「ADHDと不登校」の概要・総論を紹介します

#不登校#行き渋り#ADHD#発達障害

ADHDのあるお子さんは、その特性に関連して不登校になることがあります。

そんなお子さんと保護者の方のために、不登校オンラインでは、ADHD(発達障害)に関連した記事を随時公開しています。

この記事では、「ADHDの概要・総論」と、不登校との関係を紹介します。(参考:『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』、田中康雄『大人のAD/HD』、岩波明『大人のADHD:もっとも身近な発達障害』)

編集

不登校オンライン編集部

1. ADHD(注意欠如・多動性障害)とは、発達障害の一種

ADHDとは、「注意欠如・多動性障害」を意味する、発達障害の一種です

英語名である「Attention-Deficit Hyperactivity Disorder」の略語として、「ADHD」と呼ばれます。

ADHDには多くの特性があります。その中でも、次の2点がよく見られるものとして挙げられます。

  1. 不注意
    忘れ物やケアレスミスが多く、確認作業を苦手とする
  2. 多動・衝動性
    気が散りやすく、貧乏ゆすりなど常に身体を動かしていないと落ちつかない

ほかによく挙がる特性の現れ方に、「マルチタスクやスケジュール管理が苦手」などがあります。

2. ADHDの診断は医師だけが可能

ADHDに限らず、「お子さんに(ある人に)発達障害があるかどうか」の診断は、医師による問診や心理士が実施する心理検査を中心に行われます

医師以外には「ADHD(発達障害)かどうか」の診断・判断はできません。

お子さんについて「ADHD(発達障害)かどうか」をハッキリさせたいのであれば、病院を受診してみることをオススメします

「診断を受けるのが不安」であれば、発達障害のある人たちをサポートする団体に相談してみましょう。相談先の例として、各都道府県の発達障害者支援センターがあります。

「病院に行くべきかどうか」「診断を受けるメリットやデメリットは何か」など、気になることを相談できます。

3. ADHDの医学的な診断基準

ADHDの診断基準を紹介します。これは、2013年にアメリカ精神医学会がまとめた『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』によるものです。

診断基準に当てはまれば、お子さんはADHDがある可能性があります。ただし、あくまで可能性です

「どの程度なら『当てはまる』と言えるか」「ほかの病気や障害の可能性はないか」なども含めて、「ある人がADHDかどうか」は、医師だけが判断できます

■不注意

  • (a)学業、仕事、または他の活動中に、しばしば綿密に注意することができない、または不注意な間違いをする(例:細部を見過ごしたり、見逃してしまう、作業が不正確である)

  • (b)課題または遊びの活動中に、しばしば注意を持続することが困難である(例:講義、会話、または長時間の読書に集中し続けることが難しい)

  • (c)直接話しかけられたときに、しばしば聞いていないように見える(例:明らかな注意を逸らすものがない状況でさえ、心がどこか他所にあるように見える)

  • (d)しばしば指示に従えず、学業、用事、職場での義務をやり遂げることができない(例:課題を始めるがすぐに集中できなくなる、また容易に脱線する)

  • (e)課題や活動を順序立てることがしばしば困難である(例:一連の課題を遂行することが難しい、資料や持ち物を整理しておくことが難しい、作業が乱雑でまとまりない、時間の管理が苦手、締め切りを守れない)

  • (f)精神的努力の持続を要する課題(例:学業や宿題、成人では報告書の作成、書類に漏れなく記入すること、長い文書を見直すこと)に従事することをしばしば避ける、嫌う、またはいやいや行う

  • (g)課題や活動に使うようなもの(例:学校教材、鉛筆、本、道具、財布、鍵、書類、眼鏡、携帯電話)をしばしばなくしてしまう

  • (h)しばしば外的な刺激(成年後期および成人では無関係な考えも含まれる)によってすぐ気が散ってしまう

  • (i)しばしば日々の活動(例:用事を足すこと、お使いをすること、青年後期および成人では、電話を折り返しかけること、お金の支払い、会合の約束を守ること)で忘れっぽい

  • 上記の項目のうち、6つ以上の項目が少なくとも6か月以上続いている
  • 症状のいくつかが2つ以上の環境(職場・家庭・学校など)で見られる
  • 12歳以前から複数の症状が見られる

