不登校のときハマったゲームを語り合う会~ゲームと上手く付き合うコツ~
こんにちは。NPO法人キズキのインターン・亀山です。キズキ共育塾の武田先生、生徒の篠原さんと山本さんは、不登校や引きこもりを経験中にゲームにハマっていました。今回は、そんなゲーマーたちに当時の経験と現在、そして将来を語っていただきました。不登校や引きこもりの人たちにとって、ゲームはどんな存在なのでしょうか。
――まずは、自己紹介をお願いします。
武田:武田健太(仮名)、大学2年生です。
中学校時代にインターネットにハマり不登校になり、高校は人間関係のトラブルなどによって中退しました。その後大学進学を目指しましたが、それまで勉強してこなかった自分を受け入れてくれる塾はなかなか見つからず、やっと見つけたキズキ共育塾に入塾しました。そして講師やスタッフ、家族の応援を得て受験勉強を続けた結果、東洋大学に合格できました。
今は大学で英語と国際関係について学びながら、キズキ共育塾の講師として、かつての自分と同じ悩みを持つ生徒さんを応援しています。
山本:山本智也(仮名)、19歳です。
高校生活がうまくいかず高校3年で通信制高校に転校しましたが、転校後も受験勉強やアルバイトが続かない状態でした。将来を悩み考えた結果、母の勧めもあってキズキ共育塾に入塾しました。現在は多くの人と関わりつつ自分を見つめ直し成長するために、心理学を勉強できる大学を目指し勉強しています。
篠原:篠原大樹(仮名)、僕も19歳です。
高校1年時から人間関係のトラブルで授業を休みがちでした。現役時代の大学受験失敗後は引きこもっていましたが、現在は、大学合格に向けて母が見つけたキズキ共育塾に通っています。小学校6年のときから陸上をずっと継続していて、授業を休んでいるときも部活には出ていました。早く大学に合格して高校の陸上仲間と勝負したいと思っています。
――不登校や引きこもりのときにハマったゲームはありますか。思い入れも合わせて教えてください。
不登校になって、パズドラに50万円課金した
篠原:幼稚園生のときに「ポケットモンスターサファイア」を買ってもらったのが、僕のゲーム人生の始まりです。それからはずっとゲームにハマっています(笑)。プレイした種類は少ないですが、その分1つのタイトルに時間をかけてやり込みましたよ。
中学では本格的にポケモンに没頭し、強いキャラクターの厳選なども始めました。1か月で150〜200時間は遊んだと思います。
中学2年生のときには「パズル&ドラゴンズ」、いわゆるパズドラを始めました。年を重ねるごとにのめり込み、現在も続けています。
一般的な家庭用ゲームと違って、パズドラは運営会社が頻繁にアップデートしてくれるので、どれだけプレイしても飽きないんですよ。
武田:へえ、パズドラにハマっていたんですか。面白いですよね!私も大学受験のとき息抜きに遊んでいました。というか、結構やり込んだかな…。ちなみに、いくら課金したんですか?
篠原:あまり人には言いませんが……、中2から始めて19歳の現在まで、総額50万円くらい課金しました。
武田:50万円!?
山本:総額とは言え、50万円なんて一体どうやって出したんですか?まさか、悪いことしてないですよね(笑)。
篠原:してませんよ(笑)。毎月数千円をお小遣いとしてもらっていましたが、部活動に集中していたので使う用途がなく、余った分をほとんど課金に回していたんです。さらに、移動手段を徒歩にして、交通費分も課金していました。
山本:地道に貯めたんですね…。
手でパズドラ、足でポケモンをプレイした
山本:50万円も課金したなら、プレイ時間も長いですよね?
篠原:はい。一番熱中していたときは、何十時間もぶっとおしで遊んでいました。期間限定のイベントに合わせて、連続60時間プレイしたのが最長だったと思います。そのときは眠らないようにいろいろ工夫しました(笑)。横になるとどうしても寝てしまうので、椅子に座ったり、エナジードリンクを飲んだりしました。
効率を追求するうちに、同時並行でゲームをする手法を発見しました。現在はサブアカウントを作成し、スマホ2台で同時にパズドラをしています。パズドラとポケモンを両方やり込んでいた中学生のときには、手でパズドラをやりながら、足でポケモンの強いキャラクターの厳選(※)をしました。
武田・山本:……手でパズドラをしながら足でポケモン?
