育委員会の基準には、大きな隔たりがあると言えます。その間で、学校はどう対応しているのでしょうか。

前回の記事で紹介したアンケートの回答には、積極的な「声がけ」に賛否がありました。そのほかに、次のような声も届いています。

学校は不登校について、何も考えていない? 無策。放置。極悪だと感じた。見捨てられている気しかしなかった。(ルナイズムさん)

担任の先生は、不登校担当の立場の方だったので、理解がありいろいろ配慮してくれましたが、それでも、「やっぱり行けない」と本人の意思を伝えた時はとてもがっかりされました。(いとさん)

どういった形なら参加できるか、クラスメイトとの関わり方、その子に合わせて参加の仕方を考えて、学校側で提案できるパターンを用意しておくのもいいのではないかと思う。「不登校だから修学旅行も行かないよね」ではなく、行きたい気持ちをあきらめないですむ環境を作ってほしい。(とかげさん)

不登校や修学旅行に限らず、子どもによってベストな対応が異なるのは言うまでもありません。保護者と学校が協力して子どもたちを支えていけるよう、今後も「不登校オンライン」は、「知られざる情報」を発掘・発信していきます!

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