■多動性および衝動性

  • (a)しばしば手足をそわそわ動かしたりトントン叩いたりする、またはいすの上でもじもじする

  • (b)席についていることが求められる場面でしばしば席を離れる(例:教室、職場、その他の作業場所で、またはそこにとどまることを要求される他の場面で、自分の場所を離れる)

  • (c)不適切な状況でしばしば走り回ったり高い所へ登ったりする(注:成人では、落ち着かない感じのみに限られるかもしれない)

  • (d)静かに遊んだり余暇活動につくことがしばしばできない

  • (e)しばしば“じっとしていない”、またはまるで“エンジンで動かされているように”行動する(例:レストランや会議に長時間留まることができないかまたは不快に感じる;他の人には、落ち着かないとか、一緒にいることが困難と感じられるかもしれない)

  • (f)しばしばしゃべりすぎる

  • (g)しばしば質問が終わる前に出し抜いて答え始めてしまう(例:他の人達の言葉の続きを言ってしまう;会話で自分の番を待つことが困難である)

  • (h)しばしば自分の順番を待つことが困難である(例:列に並んでいるとき)

  • (i)しばしば他人を妨害し、邪魔する(例:会話、ゲーム、または活動に干渉する;相手に聞かずにまたは許可を得ずに他人の物を使い始めるかもしれない;青年または成人では、他人のしていることに口出ししたり、横取りすることがあるかもしれない)

  • 上記の項目のうち、6つ以上の項目が少なくとも6か月以上続いている
  • 症状のいくつかが2つ以上の環境(職場・家庭・学校など)で見られる
  • 12歳以前から複数の症状が見られる

4. ADHDの特性への3つの対応方法

ADHDの特性に働きかける治療や対応は確立されてきています(ただし、根本的に「ADHDではなくなるための治療や対応」は現在のところありません)。

この章では、特性への対応例を紹介します。

ここでご紹介するもの以外にも対応はたくさんあります。

特性や性格によって向き不向きがありますので「あなたのお子さんのADHDの特性」への対応は、医師やサポート団体に相談しながら探すことをオススメします

①認知行動療法

対応の一つは、認知行動療法です。

認知行動療法は、認知に働きかけて気持ちを楽にする精神療法(心理療法)の一種です。
ストレスを感じた人は悲観的に考えがちになって、問題を解決できないこころの状態に追い込んでいきます。
認知行動療法ではそうした考え方のバランスを取って、ストレスに上手に対応できるこころの状態をつくっていきます。
(参考:国立研究開発法人国立精神・神経医療センター認知行動療法センター「認知行動療法とは」)

認知行動療法の目的は、「自分の思考の癖を知って、多角的な視点で物事を見ること」です。

不安やストレスを感じた場面で認知行動療法の手法を使用することで、思考を整理できて、不安やストレスを軽減できます。

結果、発達障害の二次障害と言われる不安やうつの症状の緩和ができます。

②ソーシャルスキルトレーニング

ソーシャルスキルトレーニング(SST)という方法もあります。

社会生活技能訓練(ソーシャルスキルトレーニング、SST)とは、人との上手な接し方や自分の気持ちの伝え方などの社会的なスキルを習得するためのトレーニングです。
一般的には5~8人程度の少人数のグループで行われます。日常生活の中で起こりそうな人と関わる場面を想定し、指導者がお手本を見せたり、参加者が相手役に対して実際に練習してみたりすることで、対人関係で生じる困難を減らすことを目指します。
他にも、疾患や薬について学び、適切に症状に対処したり薬を飲んだりできるようになるための心理教育プログラムが一緒に行われることがあります。
(参考:こころとくらし「社会生活技能訓練 (SST)」

ソーシャルスキルトレーニング(SST)では、具体的な「困る場面」での対応方法を学び、学んだ対応方法を実践することで失敗を減らしていけます。

結果、対人場面などでの苦手意識が減り、自信につながります。

③投薬治療

ADHDは病気ではありません。しかし、近年の研究によって脳の神経伝達物質に作用し、特性を緩和する薬が開発されています。以下、代表的なものを紹介します。

(1)コンサータ(メチルフェニデート塩酸塩)

脳内の神経細胞の間で情報を伝える神経伝達物質(ドパミン、ノルアドレナリン)を増加させ、神経機能を活性化し注意力を高めたり、衝動的で落ち着きがないなどの症状を改善します。(引用元:一般社団法人くすりの適性使用協議会「コンサータ錠18mg」)

※補足
コンサータは、不適正な使用による依存や乱用のリスクを避けるために、処方できる病院・薬局が限られています。患者情報も「ADHD適正流通管理システム」に登録されます。

