「ASDと不登校」の概要・総論を紹介します
ASDのあるお子さんは、その特性に関連して不登校になることがあります。
そんなお子さんと保護者の方のために、不登校オンラインでは、ASD(発達障害)に関連した記事を随時公開しています。
この記事では、「ASDとの概要・総論」と、不登校との関係を紹介します。(参考:『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』、宮尾益知『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 職場の発達障害』、姫野桂『発達障害グレーゾーン』、厚生労働省「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について」)
目次
1. ASDの概要
ASDとは、「自閉スペクトラム症、自閉症スペクトラム障害」を意味する発達障害の1種です。英語名の「Autism Spectrum Disorder」の略語としてASDと言われます。
ASDには多くの特性があります。その中でも、以下の2点がよく見られるものとして挙げられます。
- 社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥
- 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式
ほかに、感覚過敏(光や音や刺激への敏感さが目立つ)、発達性協調運動障害(不器用さが目立つ)などの特性がある人もいます。
なお、「スペクトラム」というのは、「特性にさまざまなグラデーションがある」という意味です。一口に「ASD」と言っても、その特性の現れ方はひとりひとり異なります。
2. ASDという名称・分類について
ASDという名称・分類が使用されはじめたのは、2013年に、アメリカ精神医学会が『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』(精神障害の診察基準などを記した書籍)を定めてからです。
それよりも前には「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」などという名称・分類であり、診断基準も現在とは異なっていました。
かつての分類では、次のように区分して判断する傾向がありました。
- 言語発達に遅れのある場合を自閉症
- 知能が定型の人と同等で言語発達の遅れがないケースをアスペルガー症候群
現在のASDという分類では、厳密な区分ではなく、「地続きの障害(=スペクトラム)」としてとらえようとしています。
なお、「正式な医学用語」以外の場面(日常会話や法令名など)では、現在でもアスペルガー症候群などの旧名称が利用されていることもあります。
3. ASDによる具体的な困難について
ASDの特性は、以下のような形・傾向で現れることがあります。(例であり、「ASDのある人には必ずこのような傾向がある」「このような傾向があれば必ずASDである」というものではありません)
- 人と目線が合いにくい
- 場の状況や上下関係に無頓着である
- 名前を呼ばれても反応しない
- 一方的に言葉をまくしたてる
- 会話による意思疎通がうまくできず、コミュニケーションの齟齬が生じやすい
- 他人の発言をそのまま繰り返す
- 相手の身振りの意味、意見・気持ちなどを察しづらい
- 自分の考えと別の可能性を想定しづらい(相手の立場に立って考えることが苦手)
- 質問の意図や発言の狙いを理解しづらい
- 比喩や冗談を理解しづらい
- 表情から気持ちを察しづらい
- 自分だけのルールにこだわる
- 決まった順序や道順にこだわる
- 予定が急変するとパニックになる(パターン化した行動をする方が落ちついた生活を送ることができる)
4. ASDの診断は医師だけが可能
「お子さんが(ある人が)ASDかどうか」の診断は、医師による問診や心理士が実施する心理検査を中心に行われます。
医師以外には「ASDかどうか」の診断・判断はできません。
「お子さんがASDかどうか」をハッキリさせたいのであれば病院を受診してみることをオススメします。
「診断を受けるのが不安」と思う人は、発達障害者のサポートを行う団体に相談できます(各都道府県にある発達障害者支援センターなど)。「病院に行くべきかどうか」「診断を受けるメリットや注意点は何か」など、不安や疑問があれば、ぜひ話してみてください。
5. ASDの医学的な診断基準
『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』に挙げられているASDの診断基準を抜粋・一部編集したものを紹介します。
以下のような診断基準に当てはまれば、ASDの可能性があります。(あくまで可能性です。「どの程度なら『当てはまる』と言えるか、ほかの病気や障害の可能性はないかなども含めて、「ある人がASDかどうか」は、医師だけが判断できます)
A.複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥がある
- 相互の対人的-情緒的関係の欠落で、例えば、対人的に異常な近づき方や通常の会話のやり取りのできないことといったものから、興味、情動、または感情を共有することの少なさ、社会的相互反応を開始したり応じたりすることができないことに及ぶ
- 対人的相互反応で非言語的コミュニケーション行動を用いることの欠陥、例えば、まとまりのわるい言語的、非言語的コミュニケーションから、アイコンタクトと身振りの異常、または身振りの理解やその使用の欠陥、顔の表情や非言語的コミュニケーションの完全な欠陥に及ぶ
- 人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥で、例えば、さまざまな社会的状況に合った行動に調整することの困難さから、想像上の遊びを他者と一緒にしたり友人を作ることの困難さ、または仲間に対する興味の欠如に及ぶ
B.行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が2つ以上ある
- 情動的または反復的な身体の運動、ものの使用、または会(例:おもちゃを一列に並べたり物を叩いたりするなどの単調な常同行動、反響言語、独特な言い回し)
- 同一性への固執、習慣への頑ななこだわり、または言語的、非言語的な儀式的行動様式(例:小さな変化に対する極度の苦痛、移行することの困難さ、柔軟性に欠ける思考様式、儀式のようなあいさつの習慣、毎日同じ道順をたどったり、同じ食物を食べたりすることへの要求)
- 強度または対象において異常なほど、きわめて限定され執着する興味(例:一般的ではない対象への強い愛着または没頭、過度に限局したまたは固執した興味)
- 感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味(例:痛みや体温に無関心のように見える、特定の音または触感に逆の反応をする、対象を過度に嗅いだり触れたりする、光または動きを見ることに熱中する)
6. 大人のASDとは?