【※編注:厳選とは、より理想的な能力を持つポケモンを入手するための調整や作業のことです。時間がかかる上に単調な動きが多く、やり込みの域に含まれます。】
ゲームの中に居場所があってもいい
武田:私の場合は、中学のときはクラスの人たちが始めたのをきっかけに、「アメーバピグ」にハマりました。アメーバピグというのは自分にそっくりなアバター(ピグ)をつくり、チャットなどをして楽しむサービスです。
高校でも「ファンタシースターオンライン2(PSO2)」というオンラインゲームにハマりました。PSO2でもチームと呼ばれるコミュニティに参加してチャットを楽しんでいました。確か、300〜400時間くらいプレイしました。
山本:へえー、ネット上のコミュニケーションって楽しいんですか?僕は以前「スプラトゥーン」をプレイしていたんですが、オンライン対戦中にプレイヤー同士で汚い言葉を使う雰囲気に耐えられず止めてしまいました。
現実世界を忘れられるのがゲームやネットの世界のよさなのに、それが消えていると思うんです。あえてネットの世界でコミュニケーションをする必要ってあるのでしょうか。
武田:学校とは違って、自分より年上の、趣味の合う人と話せるのがネットの特徴の1つだと思います。山本君の言う通りネット上の仮想世界ではありますが、僕にとっては自分の「居場所」のように感じて、のめり込みました。
山本:なるほど、ネットも居場所になるんですか。そう言えば、思い返せば僕もゲームがコミュニケーションの媒介になっていました。
僕の場合は、友達が勧めてくれたり、家族が「ドラゴンクエストシリーズ」で遊んでいるのを見たりしてゲームを始めました。そうすると、友達と一緒にゲームの話で盛り上がったり、家族で一緒にゲームをしたりすることができましたね。今も、兄が家に戻ってくると一緒にゲームをします。最近だとXbox版の「バイオハザードシリーズ」をプレイしました。
あとゲームじゃないですけど、小学生のときから小説が好きでよく読みます。近くの図書館で見つけた本を読んでいました。
辻村深月さんや乙一さんの小説が好きです。特に、辻村さんの『凍りのくじら』にはハマりました。『凍りのくじら』は、人間観察が得意で、その場に応じて自分を作る理帆子という女子の物語です。
ドラえもんの道具が日常のなかに自然に登場したり、他人の個性を「スコシ・ナントカ」という形式に当てはめて表現したりする辻村深月独特の感性というか、世界観が好きなんです。
僕は本を進んだり戻ったりしながら読むので1回読み通すのに時間がかかりますが、それでもこの本は3、4回読み返しています。
本は双方向のコミュニケーションこそできませんが、現実とは違う世界に安心して入り込めるいいツールだと思います。
――ゲームにハマってよかったことや、悪かったことを教えてください。
山本:個人的な考えですが、ゲームは、時間は潰せても何かを学べたり役に立ったりしたことはありませんでした。
でもつらいときに現実から目をそらすにはいい方法かもしれません。不登校になると時間に余裕ができるので、長時間ゲームで遊んでいました。最近は3DS版の「どうぶつの森」をプレイしました。のんびりしていて優しく、癒される世界で、とても気に入っています。
篠原:よかったことは、自分がずっと熱中できるものを見つけたことです。
もちろん勉強をした方が将来の役に立つのかもしれませんが、無気力に何もやらないで時間を浪費するよりはずっといいと思っています。
それから、ゲームは地道にプレイしないと強くならないので、物事を継続する力がついたと思います。僕は「ランクを上げる」という明確な目標を持ちながらパズドラをプレイしていますが、それを達成できると非常に嬉しいし、これからもプレイを継続したいと感じるんです。
加えて、SNS上のパズドラプレイヤーのグループに参加して知り合いができたこともよかったです。自宅や学校にパズドラを好きな人は少ないのですが、同じ趣味を持つ人同士で語り合えるので楽しいですよ。
武田:篠原君同様、心地よい人間関係を築けたことがゲームに没頭した利点だと思います。
チャット上で意気投合した人とは、オフラインで会って遊んだりもしています。最長で6年続いている関係もありますよ。先ほど言ったとおり、学校がうまくいかなかったときの居場所になりました。
あとは、パソコン周りの知識も身につきました。小1のときに初めてパソコンに触れてから、家族がパソコンを使うのを見てきたこともあり、パソコンに抵抗感はありません。チャットで頻繁に使うタイピングや、基礎的な画像編集なんかはできるようになりましたよ。
