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精神科医・松本俊彦先生が“不登校の親の悩み”に答えます(3)〜「自殺や加害の可能性がある」と言われました〜

#不登校#行き渋り#松本俊彦#精神科

2025年10月9日(木)、「学校休んだほうがいいよチェックリスト(※)」を運営する3団体が、精神科医・松本俊彦先生をお招きして、無料のオンライン講演会を実施いたしました。

テーマは「不登校のプロと精神科医松本俊彦先生が答える、不登校のお悩み解決スペシャル」。

オンライン講演会での松本先生からのメッセージと、不登校のお子さんがいる親御さんからお寄せいただいた質問へのご回答を、全3回に分けてご紹介します(一部の表現は、不登校オンライン編集部が編集を行っております)。

※学校休んだほうがいいよチェックリストとは
子どもが「学校休みたい」「学校行きたくない」と言っているけど、休ませていいのかな?と心配になっている保護者の方に向けたチェックリストです。簡単な質問に答えるだけで、精神科医からの回答結果が届きます。運営は、不登校ジャーナリスト・石井しこう、好きでつながる居場所「Branch」、不登校の子のための完全個別指導塾「キズキ共育塾」の3団体が行っています。

 

松本俊彦

 

中里祐次

 

伊藤真依

 

石井しこう

質問7:完璧主義な息子…。どうすれば認知を変えることができますか

石井:
完璧主義な息子さんのお話です。中1男子のお母さんです。

中学1年の長男が完璧主義で、生真面目で、ズルは許せないというところがあります。1日でも寝坊したら、もう僕は早起きができないと言い、宿題が終わっていないから学校へ行けないと言い、忘れ物がないかもずっと気にしています。私は、プライドを捨てて、できない自分でもいいんだという認知になれば楽なのになと思って、適当で大丈夫だよと声掛けしていますが、なかなか認知が変わりません。私とは正反対の息子。どうすれば認知を変えることができるのでしょうか?

松本:
やっぱり、完璧主義の子たちほど不登校になりやすいですしね。完璧主義で診察室に現れる子たちもいます。最終的には、完璧主義をだんだん手放せるようになっていく子たちも結構います。どういうプロセスで治っているんだろうな?

石井:
自分に対して、NOをすごくたくさん言っているんですよね。「これじゃなきゃダメだ」「そういう自分でなきゃダメなんだ」と言っていますよね。これは、思春期だからなんでしょうか?不安が強いからなんでしょうか?

松本:
基本的には、不安がすごく強いんだと思うんですよね。「ありのままの自分」じゃ絶対ダメで、そこからつま先立ちして、それも精一杯もう限界までつま先立ちした状態で、やっと届くところを見せないといけないという感じになっているんですよね。

「『普通の自分』では絶対に平均以下で、ダメなんじゃないか」という不安があると思うんですよね。

石井:
じゃあ、周りから例えば「適当でも大丈夫だよ」みたいな声掛けをすると、嬉しい子もいるかもしれないですけど、「今の自分を否定された」と思うかもしれないですよね。

松本:
そうだと思うんですよね。だから、彼らがダラダラしているところを褒めるっていうことをしていかないとダメなんじゃないでしょうか。一番気を抜いているところで、「なんかその感じいいね」というのを言っていかないといけないですよね。

石井:
そういう子たちが完璧主義を手放すプロセスは、見えづらいものでしょうか。

松本:
見えづらいですね。「気づいたら前ほど完璧主義じゃなくなっている」というか。その場でリラックスできるようになってからなんでしょうね。

例えば、思春期の女の子では、バリバリにメイクして診察室に来ることもあります。ただ、「いや、ここ病院だし。あなたのライブステージじゃないから、そんなに化粧して来なくていいのに」「またコンタクトのレンズの色が変わっている」みたいな感じの子も、リラックスしてくると、ジャージで来るようになります。

そうなっているプロセスには、「格好悪いところを見せても、ダメなところを見せても否定されない」というのをどこかで彼らが感じてくれることが必要なんでしょうね。

その過程の中で、学校に行く行かないで困っている子たちに対して、我々がどんなふうにメッセージを伝えたら分かってくれるんだろうか?と思ったりもします。

石井:
「自分はダメだ」の否定が多かった伊藤さん(第2回参照)は、それでも適当になってきているんだと思いますが、いかがでしょうか。

伊藤:
全部が当てはまりますね。私もかつては完璧主義でした。

小中学生の頃は、The学級委員長って感じだったんです。「皆から『完璧だ』と見られていないといけない」という完璧主義があったんですね。

でも、「実際は適当だし完璧な人間じゃない」ということを自分だけが分かっていて、その化けの皮が剥がされるのが恐ろしくてしょうがないみたいな。

例えば、教室に給食セットを洗っていないまま置いてきたことがあります。それは、学級委員長の私がやっていたらすごく恥ずかしいことなんです。それを「ちょっと忘れたから取りに来ました。えへへ」みたいなことができなかったんですね。

