不登校への対応~子どもに起こる3段階の気持ちの変化を理解しよう~
学校が苦手なお子さんのための完全個別指導塾・キズキ共育塾スタッフの宮野唯です。
私はこれまで、次のようにお悩みの、多くの保護者さまと接してきました。
- 「子どもが不登校になってしまって、親として何をするべきか分からない…」
- 「いろいろな対応をしても子どもの不登校の状況が変わらず、不安で仕方がない…」
- 「自分の子どもへの対応は、もしかして間違っているのではないか…」
中には、数年にわたって不登校のお子さまと向き合っている保護者さまもいました。
お子さまの状況が変わらないのは、もしかしたら、お子さまの気持ちと保護者さまの対応のタイミングがあっていないためかもしれません。
このコラムでは、私の経験に基づいて、不登校のお子さまによくある気持ちの変化の観点から、保護者さまにできる効果的な対応と、成功事例をお伝えします。
お子さまの対応法に悩み不安な気持ちを持つあなたが、お子さまの気持ちを理解しうまく対応できるようになるきっかけとなれば幸いです。
共同監修・不登校新聞社 代表理事 石井志昂氏からの
アドバイス
不登校の子どもは「まるでさなぎのようだ」とも言われています。さなぎは外側から変化は見えませんが、硬い殻の内側では大きく変化をしています。
不登校も同様で、「学校へ行かない」という状況が一見変わらないままでも、表情や心境は大きな変化を見せていきます。
こうした心境の変化や背景に目を向けていくことが、子どもを深く理解する一歩になり、ひいては子どもが回復していく着実な一歩につながっていきます。
ぜひお子さんの心境の変化に注目してみてください。
不登校のお子さまの気持ちの変化
不登校のお子さまに直接話を聞いてきたところ、その気持ちには3段階があるようです。
- 第1段階:不安定な気持ち
- 第2段階:混乱・緊張・攻撃的な気持ち
- 第3段階:冷静な気持ち
段階ごとに、よく見られる行動と、保護者さまにできる効果的な対応をそれぞれご紹介していきます。
不登校の第1段階:不安定な気持ち
本格的な不登校になる前の時期、お子さまは「不安定な気持ち」になっています。
この時期には、主に4つの行動が見られます。
- 単純な外出を嫌がる
- 日常動作が遅い、ノロノロと動く
- 学校の話題を見聞きすると不快な顔をする
- 身なりに気をつかわない
お子さまの立場では、次のような感覚から、自分自身の漠然とした変化を意識しています。
- 朝起きることをつらく感じる
- 学校へ行っても授業中の集中力が思うように発揮されない
- それまで普通にこなしてきたスケジュールを困難に感じる
これは、「何かおかしいな」という程度の、お子さま本人にもよくわからない曖昧な感覚です。
不安定な気持ちへの対応:「家庭を大切にする」
お子さまが「不安定な気持ち」のとき、保護者さまにできる効果的な対応は、「家庭を大切にする」ことです。
具体的には、次のようなものがあります。
- お子さまを頭ごなしに追い詰めない
- お子さまのことで家族同士が激しい口論をしない
- お子さまの話をゆっくりと聞く
- お子さまと一緒に家事を行う
家庭を大切にする、つまりお子さまに学校以外の居場所を確保することで、不安定な気持ちになっているお子さまも、家庭では安心感を持つことができます。
そうすると、心に余裕ができて自分を見つめ直し、この段階で立ち直る場合があるのです。
お子さまの欠席が目立ちはじめ、保護者さまは動揺しているかもしれませんが、ここで保護者さまも不安定な気持ちになると、家庭が不安定になり、お子さまにとって安らげる場所がなくなってしまいます。
また、この時期に良好な家族関係を保てれば、もし不登校が長期化した場合も、お子さまと保護者さまの間の信頼関係が続くため、お子さまが保護者さまの声に耳を傾けることが多いです。
不登校の第2段階:混乱・緊張・攻撃的な気持ち
本格的に不登校になった直後から1年くらいまでの時期、お子さまは「混乱・緊張・攻撃的な気持ち」になっています。
この時期から、第1段階の行動4つに加えて、7つの傾向が見られるようになります。
