中川翔子×石井しこう対談「卒業式をもう一度」。不登校だったあの頃を、いま、卒業する。

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「不登校はダメなことじゃない。むしろ、たくさんのことを吸収できる、経験値ブーストタイムだった」。

そう語るのは、タレントの中川翔子さん。中学校時代に不登校を経験した中川さんは、不登校や学校生活で悩みを抱えた経験のある人たちへ向けたプロジェクト、「卒業式をもう一度」を立ち上げました。

このプロジェクトに共感し、サポートするのが、不登校ジャーナリストの石井しこうさん。

不登校経験者である中川さんと、石井さん。それぞれの視点から、不登校、そして「卒業式をもう一度」プロジェクトに込めた想いを語ってくれました。(対談は2025年1月に行われました。以下、敬称略。)

対談者

中川翔子

対談者

石井しこう

■中川翔子 写真について
衣装:ワイルドリリー info@e-toco.com
ヘアメイク:灯(ROOSTER)
スタイリスト:渡邊アズ(likkle more)
写真撮影:矢部朱希子

きっかけは、自身の不登校経験と通信制高校での「2枚の卒業証書」

石井:中川さんが「卒業式をもう一度」プロジェクトを始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

中川:私自身が中学校で不登校になり、卒業式には出ませんでした。その後、通信制高校に通い、そこで卒業証書をもらえた時、想像以上に嬉しかった。しかも、本校とサポート校のそれぞれでもらったので、2枚! このとき、「中学校の卒業式に出られなかったことを気にしていたんだな」と気づいた自分がいました。

今回のプロジェクトでは、3日間限定のフリースクール「空色スクール」を開校します。そこで、参加者同士が語り合い、過去の経験を共有することで、新たな思い出を作ってほしい。

そして、不登校だったあの頃の自分に「よく頑張ったね」「おめでとう」「生きていてくれてありがとう」と伝えられるような、新たな卒業証書をプレゼントしたいと思っています。

石井:新たな「もう1枚の卒業証書」。だから「もう一度」なんですね。

不登校だったあの頃。「人生が終わった」とさえ思った

石井:中川さんは中学校時代に不登校を経験されていますが、改めて当時を振り返って、どんなことがつらかったですか?

中川:小学校では、個性を褒めてくれるとてもいい先生と出会えて、自己肯定感を育ててもらえたんです。

しかし中学校に入ると、スクールカーストが立ちはだかります。私はそのなかで、上手く立ち回ることができませんでした。絵を描いているだけで「気持ち悪い」と言われる、オタクであることを否定される雰囲気に苦しみました。

いじめを先生に相談したとき、最初は「分かってくれた」と思ったんです。でも、実際は全然寄り添ってくれてなんかいなかった。大人に裏切られたと感じ、ギリギリ耐えていた心が崩れて、ついに学校へ行けなくなりました。「人生終わった」とさえ思っていました。

石井:そこから、どうやってご自分の人生を取り戻していったのでしょうか。

中川:通信制高校に通い始めると、だんだん自分の中に風が通っていくようになりましたね。精神的に落ち着く日、また落ち込む日、過去を引きずっている日。一瞬一瞬で変わっていく空の色みたいに、いろんな自分がいました。

好きなことに向かってバーって動き出す日もあったり。思春期の衝動は、自分でも「何でこうなっちゃうんだろう」って思いながらも、抑えるなんて無理ですよね。

本を読んだり、歌を歌ったり、ネットに触れたり、ゲームをしたり。振り返ってみると、すべてが未来の自分のための経験値になっていました。無駄なことなんてないんです。

いつだって、大事なことは10代が教えてくれる

石井:中川さんは、バラエティ番組の企画で高校生活を経験されていますよね。

中川:はい、3日間現役高校生と一緒に過ごしました。

最初はすごく憂鬱でしたね。制服を着て校門をくぐるときの足取りが重くって。大人になっても学校へのトラウマが残っていたなんて、自分でも驚きました。実際は、その学校は絵に特化した高校で、私にとっては天国みたいなところだったんですが。

その高校で、一人の男の子に出会いました。彼は油絵の授業の間、鉛筆で絵を描いていたんです。どうしてだろうと思ってたずねてみたら、中学校時代にいじめで絵を破られて以来、描くことができなくなったと。

それを聞いて、私は上手く言葉を返せなかったんです。大人として空気読めない変な球を返してもいけないし、どうしようって。親にも言えなかったことを話してくれたのに、「そうなんだ」って聞くことしかできなくて。その日は落ち込みました。

ところが翌日、その子が驚異のスピードで油絵とデッサンを両方仕上げていたんです。「ええっ!?」って感じですよ。もう爆裂ブースト進化! 本当に凄い。昨日までと今日とでこんなに変わるのかって。