逆に悪かったことは、一般的な型にはまった生活ができなくなってしまったことです。深夜にゲームをする昼夜逆転の生活を送っていたので、一般的な学校や社会のリズムへ適応できなくなりました。例えば「自分の好きなように生きていい」という意識が働いて、自分の義務を放り出そうとする癖がついてしまいました。人間関係の偏りやトラブルも増えましたね。
山本:武田さんも篠原君も、深夜まで夜更かししてゲームやりすぎじゃないですか?昼遊べばいいじゃないですか(笑)。
武田:今考えればそうかもしれないですね(笑)。
もちろん昼だけプレイすることもできますが、ゲームにログインしている人口は夜の方が多いんです。
特に僕が遊んでいたPSO2では、「チーム」という固定集団での行動が重要な位置を占めるゲームだったので、チームメンバーがログインするのと同じ時間帯にプレイしようと努めていました。
当時を思い返せば、心地よくコミュニケーションできる居場所を逃したくなかったんだと思います。
篠原:毎日ゲームばかりしていて不安は少なからずありますね。僕の場合は勉強時間が減りました。
でも、先ほど話したように自分の成長につながったので、ゲームに熱中することは決して無駄ではないと思っています。
――ゲームにハマってから離れるまでの経緯や、ゲームをプレイしつつ社会復帰と両立するための工夫を教えてください。
危機感から、思い切ってアンインストールした
武田:引きこもっていたとき、久しぶりに友人と遊びました。そのとき一般的な進路を歩んでいた友人から、「今のままじゃ将来危なくない?」と心配されました。
将来が危ないことは自覚していましたし、仲のいい友達が大学でがんばっているのに自分がちゃらんぽらんでいることに情けなさを感じ、大学受験を決めました。
勉強してこなかった自分を受け入れてくれる塾はなかなか見つからず、やっと見つけたキズキ共育塾に入塾しました。
いくら不登校の人を受け入れてくれる塾とはいえ、ゲームばかりやっている自分を入塾させてくれるか最初は不安でした。面談してくれた先生が、「ゆっくりやっていけば大丈夫。」と優しく受け入れてくれたので、心強かったです。
とはいえ、入塾後1か月は引きこもったままの変わらない生活をしていました。
心情の変化は、インターネットで知り合った、当時5年目の付き合いの人の家に遊びにいったことがきっかけです。そこで将来などについてお互い話す中で、「このままではいけない。ゲームで遊んでばかりいるのはこれで最後だ」という気持ちが沸き上がりました。
そのまま勢いに乗って、生活の大部分を占めていたPSO2を思い切ってアンインストールしました。そのおかげで、本腰を入れて受験勉強できるようになりました。
山本:そんなにやり込んでいたゲームをアンインストールするなんて、思い切ったことしましたね!
武田:はい。今までがんばってきた記録が消えてしまうので抵抗は大きかったですが、タイミングよく止められました!
でも、無理にアンインストールしなくても適度に遊ぶこともできると思います。
僕はパズドラなどのスマホゲームも遊んでいましたが、パズドラのデータは消さずに、バイトの休憩や勉強の隙間時間に友人と遊んでいましたね。後はアニメも好きだったので、1日中アニメを見る日をつくってリフレッシュしていました。
メリハリを付けられれば、怠惰で自由に過ごす1日があってもいいと思いますよ。
目標を持つと、勉強もできるようになった
山本:僕の場合は、大学の心理学科に合格するためにキズキ共育塾に通い続ける目標ができたことが最大のきっかけ。
キズキ共育塾に通ってからは学習習慣がつき、自然にゲームから離れるようになりました。
武田さんと篠原さんの前で言いづらいですが(笑)、もともと暇つぶしにゲームを遊んでいただけでゲームが特別に好きというわけでもなかったので。
篠原:目標って大事ですよね。目標や目的を持てるとゲームから離れやすいと思います。
僕は勉強する意味が分からずゲームにハマっていた部分もありましたが、キズキ共育塾に来てからは大学進学という目標ができ、ゲームから離れる見通しが立ちました。
例えば、ある先生との面談で、「ゲームもやっていいし、陸上も県の上位にいるんだから続けよう。その上で、他にも居場所を作ってみたらどうかな」とアルバイトを勧められました。
ゲームに課金するためのお金を稼げれば何でもよかったので、たまたま見つけた工場のアルバイトをしてみました。ところが開始30分で、自分には工場のような仕事が向かないし、興味も沸かないと知りました。仕事にも向き不向きがあるなあと実感しましたね。
