精神科医・松本俊彦先生が“不登校の親の悩み”に答えます(2)〜ゲームの時間のルール、どうしたらいい?〜
2025年10月9日(木)、「学校休んだほうがいいよチェックリスト(※)」を運営する3団体が、精神科医・松本俊彦先生をお招きして、無料のオンライン講演会を実施いたしました。
テーマは「不登校のプロと精神科医松本俊彦先生が答える、不登校のお悩み解決スペシャル」。
オンライン講演会での松本先生からのメッセージと、不登校のお子さんがいる親御さんからお寄せいただいた質問へのご回答を、全3回に分けてご紹介します(一部の表現は、不登校オンライン編集部が編集を行っております)。
※学校休んだほうがいいよチェックリストとは
子どもが「学校休みたい」「学校行きたくない」と言っているけど、休ませていいのかな?と心配になっている保護者の方に向けたチェックリストです。簡単な質問に答えるだけで、精神科医からの回答結果が届きます。運営は、不登校ジャーナリスト・石井しこう、好きでつながる居場所「Branch」、不登校の子のための完全個別指導塾「キズキ共育塾」の3団体が行っています。
目次
質問4:ゲームの時間のルール、どうしたらいいでしょうか
石井:
「ゲーム時間のルール、どうすればいいの?」という、小5男子のお母さんからの質問です。
今、1時間までとデバイス制限をかけています。ただ、子どもは手持ち無沙汰でやることがなかったり、ゲームをやりたいときなどは、時間を延ばしてほしいと依頼してきます。親の私も、何々したら、勉強したらとか、家事をしたら15分延ばしてあげるなど、ご褒美として引き合いに出すこともあります。判断軸がブレないようにしたいとは思いますが、ゲーム時間のルールはどう決めるといいのでしょうか?
松本:
これは、本当に大事ですよね。つい、大人の理想から「1時間」と決めることが多いような気がします。
可能であれば、子どもとの、「あなただったら、制限するとしたらどの時間がいい?」というところからの議論を始めてみたほうがいいかななんて、思っているんです。それで、子どもの提案に対して、「そうは言うけど、でもね」とちょっとネゴシエーション・折衝してほしいんですよ。
先に子どもに案を出させるから、折衝するとしても、削減できる幅はかなり低い可能性がありますよね。そしたら「分かった。じゃあ、ここで手を打とう」とした上で、「ただし、これでやってみて、これこれこういう問題が生じたら、またそこで再度の交渉をしようと思うけど、いい?」って同意を取って、問題が生じたときにもう1回話し合うようにするんです。
まず子どもに案を出させて、大人がそこに突っ込んで折衷案を作っていく。そして、そのときには「必ず見直しをする」という条項を設けて、見直しをする。
とにかく話し合いを作る、最初の案を子どもに出させることが大切です。子どもたちの主体的参加のルール作りをぜひやってほしいなって思うんですよ。
自分で決めたルールを破ると、やっぱり本人もシュンとするんですよね。
「余っている時間のときに勉強をしたらボーナスをあげるよ」とすること自体は、すごくいいことだと思います。
石井:
そうですよね。「本人たちがどう思っているのか」から始まらないと。「親の守ってほしいルールをどうすれば守るか?」という話だと、難しいですよね。
松本:
見どころのある子どもほど、ルールの裏をかいて、網の目をかいてルール破りすることに命を懸けるようになっちゃうから。
石井:
ゲームのルールはフリースクールでよく問題になるかと思うんですけど、中里さんいかがですか?
中里:
僕も普段から、松本先生がおっしゃった通りのことしか言っていないです。ルールを一方的に決めるよりも、相談していく過程が大事だなと思っています。
一方的に決めたルールを守れなかったお子さんは、「自分はルールを守れないんだ」と自己肯定感が下がっていきますし。
質問5:10歳の男子が「抱っこして」「眠るまでそばにいて」と甘えてきます
石井:
「甘えは自然とおさまるの?」という質問です。小学校4年生、10歳の男の子のお母さんからの質問です。
もう10歳の男なのに抱っこして、眠れるまで傍にいてと甘えてきます。小2で不登校になってからは、更に依存が強くなった気がします。たまに登校しても下校するまでずっと一緒にいてと言われます。これから体も大きくなってくるし、抱っこしてと言われるのは正直キツイです。思春期になれば自然と親から離れていくのでしょうか?
