作家・燃え殻さんインタビュー|生きづらさと向き合う① 生きづらさはmust
日常に現れる生きづらさや孤独、不安、そしてその中に差し込む小さな「光」。そうした揺れを描き続ける作家・エッセイストの燃え殻さん。
不登校オンラインでは、燃え殻さんに「生きづらさ」をテーマにインタビューしました。全6回の連載でお届けします。
第1回のテーマは「生きづらさは必要なもの。ちょっとあった方が生きやすい」。 「生きづらさはマスト(must、必要なもの)」と語る燃え殻さんに、その理由や、不安や孤独との付き合い方を伺いました。
目次
生きづらさは全員にとってmust。生きづらさがない人なんて、この世にいない
―「生きづらさ」という言葉を、燃え殻さんご自身はどう感じていますか?
燃え殻(敬称略。以下同様):僕自身、「生きやすいなー」と思ったことは1回もありません(笑)。思ったことあります?
うまくいっているように見える人も、「どう、生きやすい?」って聞いてみたら「いや、生きづらいでしょ」と答えると思うんですよ。
ただ、生きづらさは、全員にとってマスト(must、必要なもの)だと思っています。
自分にいいことも悪いこともあったときに、「どう考えても、ずっと生きづらいだろう」ということを下地においておいた方が、あまり調子に乗らないし、あまり落ち込まないだろうからいいと思うんですよね。
ずっと体の調子がよくて、周りの環境もよくて、仕事もよくて、天気もよい…そんなことはないじゃないですか。「生きづらいなー」「ついてないなー」というくらいの気持ちでいいんじゃないかと思いますね。そんなに毎日ついていると、逆に怖いじゃないですか。ちょっと生きづらい方が、逆に生きやすい。
また、生きづらさだけをピックアップすると、「ものすごく生きづらくて、オレかわいそう、あたしかわいそう」になります。でも、実はうっすらみんな「生きづらい」と思っていて、でも口に出す人と出さない人がいる。そう思うと、処理できるようになります。
繰り返しですが、僕はずっと生きづらいです(笑)。で、その生きづらいということをエッセイとか物語に書いてお金をもらったりするので、そういう意味でも生きづらくていいんだと思うんですよね。
不安は「信号」。不安がある方が注意深く生きられる
― ご著書を拝読しますと、燃え殻さんも周囲の方々も、大人になっても消えない不安や孤独をおもちのように拝察します。燃え殻さんは、不安や孤独とどう付き合ってきましたか?
燃え殻:全くの手ぶらよりも、荷物を少し持っている方が歩きやすかったりしませんか?それと同じで、不安も少しもっている方が生きやすいのではないかと思います。
「これからどうなるんだろう?」「あれイヤだな」「嫌だったなー」とかをちょっともっている方が、重しになってバランスが取れます。
また、不安には、信号みたいな役割もあります。昔ちょっと嫌だったこととか、将来への漠然とした不安をもっていた方が、注意深くなれます。
ずーっといろんな交差点がたくさんあるのに信号がないという状況は怖いですよね。不安という信号があるからこそ、「危ないかも」と思って生きることができます。「不安がない方がいいんだ!」というのは「信号なんてなくていいんだ!」というのと同じです。
過去の失敗を心に刻んでおくことで、人生全部を意味に”する”ことができる
燃え殻:過去の失敗による不安も後悔も、ダメなものではありません。失敗を覚えておけば、同じことを繰り返しません。
僕はブルガダ症候群という病気のために不整脈があって、症状が出ると毎回倒れ込みます。最初は前のめりに倒れて出血したりしていたのですが、次第に、事前に「やばいな。あのときに近いな」というのが分かるようになってきました。
そうすると、「やばいな」と思ったときに「あ、倒れ方考えよう」という余裕が生まれます。頭を打たないような体勢をとれますし、最初から倒れておくこともできます。昔の失敗を覚えているから、対処ができるようになったわけです。本当だったら病気があることはイヤなんですけど(笑)、あるのでそれは前提として考えています。
過去の失敗がトラウマになっていても、生きていくうちにそれはだんだん薄らぎます。それはそれでいいことかもしれませんが、「二度と繰り返さないようにしよう」と墓石のように心のなかに刻んでおく方法もあるということです。
そうすると、周りの人や環境や自分の生活のことを考える余裕ができるようになります。失敗や傷に、やっと意味が出るようになります。「人生、全部に意味がある」と言われると「そんなことねーよ」と言いたくなるのですが(笑)、自分で「全部を意味に”する”こと」が重要だと思います。
孤独もmust。孤独だからこそ人と繋がれる
― 孤独については、どのようにお考えでしょうか?
