「原因を取り除けば再登校すると思っていた」不登校した娘の対応で母がしてしまった失敗から得られた気づき【全文公開】
「生涯かけてこの子を守る」。中田早樹子さんが不登校に苦しむ娘さんに対し、このように思えるまでには、たくさんの葛藤がありました。生活リズムを整えるため、スマホやゲーム機を取り上げることもあったといいます。「娘の不登校から、親も自分を愛していいのだと教わった」と語る中田さんに、転機のきっかけなどを書いていただきました(※イラスト・今じんこ)。
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次女が不登校になったのは、中学に上がり間もないころ、人間関係のトラブルがSNS上へと発展したことがきっかけでした。朝になると「頭が痛い」、「お腹が痛い」と学校を休むようになりました。
そのころ私は学校へ行くのがあたりまえという認識だったので、嫌がる次女を無理やり起こしては、学校へ行かない理由を問いただしました。
当時、私は勤めに出ていて、次第に遅刻や欠勤が増え、勤務先の上司から注意を受けるようになりました。事情を説明しても理解を示してもらえず、追い詰められた私は、「どこでつまずいてしまったのだろう」とこれまでの子育てをかえりみました。
次女が保育園のころは、ちょうど東日本大震災のあとで、夫が単身赴任中のワンオペ育児でした。元々計画を立てるのが苦手な私は、時間的にも精神的にも余裕のない毎日を送っていました。職場の人間関係のストレスで心もすり減り、幼い子どもたちを叱ってばかり。ふと鏡に目をやると、そこには険しい顔をした自分の姿がありました。子どもたちはどんなに心細い思いをしたことでしょう。そんな過去を心から悔やみました。
それでも私は、子どもが抱えているものを取り除きさえすれば「元通り」に学校へ行くようになると考えていました。まずは生活リズムを整えるのがよいと考え、夜更かしをさせないようにゲーム機やスマホを取り上げました。それがこの子のためになると信じて疑わなかったのです。
その後次女は、遅刻をしながらも学校へ通い続けました。2年生へ進級すると同時に運動部に所属し、登校できる日も増えていきました。しかし「不登校に逆戻りしてしまうのでは」という不安は消えず、綱渡りのような状態が続きました。私は「不登校」に関連する記事を読みあさり、「不登校改善プログラム」、「3週間で登校するようになるメソッド」など、今思えば、ばかばかしいことですが、ワラにもすがる思いでした。
無理やり登校 なんの意味が
2年生の夏休み明けに新型コロナに感染して以降は日中ずっと寝ているようになり、学校へ行かなくなりました。次女の苦しそうなようすを見るうちに、「無理やり学校へ行かせることになんの意味があるだろう」と考えるようになりました。次第に私のなかの迷いが消えていくのを感じました。
担任の先生との面談で「もう登校を促すようなことを言わないでほしい」と伝えました。学校に来ていないから勉強が分からなくてあたりまえ、みんなのなかに入れなくても仕方ない、という学校からの無言の圧力に、次女は苦しんでいると思ったからです。このとき、腹が決まったというか、生涯をかけてこの子を見守っていく、そしてもうほかの人と比べる必要はないと心に決めたのです。
その後中学3年生になり、一時は登校し修学旅行にも参加したものの、ふたたび不登校に。その代わり、週に1度のペースで教育委員会の支援センターへ通い、学校の配慮で実力テストは別室で受けられるようになりました。自宅では好きな絵を描いたり歌を歌ったりしてすごし、1日中寝ていることはほとんどなくなりました。食事の用意やお菓子づくりをすること、好きな映画を観に1人で出かけることもあります。本人いわく「自分は明るい不登校」。
不登校が始まったころ、私は「母親が子どもの犠牲になるのは当然」と自分に言い聞かせ、ひとりで苦しみを抱えていました。あらためてふり返り、自分にも相当な無理を課していたと気づきました。子どもの不登校を経験して学んだのは、自分をいたわることの大切さです。過去の自分を客観視できるようになった今、健全な人間関係を築くために大切なのは自分を愛することだと気がついたのです。
次女はこの春から定時制の高校へ進学する予定です。去年の今ごろは人間関係を築くことへの不安が先立ち、高校の卒業資格さえ得られればよいと考えていました。通学することをためらっていた次女ですが、不登校の期間をふり返り、社会のために自分にできることはないか、他者に認めてもらうにはどうしたらよいかという「自我」が芽生え始めたように思います。
これから新しい環境へ進む次女へ伝えたいことは、自分の考えや気持ちを大切にし、失敗を恐れず前に進んでほしいということ。本当の幸せとは、誰かの物差しで測るのでなく、自分自身が知っているものです。あなたもいつかきっと、心の底から湧き上がる情熱に身を包まれる日が来るでしょう。あなたの特性は弱点ではなく強み。自分を信じ、「自分なんか」ではなく、「自分だからこそ」できることを見つけ、しなやかに生きていってくれることを願っています。
(初出:不登校新聞624号(2024年4月1日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)