- 単純な外出を嫌がる
- 日常動作が遅い、ノロノロと行動する
- 学校の話題を見聞きすると不快な顔をする
- 身なりに気をつかわない
- 専門機関への相談を受け入れない
- 食事やお風呂で家族のいる時間帯をさける
- 保護者さまが話しかけても返事をしない、または口論になる
お子さまの立場では、自分のことで精いっぱいとなり、自分以外(家族や学校)に気持ちを向ける余裕がなくなっています。
自信もなくなり、自暴自棄になったり、自分の殻に閉じこもったりしてしまいます。
お子さまにとって、不登校の中で一番つらい時期、どん底です。
混乱・緊張・攻撃的な気持ちへの対応:「落ち着かせる」
お子さまが「混乱・緊張・攻撃的な気持ち」にあるとき、保護者さまにできる効果的な対応は、「落ち着かせる」ことです。
具体的には、次のようなものがあります。
- 不登校に関係のない普段どおりの会話をする
- リフレッシュのための家族旅行をする
お子さまにとって、冷静になるきっかけになったり、充電期間になったりして、不登校からの復帰が早まる可能性が高まることがあります。
この時期、お子さまには声が届きにくくなっており、保護者さまの不安もいっそう強くなるかもしれませんが、突き放したりあきらめたりせず、根気強く、また押しつけがましくなく見守ってください。
不登校の第3段階:冷静な気持ち
不登校が1年以上続くと、お子さまは「冷静な気持ち」になってきます。
第2段階からの7つの行動は続いているものの、ネガティブな言動がだんだんと緩やかになってきます。
お子さまの立場では、長く暗いトンネルから抜け出した感覚、抜け出しそうな感覚になっています。
そして、「自分はこれから大丈夫だろうか」「これからどうしようか」「何とかやり直したい」と不安や希望を感じながら、具体的に何をすればいいのかがわからないという状況です。
冷静な気持ちへの対応:「さりげなくきっかけを与える」
お子さまが「冷静な気持ち」になったとき、保護者さまにできる効果的な対応は、「さりげなくきっかけを与える」ことです。
具体的には、次のようなものがあります。
- お子さまと一緒に進路を考える
- 気になる進学先があれば一緒に見学に行く
そうすると、例えばお子さまが「大学に行きたい」と意思を示したならば「勉強を始める」といったように、具体的な次の行動を起こしやすくなります。
また、この時期のお子さまは、第1段階・第2段階では嫌がることの多い「専門機関への相談」も受け入れやすくなっています。
保護者さまだけできっかけを与えることが難しいと思ったら、そうした外部の力を借りるのもよいでしょう。
気持ちの変化は繰り返すこともある
お子さまによって、それぞれの段階の期間が違うこともありますし、各段階の気持ちの変化を繰り返すこともあります。
ですが、私の見てきた限り、気持ちの変化を繰り返しても、不安定さや攻撃性などのネガティブな気持ちは徐々に緩やかになり、次第に第3段階の「冷静な気持ち」に向かっていく方が大多数でした。
もしこれまで、不登校のお子さまの対応がうまくいっていないとしても、どうかあまりお気を落とさないでください。
保護者さまの対応が不登校からの立ち直りにつながった例
大学受験シーズンが迫った12月。高校不登校のある生徒さん(以下、A君)は、1か月ほどキズキ共育塾を欠席していました。
A君が久しぶりにキズキ共育塾に顔を見せてくれたある日、その手には大学名と学部が20校分ほど書かれた紙がありました。
それは、保護者さまがピックアップした「A君の進路候補の大学一覧」でした。
私はA君と一緒にその紙を眺めていたのですが、私が何か言う前に、A君は、自身でどんどん冷静な自己分析を始めました。
「○○学部で××について勉強したい」
「このキャンパスは家から近くて通いやすい」
「自分の学力なら、この大学は現実的に狙える」
最終的に、学部はもちろん、立地や受験科目も考慮して、A君自ら受験校を1校に絞り込みました。
その後、A君はキズキ共育塾で受験用の授業を熱心に受け、自習も積極的に行い、見事その大学に合格しました。