松本:
お母さんの心配も当然だと思います。10歳というのは、まだ思春期にはならないけれども、うかうかしていると思春期に入る年齢でもありますよね。だから、その年齢に応じた接触の仕方は考えていかなければいけないし、率直に子どもに言う必要があるとは思います。
ただ、子どもたちは、ストレスが加わってくるとちょっと退行するんですよね。子ども返りをするんです。もう本当によく見られる話です。退行して、そこでエネルギーを備給してから、船出するっていうところがあったりするんですよね。
だから、例えば、不登校の初期や再登校時に「子ども返りしたのかな?」「なんでこんなに甘ったれ坊になっちゃったんだろうか?」って思う一瞬もあるかもしれないけど、「今はエネルギーが不足しているんだ」「船出の前に今エネルギー蓄えているんだ」と受け止めていただきたいと思うんです。
実は、「自立した子ほど、キッチリと甘えた時期がある」なんていうことは、昔からよく言われていることなんです。
ただ、母親と息子という組み合わせで、密着した身体接触があるっていうのはあまり好ましくありません。必ずしも抱っこじゃなくて、頭を撫でる、手を握るなどのもうちょっと適切な形に置き換える工夫はしてもいいかなと思います。
「受け止めた」ということが相手に伝わるような、安心感として伝わる形がいいのかなと考えています。このあたりは、医療以外の現場で関わっている方々からは、どんなふうに見えるでしょうか?
石井:
「甘え」の話は、本当にいっぱい聞くんですよ。で、このお母さんが書いている以上に、親にとっては「甘え」は怖いみたいなんですよね。
「赤ちゃん返りしたっぽい瞬間に知能が下がっちゃったのかな?」「学校に行かなくなったことによって知的レベルが下がったんじゃないかな?」という恐怖感があるみたいです。
ただ、お母さん方が言うのが、「構ってほしい子には、構ってほしいときにちゃんと向き合う必要もあるが、全然関係ない瞬間に構うといい」ということです。
手を握るとか、頭を撫でるとか、今日よくやったねとか、相手が求めているタイミングじゃないタイミングでも甘えのカードをちょっとずつ切ると、だんだんだんだん甘えが治まっていくみたいな話が言われています。理屈は分からないんですけど、現場ではそうです。
中里:
Branchでは、「小学校6年生で、発達障害があるお子さん」の話があります。学校に行っていなくて、お母さんとお子さん2人きりの期間が長くて、甘えも長かったんです。
でも、Branchの中で友達ができて、母子分離が少しできてきましたというタイミングで、お母さんが「父親が家にいる時間を少し増やしながら、ホテルで1泊」などの時間を作ったんです。
「ちょっとずつ、やっと母子分離的なことができるようになりました」と言っていました。
石井:
今の話を総合すると、しっかり甘える時期が大事で、そのときは甘えることが必要で、でも、離れていくようにだんだん工夫する、ということでしょうか。強い身体接触を小さくしたり、離れる時間を作ったりということが大事になると。
松本:
そうですね。そして、フリースクールなどで仲間ができてきたタイミングっていうのを見計らいながら、分離の練習をやっていくっていうことでいいんでしょうね。
質問6:全てに否定的な我が子をどうしたらいいですか?
石井:
「全てに否定的、どうすれば?」という質問です。中学3年生のお母さんからです。
不登校になってから4年目。勉強したくない。働きたくない。オンラインの通信制高校も無理。やりたいことなんてない。僕の未来なんてないと、ずっと否定的なことを言い、私たちが勧めることも全て無理といった感じで否定します。本人のやる気が出るまで待つという姿勢でいましたが、周囲からの圧も感じて、私も穏やかではありません。夫に息子と今後のことを話してほしいと依頼しましたが、3か月経っても話せていないようです。私は、これからどう対応していけばいいんでしょうか?
石井:
なんでこんなに否定的なことばかり言うんでしょうか?
松本:
もう思春期あるあるというか。中学生年代の患者さんで精神科へ来る子たちで見どころのある子たちは、大体まぁ否定的ですね。
というか、否定を言いに診察に来ているんじゃないかという感じですね。こちらも結構、心が折れるんですけれど。
でも、たぶん人間が一番最初に自己主張した言葉は、「これではない」という「NO」だと思うんですよね。だから、それでしか自分を主張できない時期がある気がするんですよね。
そして、NOを言っても関係が壊れない時間を積み重ねることは、すごく大事なような気はしているんですよね。
石井:
「ダメだ」と言っても見放されないっていう安心感を得るってことですかね。
松本:
「相変わらずパンクだね」などと言いながら付き合っていく時期は、やっぱりどうしても必要な気はするんですよね。
そういうことを言いながら、ちょっと笑い合える時間が出てきたときに、ちょっとずつちょっとずつ「本当のこと」について語られたり、見えてきたりするというか。
「散々否定していたのに、なぜかやっている」みたいなタイミングが意外に出てくるような気もしているんです。このあたりは、支援の現場ではどうですか?
伊藤:
全てに否定的になるというのは、まさに私のことだなとは思って。不登校だった10年前のことに限らず、大人になった今も、そういう気持ちがあるんです。
ただ、松本先生がおっしゃったように、否定をぶつける相手が、否定に対して「そんなことないよ」って言ってくれる、信頼がある家族などであるというのは、自分の中ではあるなと思います。NO、否定、ネガティブを正直に素直に話せる場所は、すごく貴重だなと思っています。
ご質問者様のご家庭は、NOと素直に言いやすい関係性を既に作られている可能性はあるなと思いました。
石井:
学校とかで受け取った「自分はダメだ」というメッセージを誰かに話して整理しているのかもしれないですよね。
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