(2)ストラテラ(アトモキセチン塩酸塩)

脳内の神経細胞の間で情報を伝える神経伝達物質を調節し、不注意や多動・衝動的で落ち着きがないなどの症状を改善します。(引用元:一般社団法人くすりの適性使用協議会「ストラテラカプセル25mg」)

(3)インチュニブ(グアンファシン塩酸塩)

アドレナリン受容体に作用して、脳内の神経伝達物質の働きを調節することにより、注意欠陥/多動性障害の症状を改善します。(引用元:一般社団法人くすりの適性使用協議会「インチュニブ錠3mg」)

5. ADHDは、生まれつきのもの

ADHD(発達障害)は、生まれつきのものです。ADHDの特徴は幼少期から見られます。

そのため、「成長してからADHDになる(成長につれてADHDになる)」ということはありません

関連して、以前は「ADHDは子ども特有のもの」と考えられていました。しかし、現在の医学では、「ADHDの特性は大人になっても継続する」とされています。

ただし、多動・衝動性の特性は、成長するうちに薄れることも多く見られます

6. いわゆる「大人のADHD」とは

近年、「大人のADHD」という言葉をよく見るようになってきました。

大人のADHDとは、「大人になってからADHDだと気づいた状態」を指す俗語です

発達障害は生まれつきのものです。そのため、「大人になってから(成長するにつれて)ADHDになった」ということではありません。

子ども時代から「特性」はありながらも、過ごす状況によっては「困難」にはつながらないこともあります。

また、発達障害への理解が浅かった時代には、困難に直面しながらも、周囲も含めてADHDの可能性に思い至らなかった人もいるでしょう。

そうした人たちが、例えば「就職後に正確な処理・確認作業・管理業務を求められるようになった」ことで困難に直面し、ADHDの特性があることに気づく、ということは少なくありません。

「大人のADHD」について詳しく知りたい人は、コラム「大人のADHDとは? 対応法やサポート団体などを紹介」をご覧ください。(不登校オンラインと同じく、株式会社キズキが運営する就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジのウェブサイトが開きます)

7. いわゆる「グレーゾーン」とは

ADHDの傾向が確認されるものの、確定診断が出るほどではない状態・人のことを、俗に「(ADHDの)グレーゾーン」と言います

グレーゾーンの場合、確定診断がないことによって、利用できる公的なサービスが限定されることがあります(例:障害者手帳を取得できないため、障害者手帳が必須なサービスを利用できない)。

ただし、グレーゾーンの人でも「発達障害者支援センター」のようなサポート団体への相談は可能です。

8. ADHD以外の発達障害

発達障害は、その特徴によっていくつかのグループに分けられています。

ADHD以外の主な発達障害には、ASD(自閉症スペクトラム障害)、SLD(限局性学習障害)などがあります。

ADHD・ASD・SLDのうち、複数が併存する人もいます。

9. 「不登校のわが子にADHD(発達障害)がある」とわかって安心する保護者は少なくない

保護者の方は、不登校のお子さんにADHD(発達障害)の確定診断が出たり、グレーゾーンであると言われたりすると、そして「特性」が不登校と関係していることがわかると、「よかった」「安心した」と思うことが少なからずあります。

その理由の一つは、「不登校の原因は、自分の育て方ではなかった」ということを、そこでようやく実感できるためです

そもそも不登校は、どんな家庭でも、どんな育て方をしていても、どんなお子さんでもなりえます。

それでも保護者の方は、「自分の育て方がよくないのでは…」と、不必要に自分を責めがちです。

その思いが、確定診断やグレーゾーンの所見によって断ち切られるのです

もちろん、「ADHD(グレーゾーン)であるとわかれば、お子さんの「大変さ」への対策を見つけやすくなる、という理由もあるでしょう。

「わが子にADHDがあることを『安心』だなんて…」というジレンマもあるかもしません。

しかし、少なくとも心の中で思う分には、まったく問題ありません。その気持ちを恥ずかしく思う必要もありません。

一方で、発達障害以外も含めて、病気や障害は一般論としてはセンシティブな話題です。また、「保護者自身の話」ではなく、「お子さんという、保護者とは異なる個人の話」でもあります。