大人のASD、大人のアスペルガーなどという言葉を聞くことがあるかもしれません。これらは、医学的な定義がある言葉ではありません。以下のような状態を指す俗語です。
- 学童期には目立った特性や困難が見られなかった、またはその診断等を受けることはなかったものの、成人してから仕事の場などでその特性が顕在化し、ASDの診断を受けることになった例
- 子どもの頃からASDの診断を受けていた人が大人になった状態
1に関連して、発達障害は生まれつきのものです。そのため、「大人になって(大人になるにつれて)ASDになった」ということはありません。
子ども時代から「特性」はありながらも、過ごす状況によっては「困難」にはつながらないこともあります。
また、発達障害への理解が浅かった時代には、困難に直面しながらも、周囲も含めてASDの可能性に思い至らなかった人もいるでしょう。
そうした人たちが、例えば「就職後に、コミュニケーションの特性やこだわりの特性などによって(再び)困難に直面し、ASDがあることに気づく」ということは少なくありません。
7. ASDのグレーゾーンとは?
ASDの傾向が確認されるものの、確定診断が下りるほどではないほどの状態・人のことを、俗に(ASDの)グレーゾーンと言います。
グレーゾーンの場合、確定診断がないために、利用できる公的なサービスが限定されることがあります(例:障害者手帳を取得できないため障害者手帳が必須なサービスを利用できない)。
ただし、グレーゾーンの人でも「発達障害者支援センター」のようなサポート団体への相談は可能です。
確定診断があってもなくても、またASDに関係してもしなくても、「不登校や発達障害に関する悩みごと」は、専門的な知識を持つサポート団体に相談しましょう。「あなたのお子さん」のための、具体的な対策や解決策を見つけやすくなります。
8. ASD以外の発達障害
発達障害はその特徴によって、いくつかのグループに分けられています。
ASD以外の主な発達障害には、ADHD(注意欠如・多動性障害)、SLD(限局性学習障害)などがあります。ASD・ADHD・SLDのうち、複数が併存する人もいます。
ASDとADHDのおもな違いは、対人関係でのコミュニケーション能力の差にあらわれます。
■ASDの場合
他人の身振りの意味などを察することや、状況の推測・暗黙の了解を理解しにくいことが多いです。
運動が苦手なことも多いです。
■ADHDの場合
ASDのある人と比べると、コミュニケーションに大きな齟齬が生じたり、会話のやり取りや身振りの意味の理解に不自由さが生じたりするということは少ないです。
一方で、書類の記入間違いや物忘れといったミスが多く、それらが対人関係に影響を及ぼすことがあります。
9. 「不登校のわが子にASD(発達障害)がある」とわかって安心する保護者は少なくない
保護者の方は、不登校のお子さんにASD(発達障害)の確定診断が出たりグレーゾーンであると言われたりすると、そして「特性」が不登校と関係していることがわかると、「よかった」「安心した」と思うことが少なからずあります。
その理由の一つは、「不登校の原因は、自分の育て方ではなかった」ということを、そこでようやく実感できるためです。
そもそも不登校は、どんな家庭でも、どんな育て方をしていても、どんなお子さんでもなりえます。
それでも保護者の方は、「自分の育て方がよくないのでは…」と、不必要に自分を責めがちです。
その思いが、確定診断やグレーゾーンの所見によって断ち切られるのです。
もちろん、「ASD(グレーゾーン)であるとわかれば、お子さんの「大変さ」への対策を見つけやすくなる、という理由もあるでしょう。
「わが子にASDがあることを『安心』だなんて…」というジレンマもあるかもしません。
しかし、少なくとも心の中で思う分には、まったく問題ありません。その気持ちを恥ずかしく思う必要もありません。
一方で、発達障害以外も含めて、病気や障害は一般論としてはセンシティブな話です。また、「保護者自身の話」ではなく、「お子さんという、保護者とは異なる個人の話」でもあります。
不登校や発達障害のサポート団体と話すときには、ASDがあること、親として安心したことなどは話しても問題ありません。
その上で、「お子さんのASDについて、誰にどのように話すべきか」については、サポート団体と相談しながら決めていくことをオススメします。
10. ASD(発達障害)が確定することを不安に思う方も
前章とは逆に、「わが子にASD(発達障害)がある」と確定することを不安に思う方もいらっしゃいます。
その不安自体は、否定されるべきものではありません。
