【全文公開】朝起きられなくて学校へ行けない 起立性調節障害から考える不登校
朝起きられなくて、学校へ行けない。このとき、大人はつい「怠けているだけではないか」と考えてしまいますが、そうともかぎりません。起立性調節障害と診断された不登校経験者や専門家の語りから、不登校と起立性調節障害をめぐり、親にできることは何かを考えます。
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不登校とセットで語られることの1つに「起立性調節障害」があります。今回は、起立性調節障害の診断を受けた不登校経験者の語りから、親にできることを考えていきます。
症状、治療法は
一般社団法人日本小児心身医学会によると、起立性調節障害のおもな症状としては「朝起きられない」「立ちくらみ」「頭痛」などが挙げられます。また、治療方法として、水分・塩分摂取による非薬物療法、血圧を安定させる薬による薬物療法のほか、子どもの心理的ストレスを軽減する環境調整などが効果的とされています。他方で、起立性調節障害に悩んだ不登校経験者に話を聞くと、服薬などの薬物療法ではまったく効果がなかったというケースもあります。
必要だったこと
Aさんは中学1年生の秋ごろ、朝、目が覚めると、頭痛や立ちくらみがあり、立つことさえできない状態がお昼すぎまで続いたと言います。いくつかの病院を転々とするなかで、起立性調節障害と診断されます。Aさんが血圧を測ったところ、上が80、下が60前後であることがわかり、血圧を上げる薬が処方されました。しかし、いくつかの薬を試してみたものの、効果を実感できないどころか、手足のしびれなどの副作用に悩まされるようになったと言います。
そもそも、Aさんにとって、朝の起床がなぜつらかったのか。それは、部活内でのいやがらせが発端でした。一番苦しかったのは「起立性調節障害ではなく、学校へ行ける状態ではないのにガマンして登校しようとがんばっていたこと」とAさんはふり返ります。その後、周囲の理解や高校で書道と出会ったことをきっかけに、Aさんの状況は改善。低血圧は変わらずとも、服用することなく、朝早く起きる仕事もこなせているとのこと。Aさんは「私にとって必要だったのは起立性調節障害に関する周囲の理解と環境の変化」であると語っています。
Bさんも、起立性調節障害に悩んだ不登校経験者の1人です。毎朝血圧を測る、よいとされる食事の成分を摂る、寝る姿勢を整える、薬の服用など、効果があるとされることはすべて試したものの、改善しませんでした。Bさんは「どうしてみんなみたいに、ふつうになれないんだろう」と自分を責め続けます。20代になり、そうした気持ちがすこしずつ楽になった背景に「ふつうになることをあきらめた」とBさんは言います。ふつうになるための努力を続けるのではなく、自分の好きなことに時間を使いたいと考えるようになったBさんは、高認取得を目指して動き始めました。
やがて回復へ
長年、不登校の子どもの支援にたずさわってきた臨床心理士・西村秀明さんは、「心を深く傷つけられることや、それに伴い恐怖や不安が増大することによって症状化するものですので、朝起きないからといって無理をさせてはいけません。むしろ、痛手を負った心の傷に目を向けた介抱が必要で、心に安静を取り戻すことができれば、やがて回復していく」と指摘します。
「朝起きて、学校へ行くのがふつう」という価値観は、あたりまえのこととして、子どもにも親にも根づいています。その価値観を、まずは親がすこしずつはがしていくこと。これが起立性調節障害に悩む子どもを支える最初の一歩として大切です。(編集局・小熊広宣)
(初出:不登校新聞587号(2022年10月1日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)