その後、「自分のやりたいことを実現するためには、勉強して大学に行くのが『楽』な手段だ」と気づき、真剣に受験勉強を考え始めることができました。
パズドラはまだ続けているのですが、自分が納得できるまで極めた後はペースを緩めようと決めています。今はランクが993で、もうすぐ1000まで上げられそうなんです(笑)。
ランク1000(※)まで達したら区切りをつけ、生活を受験中心に切り替えます。
【※編注:このインタビューののち、篠原くんはランク1,000になりました】
武田:ランク1000を超えている人って確か全体で300〜500人くらいだそうですよ!今までの話から察しはついていましたけど、相当やり込んでいますね。
最初に「パズドラ結構やり込んだ」とか言って失礼しました(笑)。
篠原:ゲームには色々な楽しみ方がありますから、自分が満足できればいいんじゃないでしょうか。
パズドラ1つ取り上げても、パズルが好きな人も、ガチャを引くのが好きな人も、育成が好きな人も、僕のようにランク上げが好きな人もいるはずです。
さっきまでいい面・悪い面について話しましたが、「楽しむこと」こそがゲームにおける一番の醍醐味だと思います。
ゲームに限らず、みんな生活の中に「楽しみ」を持って生きていますよね。そう考えると、無理してゲームをゼロにしなくても、ゲームを楽しみながらも社会復帰はできるはずですよ。
――最後に、ゲームにハマっている不登校・引きこもりの人に向けてメッセージをお願いします。
山本:なんでもいいから、将来についての「ゲーム以外の目的や目標」を見つけてみたらどうでしょう。
「これを勉強したい!」「あの仕事に就きたい!」という前向きな目標でもいいし、「受験勉強はイヤだから就職だな」や逆に「まだ働きたくないから大学受験だな」といった消極的な目標でもいいと思います。目的や目標が見つかれば、適度にゲームから離れて達成へと努力できるはずです。
僕の場合は「大学合格」という前向きな目標でした。
とは言え僕はまだ受験勉強の途中だし、この先どうなるかわからないし、社会に出るのは正直怖いです。でも、「自分のことを見つめ直すために心理学科に進む」と決めました。受験の先にある広い世界を楽しみにして、がんばろうと思います。
篠原:ゲームに限らず、やってみたいことを存分に挑戦してください。自分が納得できるまでやりとおすことが重要だと思います。自信を持てるし、視野も広がりますよ。
納得できるまでは、勉強や通学は計画性を持って適度にこなせば十分ではないでしょうか。やりたいことに納得して区切りがつけば、やるべきことに自然と集中でき、遅れを取り戻せるはずです。
僕はゲームも陸上も不完全燃焼で終わりたくないです。さっきも言いましたけど、まずはゲームに区切りをつけて、受験勉強に集中したいと思います。大学に合格できたら、高校時代の友人やライバルが大学で陸上を続けているので、一緒に陸上をするのが楽しみです。
武田:篠原君と同じく、僕も「ゲームから完全に脱却しなくても社会復帰できる」と思います。
社会復帰のために勉強や生活改善に取り組む必要があることはもちろんですが、「ゲームを完全に断つ」のではなく「ゲームを生活の一部分に置いておく」のが、ゲームとの適切な付き合い方ではないでしょうか。
受験生活はときにプレッシャーのあるつらいものですから、受験生活の中に何か楽しめるものがあったほうがいいですよね。人生はやっぱり楽しまないと(笑)。
最後にもう1つ、人とコミュニケーションを取れる場所は現実世界だけではありません。
ネットでも人付き合いは学べます。居場所は多い方がいいですから、現実世界でつらいことがあったときの居場所として、ネットを使うのもアリだと思います。
――皆さん、ありがとうございました。
不登校や引きこもりから社会復帰までの経緯は人によって様々です。
世間には「ゲームは社会復帰を妨げる」と言う人もいますが、適切な付き合い方ができれば、完全にゲームを手放す必要はないようです。逆に「楽しみ」や「居場所」としてよい機能があることもわかりました。
楽しいゲームライフを送りつつ、目標に向けて前に進めるといいですね。
<※紹介した生徒さんの事例は、記事の趣旨を損なわない範囲で、個人の特定ができないように一部事実を変更しています。>
<※悩みすぎる前に、ぜひキズキ共育塾にご相談ください。ゲームにも理解のある、温かいスタッフ・講師がお待ちしています。>