不登校や発達障害のサポート団体と話すときには、ADHDがあること、保護者として安心したことなどは話しても問題ありません。

その上で、「お子さんのADHDについて、誰にどのように話すべきか」については、サポート団体と相談しながら決めていくことをオススメします

10. ADHD(発達障害)が確定することを不安に思う方も

前章とは逆に、「わが子にADHD(発達障害)がある」と確定することを不安に思う方もいらっしゃいます。

その不安自体は、否定されるべきではありません。

しかし、「保護者自身の話」ではなく、「お子さんという、保護者とは異なる個人の話」であることは、意識していただければ幸いです

確定診断がなくても、「困りごと」へのサポートを受けられる場合もあります。

各種サポート団体では、「診断を受けるべきかどうか」から相談できますので、不安を抱え込まず、ぜひご相談ください。

11. ADHDと不登校の関係

ADHDが関連して、お子さんが不登校になることはあります。例えば、次のようなケースです。

  • 不注意や落ち着きがないことを周囲からからかわれたり、馬鹿にされたりして、学校で生活する中で次第に自己否定が進む

  • 「できない」体験をたくさんすることで、否定的な自己像を形成し、二次障害として不登校になる

  • 「ささいなことで口論になる」「順番が待てない」などの特性から、集団行動への苦手意識が生まれる

  • 「おしゃべりが止まらない」「相手の話を聞いていない」などによって、人間関係の構築が上手くできず自信を持てなくなる

「ADHDと不登校」の詳細は、コラム「ADHDと不登校の関係性 親ができる対応を解説」をご覧ください(リンク先は、不登校オンラインと同じく株式会社キズキが運営する個別指導塾・キズキ共育塾のウェブサイトです)

次のようなことを紹介しています。

  • ADHDと不登校の関係性〜二次障害として不登校になることがある〜
  • 不登校状態にあるADHDのある子どもに親ができる7つの対応
  • ADHDの二次障害で不登校状態にある子どもに関するアドバイス

また、ADHDに限らず、「発達障害と不登校」については、コラム「発達障害の子どもの不登校 関連性や親ができる対策を解説」をご覧ください。次のようなことを紹介しています。(こちらもリンク先はキズキ共育塾のウェブサイトです)

  • 発達障害と不登校の関連性
  • 発達障害の特性別の不登校になる原因
  • 発達障害のあるお子さんが不登校になったときに親ができる5つの対策
  • 発達障害で不登校になった子どもの「これから」の選択肢
  • 発達障害で不登校になった人の体験談

12. ADHDや不登校の相談先

ADHDと不登校について相談できるところはたくさんあります。以下に例を紹介します。ぜひ、ご相談ください。

■ADHDについての相談先

  • 発達障害の専門家がいる医療機関(小児神経科・精神科、発達外来など。近くに小児精神科・精神科がない場合や、それらに抵抗がある場合には、かかりつけの小児科医に相談しましょう)
  • 小児科
  • 学校の担任
  • スクールカウンセラー
  • 市区町村役所の子育て相談窓口
  • 地域の保健センター、子育て支援センター、児童相談センター
  • 発達障害支援センター
  • 発達障害や不登校の親の会
  • 民間の発達障害支援機関
  • 発達障害のある子どものサポートを行う学習塾

■不登校についての相談先
記事「不登校のサポート団体・専門家(相談先)の例と探し方を紹介します」をご覧ください。

■そのほかの相談先
Webページ「お悩みのあるあなたのために、相談先一覧をまとめて紹介します」をご覧ください。(リンク先は、不登校オンラインと同じく株式会社キズキが運営する個別指導塾・キズキ共育塾のウェブサイトです)

13. ADHD(発達障害)の関連記事

不登校オンラインとキズキ共育塾の、ADHD(発達障害)に関連する記事を紹介します。ご興味があるものを、ぜひご覧ください(不登校が関係しない記事もありますが、きっとお役に立つはずです)。

■不登校オンライン

■キズキ共育塾

14.ADHDも不登校も、家庭で抱え込まずに相談を

ADHD(の特性)についての対策、相談先、特性を緩和する薬など、困りごとへの対応方法はたくさんあります。不登校の相談先やサポート団体も同じくたくさんあります。

確定診断があってもなくても、またADHDに関係してもしなくても、「発達障害や不登校に関する悩みごと」は、専門的な知識のある人たちに相談すると、対策や解決策を見つけやすくなります。

苦労や困難もあるかと思いますが、過度に不安にならないようにしましょう。

ぜひ、お子さんやご家庭に合う相談先を探してみてください。

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