だから、取りに行かなきゃいかない。でも、それがバレたらすごく怖い。なので、母と一緒に3時間くらい泣きながら(膠着状態で)校庭にいたというエピソードがあります。

今の私は完璧主義では全くないと思っています。完璧主義が変わったプロセスは、私は完全に経験ですね。「ちょっとミスしたところで、人は私に失望しない」ということを少しずつ経験してきたんです。完璧主義について、誰に何を言われても全然響かなかったんですが、「経験した」ということが私の中で真実となって、今の私を作ったのかなと。

松本:
今の話を聞きながらボンヤリ思ったのは、私たち大人は、ともすれば子どもたちに自分の子ども時代の艱難辛苦を乗り越えて成功した話をしがちなんですけれども、話さなきゃいけないのは失敗談なんでしょうね。

石井:
そして、伊藤さんの話では、学校で給食道具を取りに行けずに泣いていたときにお母さんが一緒にいたということですよね。「困りながら一緒にいる人が、そこにいた」っていうことも大事な一歩ですね。

質問8:息子について、医師から、「夫からの精神的虐待の影響で、自殺や加害の可能性がある」と言われました

石井:
「心が安定するには、どうしたら?」という、小3の母親の方からの質問です。

息子は小学校2年生の時に体調を崩し、そのまま学校に行かなくなってから1年が経ちます。不登校になってからは、自傷や私への暴力など、非常に辛い日々が続きました。

小児精神科で受診したところ、お父さんからの精神的虐待の影響です。虐待を受けた子どもと同じ症状です。この子は、自殺するかもしれません。お母さんを刺すかもしれないし、お友達に危害を加える可能性があります。そして、入院になることもありますと告げられました。

その言葉で、私はお先が真っ暗になったように感じ、不安に押し潰され、体調まで崩してしまいました。医師からは児童相談所に通報レベルと言われ、児相への紹介状を渡すよう指示も受けました。

現在、息子は、平日はほとんど引きこもり、二次障害のように不安だけが強くなっています。危険な自傷や他害は減りましたが、勉強など努力が必要なことや将来の話をすると、人生をやめる。この世からいなくなる。死ぬと口にします。

私は不安が多いからこそ出てくる言葉なのだと考えていますが、このまま毎日不安な状態で過ごすことで脳や心に悪い影響が出ないかと心配しています。また不安を和らげるために薬もいくつか試しましたが、効きすぎてフラついたり、眠ってしまったり、別の薬に変えても1ヶ月飲み続けても効果は感じられませんでした。

家庭は少しでも環境を良くしようと夫婦で話し合いながら努力は続けています。休日は、なるべく友達と遊ぶ機会を作り、平日は訪問看護などを利用するなど、息子の心が少しでも安心するよう取り組んでいます。

このような状況の中で、息子に今できる治療や支援。また親の私たちができる対応について、松本先生からアドバイスをいただければ幸いです。

松本:
小学校3年生で、こういう問題が出ていると、親御さんはすごく不安でしょうね。その気持ちは、よく理解できます。

私はこの方を診察したわけでもないし細いなプロフィールが分かっているわけではないので、一般論としてお伝えします。

いろんな問題が早く出た子のほうが、20歳を過ぎた後にいい感じの仕上がりになるなと、実は思っています。いろんな人の手が入って、いろんな嵐が吹き荒れるんだけれど、「あのときのあれって何だったんだろうね?」というときが来たりするんですよね。

むしろ、小学校、中学校、高校と優等生だったんだけれども、大学に行ってから、あるいは、社会人になってからいろんな問題が出てきた人のほうが、治療がすごく大変です。

早い時期にこういうふうになることによって、人に対する信頼感を0から再構築できたりします。そして、自分の嵐に親御さんたちも苦労しながら付き合ってくれたプロセスがあります。だから、大人になったときには劇的に変わっているということは、私は結構体験しています。

いま大事なことは、細々とした達成ではなくて、とにかく死なないことです。そして、ガチャガチャしながらも自分の意見が尊重されるということを体験したり、楽しい時間や楽な時間が少しでも多くなること。ここを目標に付き合っていったらいいかなと思います。

ただ、やっぱりこれは長丁場です。年を取って振り返ってみると、あっという間の月日のように感じることもありますが、現在進行形ではすごく長く感じるはずです。この長丁場に親が耐えるのが大変なんですよね。

まず親が孤立しないようにして、親自身が安定するようにしましょう。「親の不安をどこで吸収してもらうのか?」「親のサポーターっているのか?」ってことなんです。

同じ体験をしている親御さん出会うことで、「お宅もそうなんですか」「うちだけじゃないんだ」「嵐のような時期があったけど、いまはこんな感じなんです」なんていう話をすることで、ちょっとだけ希望を分けてもらえたりします。

そのために、不登校など、若者や思春期の問題で困っている親御さんの家族の会にぜひ繋がってほしいです。親が安定して、親の笑顔が増えると、子どもの笑顔も増えるというメカニズムがありますので。

皆さん、どうですか?

