ICTで創る「誰ひとり取り残さない」子どもの悩み発見の仕組みづくり~愛知県豊田市の取り組み~
うまく使えば不登校に関する悩みの解消の糸口にもなり得る、教育現場で使用されているICT端末。
不登校オンラインでは、全4回の記事を通し、子どもの心を守るICTの活用について考えていきます。
第3弾の今回は、子どもの悩み早期発見のためのICT活用について実際の自治体の取り組みをもとに紐解いていきます。
- 第1回 ICT教育普及の背景
- 第2回 子どもの悩み早期発見の大切さとICT活用の可能性
- 第3回 子どもの悩み早期発見のための取り組み
- 第4回 ICT×教育、新時代の希望と今後の課題
GIGAスクール構想により1人1台の学習用端末を全国の小・中学生が手にしている現在、各自治体では子どものSOS早期発見のためにICTの活用が進められています。
ICTによる子どもの悩みサポートに力を入れている自治体のひとつ、愛知県豊田市の青少年相談センター「パルクとよた」の坂東さんにお話を聞きました。
目次
6歳から15歳が対象。すべての悩みを拾うために
豊田市では、小学生から中学生の子どもたちを対象にICT端末を通した悩み相談ツール「先生たすけて」が展開されています。
「先生たすけて」のツール作成にあたり、込められたこだわりについて坂東さんは以下のように話します。
<坂東さん>
子どもたちの悩みをひとつでも多く拾うためには、「みんなが使いやすいツール」でなくてはなりません。6歳で小学校に入学したばかりのお子さんから15歳の中学3年生まで、「先生たすけて」を利用する子どもたちの年齢は幅が広いです。
文字を書くのが難しかったり、自分で考えを言語化するのが難しい子どもたちも、みんながSOSを出しやすい仕組みになるよう検討しました。
そこで、選択式で簡単に悩みを入力できる形式を採用しています。
どんな学齢の児童・生徒も助けを求めやすくなるように、直感的で分かりやすい操作性にこだわったといいます。
<坂東さん>
選択肢も非常にシンプルです。①相談をしたい相手
②相談をしたい内容この2点が選択式と自由記述で答えられるようになっています。
(出典:「先生たすけて」の実際の画面)
相談先が選べる。SOSを出してもらうための工夫
シンプルな設計で相談の難易度を下げると同時に、SOSが発信された後の流れにも、子どもたちが安心できるような工夫があると坂東さんは話します。
<坂東さん>
「先生たすけて」では、子どもたち主体で悩みの相談先を選ぶことができます。「誰になら話しやすいか」は場合によって異なるので、必ずしも担任の先生に送信されるというわけではなく、子どもたちが「相談したい」と思う相手に届けることが可能です。
悩みの相談にICTの技術を介在させることによって、「知られたくない人に知られない」安心感を仕組みで守ることができるようになったのです。
支援者が不登校の子どもとオンラインで直接つながる
坂東さんによると、豊田市では「先生たすけて」の運用のみにとどまらず、子どもたちの悩み発見や不登校の児童・生徒の支援のために、さらなるICT活用の動きがあるといいます。
<坂東さん>
例えば、現在まさに準備が進んでいるプロジェクトのひとつとして、外出が難しい不登校の子どもたちと、パルクとよたがオンラインでつながり、支援を届ける取り組みがあります。
すべての不登校の子どもたちへ、誰ひとり取り残さず支援を届けることを目指して、日々、仕組みが整えられているということです。
学校以外の場所で過ごせている子どもは半数以下
フリースクールや教育支援センターなど、不登校の子どもたちが支援を受けられる場所の選択肢は多く存在しています。
しかし、実際に学校以外の場所でケアを受けることができている子どもたちは、半数にも及びません。(参考:文部科学省「令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」)
「外出が難しい」、「情報が多く選びきれない」など、さまざまな理由が考えられます。
しかし、ICTを使って自宅からでも気軽に支援を受けられる仕組みがつくられることで、不登校の子どもたちがケアにつながるハードルが下がり、孤立のリスク軽減が期待できます。
「困ったら、学習用タブレットをひらく」を当たり前に…
また、支援先につながることができず孤立する子どもたちは、自ら情報を集めるのが苦手であることが少なくありません。
「困ったら、とりあえず学習用タブレットをひらく」という新しい当たり前が構築されることで、何をどうしたらよいか分からず取り残される事案を減らすことができるでしょう。
次回
ICT相談ツールに込められた工夫を語る坂東さんの言葉には、一貫して子どもたちの視点に立った思いが取り入れられていました。
「先生たすけて」のアイコンひとつをとっても、なるべく子どもたちがアクセスしやすいようなデザイン、設置場所の心配りが見られます。
不登校支援や教育の最前線で活躍する人々によって、子どもたちの心を守るICT活用は日々進化しているのです。
4回の記事を通して、教育現場のICT活用を考える本連載。
次回は、「更なる発展と今後の課題」をテーマにICT×教育を深堀りする最終回です。