実はA君は、キズキ共育塾で、「①入塾→②通塾→③休塾→④復塾→⑤休みがち→⑥通塾再開→⑦大学合格」という過程を経ています。
キズキ共育塾に通い始めてからも、気持ちと行動の変化を繰り返していたのです。
大学一覧が書かれた紙を持ってきたのは、⑤と⑥の間のときです。
きっとA君の保護者さまは、A君がキズキ共育塾を休塾したときや休みがちになったときに、「高校不登校と同じ状態に逆戻りなのではないか」と不安になったと思います。
ですが、そのときも、A君の気持ちの変化に応じて、保護者さまは根気強く対応を行っていました。
A君が「不安定な気持ち」のときには、安心感が持てるように、家庭での居場所を大切にしていました。
A君が「混乱、緊張、攻撃的な気持ち」のときには、気持ちを落ち着かせるために日常どおりの会話を続けていました。
そうやって信頼関係を保ち続け、A君が「冷静な気持ち」になったタイミングで、次に進むためのさりげないきっかけとして、あらかじめ準備しておいた大学一覧を渡したのです。
A君の気持ちの変化と保護者さまの対応がピッタリ重なった結果だと思います。
例えば、「混乱、緊張、攻撃的な気持ち」のときに大学一覧を渡していても、反抗されてうまくいかなかったかもしれません。
対応がうまくいかなくても、ご自身とお子さまを責めないでください。
A君とその保護者さまの事例は、非常にうまくいったパターンです。
不登校の場合に限らず、お子さまの気持ちの変化を見抜き、それに応じた対応をするのは、保護者さまでもわからない方が多数でしょう。
ご自身の対応がうまくいかなかったとしても、ご自身を責めたり、お子さまを追い詰めたりしないでください。
参考:学校休んだほうがいいよチェックリストのご紹介
2023年8月23日、不登校支援を行う3つの団体(キズキ、不登校新聞、Branch)と、精神科医の松本俊彦氏が、共同で「学校休んだほうがいいよチェックリスト」を作成・公開しました。LINEにて無料で利用可能です。
このリストを利用する対象は、「学校に行きたがらない子ども、学校が苦手な子ども、不登校子ども、その他気になる様子がある子どもがいる、保護者または教員(子ども本人以外の人)」です。
このリストを利用することで、お子さんが学校を休んだほうがよいのか(休ませるべきなのか)どうかの目安がわかります。その結果、お子さんを追い詰めず、うつ病や自殺のリスクを減らすこともできます。
公開から約1か月の時点で、約5万人からご利用いただいています。お子さんのためにも、保護者さまや教員のためにも、ぜひこのリストを活用していただければと思います。
「学校休んだほうがいいよチェックリスト」はこちら(LINEアプリが開きます)
「学校休んだほうがいいよチェックリスト」作成の趣旨・作成者インタビューなどはこちら
「学校休んだほうがいいよチェックリスト」のメディア掲載・放送一覧はこちら
私たちキズキでは、上記チェックリスト以外にも、「学校に行きたがらないお子さん」「学校が苦手なお子さん」「不登校のお子さん」について、勉強・進路・生活・親子関係・発達特性などの無料相談を行っています。チェックリストと合わせて、無料相談もぜひお気軽にご利用ください。
保護者さまだけで悩まないでください
さて、ご紹介した話は私の経験に基づくものであり、絶対的に正しいものではありません。
また、不登校のお子さまの気持ちや行動、効果的な対応は、原因や個人の性格によって、もちろん人それぞれ異なるでしょう。
キズキ共育塾では、保護者さまのみのご相談も承っております。ご相談いただければ、それぞれのお子さまにより適したお話ができると思います。
不登校のお子さまに関するお悩みは、保護者さまだけ、家族だけで抱えていても、なかなか解決しません。(A君の場合も、保護者さまだけではなく、キズキ共育塾の講師も授業を通じてメンタル面のフォローを行っていました。)
おひとりで悩みすぎる前に、ぜひお気軽にご相談ください。きっと温かいサポートを受けられると思います。
※紹介した生徒さんの事例は、記事の趣旨を損なわない範囲で、個人の特定ができないように一部事実を変更しています。
※文中の写真は、全てイメージです。