中里:
松本先生のおっしゃる通りかなと。お子さんと保護者さん、どちらも孤立しないように。

このご相談では、「お父様からの精神的虐待があって」という過程がありました。お父様とお母様は、今は話し合われているということです。

お父様とお母様と両方相談して、お子さんが虐待を受けないようにして、お子さんがやりたいことが自由できる安心感のある居場所をご家庭の中でまず作っていただく。

そうしつつ、保護者も孤独にならないように、同じような経験をしている不登校の親同士で話し合ったりとか、共感し合える場所を持っていただいたりするのがいいんじゃないかなと思います。

石井:
楽しい時間、楽な時間をどれだけ手に入れられるか。その時間を積み重ねることが何よりも大きいのかなと感じております。

松本:
親御さんの立場からすると、先が見えなくて焦るし不安になるしで、つい強引に力任せに対応してしまうっていうこともよく分かりました。

親御さん自身が、「こういった子たちって将来どうなるんだろうか?」というデータベースが不足している気がするんですよ。いろいろ情報を集めてほしいし、同じ立場の親御さんとも繋がってほしいなと思っています。

専門家ともつながってほしいですね。専門家によって言うことが違ったりとかして、それでまた不安になるんだろうなとは思うんですけれども。大事なことは、とにかく「数」を聞くことかなと思いますね。

質問9:勉強を拒否する我が子。強めにうながしてもいいでしょうか?

石井:
「勉強まで拒否、強めに促していい?」という、中学3年生のお母さんからの質問です。この質問は、松本先生ではなく、キズキ共育塾の伊藤さんが回答します。

子どもは現在、不登校ですが、中学校ではリモート授業を受けることや居場所への通級で登校扱いをしてくれるそうです。しかし、子どもは、それすらしようとしません。これは強めに促していいのでしょうか?学校を休むのは構わないけど、勉強しないのは認めないよと常々伝えています。子どもは、ASD、不安が強い子です。小4から腹痛や吐き気が出て、不登校し、現在は、ほとんど登校できていません。

伊藤:
私たちキズキ共育塾にも、同様のご相談はすごく多いです。大人のお母様、お父様の視点からすると、完璧主義だったり不安感が強かったりするのなら、なおさらじゃあ勉強すればいいじゃんと思うかもしれません。

でも、親御さんがいない場で、お子さん本人に「どうして勉強に対して不安があるの?」みたいなことをヒアリングすると、大体「今更やってもどうせ遅いんじゃないか」「できない自分に直面するのが嫌だ」などが返ってきます。

「できない自分に直面する」などの場面では、自分の心をすごく傷つけることになります。なので、その傷つきから自分を守る手段として、いったん勉強をシャットアウトしているお子さんが多いんだという傾向が、今までの不登校相談から見えてきました。

で、「そういった場合、どういう方法があるかな?」と考えると、「今から自分が少しずつ積み上げていっても、遅すぎるなんていうことはない」みたいなことを経験で分かっていく必要があります。

そのためには、劣等感を抱かないでいられる第三者・場所を見つける必要があります。

劣等感を抱かない相手をどう見つけるか?って考えたときに、例えば、スーパーマーケットで親といるときに学校の友達と会って、その友達とちょっと騒いだりしているところを親に見られたらちょっと恥ずかしい、みたいなのが、私は結構あります。

あるテリトリーにいるときの自分を、違うテリトリーの人に見られるのが恥ずかしいということでしょうね。

なので、勉強が分からないってことをすごく恥ずかしいと感じるんだったら、「勉強のことだけを見る人(=勉強だけのテリトリーの人)」「分からないということを素直に言える場所」を見つけると、自分のことをダメだなと思わずに少しずつ積み上げていくことができます。

ご質問に戻ると、強めにうながす、無理矢理勉強しろと言うのは違うのかなと思います。ただ、長期的な自立を考えると、勉強に接点を持っておくことはすごく大切です。

その上で、「何が今、勉強の妨げになっているのか?不安に感じる要因になっているのか?」ということをしっかり分析して劣等感を減らしていく工夫は、いろいろあります。

松本:
そういう意味では、親とか兄弟に勉強を見てもらうのは、最悪なパターンになりかねないってことですね。

石井:
ちなみに私は最終学歴が中卒なんですが、本日お聞きになっている皆さんは、「石井は学習の遅れがあるな」とは感じなかったと思うんですね。

勉強の遅れは不安になるかと思いますけれども、「不登校を経ても、勉強だけは本当になんとかなる」というのは、すごく思います。

 

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