私は「上手く返せなかった」と落ち込んでいたけど、話やすい友だちとして接してもらえたのかな。「隣(とな)る人(※)」になりたいといつも思っているけど、そうなれたのかな。もしそうだとしたら、嬉しいですね。

※「隣る人」:もともとは、児童養護施設のドキュメンタリー映画のタイトル。いつもベッタリくっついて甘やかすわけではなく、かといって突き放すわけでもない。絶妙な距離感で子どもを見守り、寄り添い続ける存在」のこと。「ただ隣にいる人」つまり「隣る人」。(中川翔子さんの著書『「死ぬんじゃねーぞ!!」 いじめられている君はゼッタイ悪くない』から一部抜粋・編集)

石井:TikTokの「不登校生動画甲子園2024」で受賞した「うどんくん」も、そういう劇的な変化をした一人でしたね。

中川:そうそう。初めて会ったのは、不登校生動画甲子園の配信を行ったとき。

石井:スマブラをやり込みすぎて「俺は敗北を知りたい」なんて言っていた子が、半年後には激変していました。「お金を稼げるようになりたい」と言って、積極的にいろんなことを自分で調べて、学ぼうとしています。

彼の動画作品は、写真を繋いで自分を振り返って「あの時に不登校という決断をしてくれてありがとう」という内容でした。それって自分との対話になったんじゃないかなと思うんですよね。

中川:「自分との対話」。早いなあ。私は黒歴史として封印していて、向き合うことを拒否したまま気づいたら20代半ばになっていましたから。早いですよね、今の10代って。リアルタイムで悟ってる。

不登校は「終わり」じゃない。信じて、隣(とな)ってあげてほしい

石井:中川さんご自身の経験から、不登校の子どもたちの親御さんに伝えたいことはありますか。

中川:「不登校」という言葉が、私が不登校だった頃に比べてよく聞かれるようになって、メディアもいろいろなメッセージを発信してくれています。

でも、親御さんは子どもとどう接していいか分からないとか、この先どうしようとか、不安だと思うんですよね。だけど今悩んでいる子を信じて、隣(とな)ってあげてほしいです。

「不登校になったから終わった」なんてことは、全然ないです。大丈夫なんです。自分のことを振り返ってもそうですし、石井さんもそうだと思いますが、不登校になってから「あ、なんかやろう」って動き出した日があったはず。さっきの10代の2人もそうだった。それぞれのタイミングで、「これやりたい」と思う日が来ます。

昼夜逆転、ゲームしかできない、勉強はやる気が起きない。そうなることも多いじゃないですか。私もそうでした。だけど、きっと「なんとかしなきゃ」「なんとかしたい」という火は、静かに燃えているんですよね。

不登校のお子さんが何もしていないように見えても、今は自分の命を救ってくれるモノたちを見つける時間、蛹(さなぎ)として栄養摂取してる最中なんだと思います。

一緒に笑ってくれる母がいてくれたから

石井:お母さまは、中川さんの不登校について、どのように考えていたのでしょうか?

中川:『死ぬんじゃねーぞ!!』っていう本を書いた時、母に渡したんです。そうしたら、「あんたこんなこと思ってたの!?」ってびっくりしていて。「知らなかったの?」って私もびっくりです。話したつもりでいたんですよね。

通信制の高校を見つけてきてくれたのは母だったんです。母は私が不登校になった理由を知らなかったから、ただの怠け者だと思っていたかもしれないですね。でも、絵を描く道具や漫画は惜しみなく買ってくれましたし、「勉強しろ」とは言わないでいてくれました。

母は夜に仕事をしていたので、帰宅するのは午前3時。そこから寝るまでずっと、私の話を聞いてくれました。一方的に私が喋り続けるのを聞きながら、一緒に笑ってくれました。「隣(とな)る」という言葉は知らなくても、母は隣れる人だったんですね。

一番つらい夜を越えて。「卒業式をもう一度」プロジェクトへの想い

石井:最後に、「卒業式をもう一度」プロジェクトに込めた想いを改めて教えてください。

中川:「夜明け前が一番暗い」って言いますよね。実際、夜明けが近づいてくるのが怖かったし、嫌でした。そして、「ああ、また朝が来ちゃった」って絶望していました。
でも、一番つらい暗闇を抜けた人同士が、今、出会える。これは本当に凄いこと。当時

自分がびっくりするようなことが、未来に起きてるんです。

一人ひとりが、一番つらかった夜を卒業できている。だから、「生きていてくれてありがとう」の思いを込めて、卒業証書を手渡したいです。

「卒業式をもう一度」プロジェクトは、不登校だったあの頃を、いま、卒業する。 そして、未来に向かって、新たな一歩を踏み出すためのプロジェクトです。

※ 本記事は、中川翔子さんと石井しこうさんの対談をもとに再構成したものです。

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