燃え殻:僕は、本を書く仕事をしています。(本は一人で読むので、)つまり僕は、「人を孤独にする時間」を作る仕事をしているということです。
孤独も、悪いものとは限りません。使い方次第です。
孤独のなかでは、誰の邪魔もノイズも入らずに、自分を見つめ直すことや、一人で考えることができます。生きづらさ同様にマスト(must、必要なもの)です。
また、孤独を通じて人と繋がることもできます。
みんなといるなかで孤独をふと感じて、寂しいと思うこともあるでしょう。でもそれも、みんなあるじゃないですか。そして今は、そういうことを発信できるSNSなどのメディアがあります。
「俺もそう思う」「私もそう思う」という人はたくさんいるので、孤独を発信してキャッチして、孤独で人と繋がればいいと思います。
極端な例ですが、「死にたい」と書くと、「私も」「俺も」という人と繋がれるじゃないですか。
僕は今52歳です。僕が子どものころの「死にたい」という言葉は、そのまま「死にたい」でした。でも今、そうした言葉をSNSで呟くと、「僕も」「私も」という人たちが絶対出てくるんですよ。
極論ですし「それでいいのか」という話ではありますけど、それは別としてそれでも繋がれる。「孤独だよ」ということで人は繋がれる、孤独を知っているからこそ繋がれるということです。
不安や孤独は、飼い慣らすことができる
―燃え殻さんご自身は、孤独や不安とどのように付き合っていましたか?
燃え殻:僕の前職はテレビの美術制作で、テレビ番組のテロップやフリップなどを作成していました。
テレビという華やかな世界にいましたが、収録が終わった後に一人になれる時間がありました。また、テレビの出演者も制作者も実は孤独だということも理解しました。
そういう経緯もあって、僕は孤独を少しずつ飼い慣らせるようになりました。
「孤独が怖い」とか「不安に押しつぶされる」と感じるのは、飼い慣らせていないからでしょう。孤独や不安はなくならないけれど、飼い慣らすことはできるはずです。
「よしよし、またいるのかよ。お疲れ」というような感じの扱いにしていくのが重要です。「どうしよう、まだいる!怖い怖い!」じゃなくてね。
テレビの深夜番組やラジオ番組など、孤独を抽出できるメディアが必要な人もいる
燃え殻:テレビに出ている人が視聴者に呼びかける言葉は、「テレビの前の皆さん」ですよね。 テレビは多くの人たちを相手にしています。
ただ、「テレビの前の皆さん」のなかには、そんな番組ばかり見ているとつらくなる人たちがいます。すると、孤独を抽出できるメディアが必要になります。
グラデーションはありますが、テレビのなかでも観ている人の少ない深夜番組を見る、深夜ラジオを聴き始める、古雑誌を読む、映画を見るなどを始めるんです。この不登校オンラインもそうしたメディアの一つかもしれませんね。
孤独は、「皆さん」向けではないものから抽出できるわけです。ラジオの呼びかけは、「ラジオの前のあなた」です。「皆さん」とはあまり言いません。
たまに「このラジオ番組、自分しか聞いていないんじゃないか」と思うこともあります。そんなわけないんですけどね(笑)。でもそういうラジオ番組は、そういうふうに思える内容だからガーンと刺さるんですよね。
パーソナリティのみっともない話も聞けるし、みっともないことも思い出せるし。そして、聞いていくうちに「でも、なんでも言っているわけではなくて、言えないこともあるんだろうな」ということも分かります。
燃え殻さんのインタビュー:全6回のリンクはこちら
※今回の記事は第1回です。
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