しかし、「保護者自身の話」ではなく、「お子さんという、保護者とは異なる個人の話」であることは、意識していただければ幸いです。
確定診断がなくても、「困りごと」へのサポートを受けられる場合もあります。
各種サポート団体では、「診断を受けるべきかどうか」から相談できますので、不安を抱え込まず、ぜひご相談ください。
11. ASDと不登校の関係
ASDが関連して不登校になることは、あります。例えば、次のようなケースがあります。
- 感覚過敏によって、学校にいると過剰に疲れる
- 相手の視点に立って考えることが苦手なので、周囲の人とコミュニケーションが上手にとれず孤立したり、いじめにあったり過剰な叱責を受けたりして、学校が嫌いになる
- 好きなことには精通しているものの、その他のことに対して年齢相応の知識や常識がないため、話の合う友達ができず孤立し、学校に通いたくなくなる
ASDに限らず、「発達障害と不登校」の詳細は、コラム「発達障害の子どもの不登校 関連性や親ができる対策を解説」をご覧ください。次のようなことを紹介しています。(リンク先は、不登校オンラインと同じく株式会社キズキが運営する個別指導塾・キズキ共育塾のウェブサイトです)
- 発達障害と不登校の関連性
- 発達障害の特性別の不登校になる原因
- 発達障害のあるお子さんが不登校になったときに親ができる5つの対策
- 発達障害で不登校になった子どもの「これから」の選択肢
- 発達障害で不登校になった人の体験談
12. ASDや不登校の相談先
ASDと不登校について相談できるところはたくさんあります。以下に例を紹介します。ぜひ、ご相談ください。
■ASDについての相談先
- 発達障害の専門家がいる医療機関(小児神経科・精神科、発達外来など。近くに小児精神科・精神科がない場合や、それらに抵抗がある場合には、かかりつけの小児科医に相談しましょう)
- 小児科
- 学校の担任
- スクールカウンセラー
- 市区町村役所の子育て相談窓口
- 地域の保健センター、子育て支援センター、児童相談センター
- 発達障害支援センター
- 発達障害や不登校の親の会
- 民間の発達障害支援機関
- 発達障害のある子どものサポートを行う学習塾
■不登校についての相談先
記事「不登校のサポート団体・専門家(相談先)の例と探し方を紹介します」をご覧ください。
■そのほかの相談先
Webページ「お悩みのあるあなたのために、相談先一覧をまとめて紹介します」をご覧ください。(リンク先は、不登校オンラインと同じく株式会社キズキが運営する個別指導塾・キズキ共育塾のウェブサイトです)
13. ASD(発達障害)の関連記事
不登校オンラインとキズキ共育塾の、ASD(発達障害)に関連する記事を紹介します。ご興味があるものを、ぜひご覧ください(不登校が関係しない記事もありますが、きっとお役に立つはずです)。
■不登校オンライン
■キズキ共育塾
- 発達障害の子どもの不登校 関連性や親ができる対策を解説
- 発達障害のあるお子さんに親ができる8つのサポート 代表的な困りごとや支援機関を紹介
- 発達障害グレーゾーンの子どもとは? 年齢別の特徴や伝え方のコツを解説
- 発達障害のある子どもにオススメの学習塾 塾選びのポイントを解説
- 発達障害のある人の進路 小学校・中学校・高校別に進路選択のポイントを解説
- 発達障害のある子どもの中学受験 メリット・デメリット、確認事項を解説
- 発達障害グレーゾーンのある中学生に親ができる対応5選 勉強のためにできるサポートを解説
- 発達障害のある中学生の「勉強についていけない」を解決する勉強法
- 発達障害のある子どもの高校受験 親にできるサポートを解説
- 発達障害の子どもが大学受験するときの確認事項・サポート方法
- 発達障害のある人に手厚い大学とは? 見極めるポイントや支援内容を解説
- 「発達障害のある、勉強嫌いな子ども」がいる親ができる対応6選
- 「発達障害のある、不登校で勉強しない子ども」に親ができる勉強サポート法
- 「発達障害のある、勉強についていけない子ども」のために親ができる8つの対応
14. ASDも不登校も、家庭で抱え込まずに相談を
ASD(の特性)についての対策や相談先などは、たくさんあります。不登校についても同じです。
確定診断があってもなくても、またASDに関係してもしなくても、「発達障害や不登校に関する悩みごと」は、専門的な知識のある人たちに相談すると、対策や解決策を見つけやすくなります。
苦労や困難が生じることもあるとは思いますが、過剰に不安にならないようにしましょう。
ぜひ、お子さんやご家庭に合う相談先を探してみてください。