「僕を捨てて」小2で不登校した息子を追いつめた褒める子育て【全文公開】

#不登校#行き渋り#不登校の親

 子どもに対しては、できなかったことよりもできたことを指摘して褒めよう。肯定的な言葉をシャワーのように浴びせて自己肯定感をはぐくもう。そんな「褒める子育て」が流行っています。しかし、「褒めていたつもりが子どもを追い詰めてしまった」ということもあるそうです。本紙編集長が解説します(※写真は本紙編集長の石井志昂)。

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 「褒めていたつもりが子どもを追い詰めていた」と教えてくれたのは、あるお母さんでした。そのお母さんには小学5年生の長男がいます。登校しぶりが始まったのは小2のとき。ある日、玄関で泣き始めてから学校へ行かなくなりました。なんとか登校ができるようにとお母さんは厳しく接したり、励ましたりしましたが、まったくダメ。

 最後の手段として「褒める対応」に徹したそうです。1時間でも、2時間でも学校へ行った日は褒める。教室に入れなくても学校へ行くだけで褒める。学校へ行けなくても宿題をしただけで褒める。「小さな成功体験を積むために」と必死で褒めたそうです。できることを褒めるのが、悪い方向に働くと思う人はすくないでしょう。また、このような手法を推奨する教員や支援者も多くいます。

褒めていたのに、息子は自己否定

 ところが息子さんの状況は悪くなりました。褒められても気分はよくならず、逆に強烈な自己否定感を身にまとってしまったのです。学校へ行こうと思うと、前夜から腹痛に見舞われ、泣き出す。そして、あるとき、こうこぼしたそうです。

 「次に子どもが産まれたら僕を捨ててね」。

 息子さんは本当に捨ててほしかったわけではありません。強烈な自己否定感ゆえに出た言葉です。なぜこうなってしまったのか。それは部分的な登校などができることを「小さな成功体験だ」と思っていたのが親だけだったからです。メッセージの受け取り手である子ども本人は、それらのことを「失敗体験」だと思っていたのでしょう。1時間だけ学校へ行けても、本人は「ほかの時間は行けなかった」と思ってしまう。宿題ができても「学校へは行けなかった」と思ってしまう。「みんなにはできて、自分にはできないということを確認させてしまう日々だった」とお母さんはふり返っています。

 「僕を捨てて」という言葉にハッとしたお母さんは登校させることをすっぱりあきらめます。その後、意識したことの1つが「雑談」でした。親子で何気ない会話をすると、暗かった息子さんがイキイキとしゃべり始めたそうです。

 不登校関係者のあいだでは、以前から雑談の効果が注目されていました。子どもの話を否定せずに聞いたり、子どもが好きなことを聞いてみたりする。それらの積み重ねで子どもが元気になり、進学など次のステップにもつながりやすくなる、と。褒める子育てを否定する気はありませんが、子どもが自己否定感を感じやすいときには注意が必要です。

 臨床心理士・掛井一徳さんは、雑談や対話が「誰にとっても必要な時間」だと言います。自分の身に起きたことを誰かに話すことで気持ちが整理され、よいことも悪いことも「心の栄養」に切り替わっていく。共有することで初めて体験は自分に根付いていくのだそうです。習い事や勉強などの「インプット」につい目が向きがちですが、「話をする」というアウトプットも必要なのです。褒める子育てよりも「聞く子育て」のほうが重要では、とも指摘されています。

無理はせず空いた時間で

 では、聞くことに重点をおいた「聞く子育て」を始めるときは「できる範囲」が大事なんだそうです。料理をするあいだや寝る前の10分間だけは子どもの話を「否定せずに聞く」。また、話をしてくれない子どもに対しては、本人が楽しんでいる動画やゲームを横で並んで見るだけでも効果的なんだそうです。もしよければ「聞く子育て」を実践して子どものようすを見てみるのはいかがでしょうか。(執筆・石井志昂/写真・矢部朱希子)

(初出:不登校新聞570号(2022年1月15日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)



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