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【全文公開】あなたの眠れぬ夜に一冊の本を ひきこもり読書のすすめ  第3回『新 13歳のハローワーク』(村上龍)

#不登校#行き渋り

何をしていても悲しい。誰とも話したくない。そんなときでも、本を開けば、これまで出逢ったことのない世界、まったく見たことのない景色が広がっているかもしれません。不登校経験者である書籍編集者・ライターの藤森優香が、いま学校に行っていない人・学校が苦手な人におすすめしたい本を紹介する連載「ひきこもり読書のススメ」。最終回では、作家・村上龍著『新 13歳のハローワーク』を紹介します。

藤森優香のプロフィールを見る
土橋優平

藤森優香(ふじもり・ゆか)

ライター・編集者。ひきこもり期間中、読書で現実逃避をする術を身につける。現在は不登校オンラインでの執筆のほか、教育・ビジネス・実用関連の媒体で執筆している。趣味は、恋愛リアリティ番組を見ることと、村上春樹の登場人物のマネをして過ごすこと。

「宇宙飛行士」から「マタギ」まであらゆる仕事が掲載

今回紹介するのは、村上龍著『新 13歳のハローワーク』(幻冬舎、2010年)です。

「いろいろな職業が載っている本でしょ」とご存じの方も多いかもしれません。

人気の職業から、「看板職人」「腹話術師」「マタギ」「インペグ屋」「シナリオデベロッパー」といった珍しい仕事、聞きなじみのない仕事まで、あらゆる仕事の内容と、その仕事に就くにはどうすればいいか、どのようなスキルが必要なのかなどが、村上龍氏ならではの視点でリアルに記されている「職業図鑑」です。

2010年に発行された新版では、2003年の旧版に89の職種が追加されています。

新版では、「国語」「数学」「理科」……など教科別に職業がカテゴライズされていますが、「5教科に興味ない」という人も大丈夫です。「音楽」「美術」「技術・家庭」「保健・体育」のほか、「道徳の時間、眠くならない」人向けの職業までちゃんと掲載されています。

それだけではなく、「休み時間、放課後、学校行事が好き・ほっとする」人に向いている職業や、「何も好きじゃない、何にも興味がないと、がっかりした子のための特別編」まで収録されています。

多様な選択肢で未来が楽しみに

私がこの本を今回おすすめしようと思った理由は、単純に自分が中高生のころにこの本に出会っていたら読んですごくワクワクしただろうな、と思ったからです。

不登校になる前、まだ毎日楽しく学校に通っていた中学1~2年生のころ、学校の教師や親、親戚の人など、あらゆる大人に「なぜその職業に就こうと思ったのか」「仕事のやりがいと苦労」などを聞いて回っていた記憶があります。自分の将来について、少しずつ考え始めていたのだと思います。

周囲の大人へのヒアリングによって、学校の先生や、会社員をしていた親の職業については知識を得ることができましたが、それ以外の職業について知る機会はほとんどありませんでした。

この本には、会社に属さない働き方や、初めて聞く職業もたくさん掲載されているので、こんなにも多くの選択肢があるのかと未来が楽しみになります。

日常では出会わない人の人生を想像しよう

「職業が知りたい!」という動機でなくても、読み物として楽しめるのが本書のおもしろいところ。書かれている職業のほとんどが現在もリアルに存在しているので、その職業に就いている人の人生を想像して「こんな生き方があるのか」と驚くこともあります。

例えば、山で狩猟をする「マタギ」の説明は次のようなもの。

クマやカモシカなどを狩るマタギは15歳くらいから勢子(セコ・獲物を追い立てる役)などをしながら修業を積み、「シカリ(スカリ)」と呼ばれる統率者の指示に従って集団猟を行った。(p.126)

また、「便利屋」の説明は次のように書かれています。

簡単な水道工事や家事業務、運転代行などが主な仕事だが、なかには愛の告白代行や、恋人になりきるなど、その仕事内容はさまざまである。給料は歩合制のところが多く、仕事によっては高給を得ている人もいる。(p.394)

日常でなかなか出会わない人の人生を想像し、世界の広さを感じることができます。

何も好きじゃない人へ

本書では教科別でのカテゴリの最後に、「何も好きじゃない、何にも興味がないと、がっかりした子のための特別編」が収録されています。

そのなかで「エッチなことが好き」な読者に向けてのメッセージがあります。

エッチなことが単に好きというだけではなく、非常にものすごくエッチなことが好きな子は、家でのコミュニケーションがうまくいかなくて、心が傷ついているという場合が多い。心が傷ついている子の特徴は、寂しがりやのくせに友だちができにくいというものだ。(p.445)

心が傷ついている子は、人間関係に臆病な子が多い。自分を表現できない子が多い。しかし、そういった子には、他の子にはない可能性がある。そういった子の中にはそれまで使われてこなかったエネルギーがたまっている。そういった子が何かを見つければ、エネルギーが爆発して大きな成果を生むことがある。(p.446)

何を見つけるのか? 本書によるとそれは、生きていくための武器、つまり将来の仕事だといいます。誰にも頼らずに、ひとりで生きていくための仕事さえ見つけることができれば、自分に自信を持つことができます。すると少しずつ他人との距離感がわかるようになり、人間関係を築けるようになる、と書かれています。

また本書の「はじめに」には、好きなことに出会うためには、「どこかに自分が好きなことがきっとあるはずだ」「将来的に、自分に向いている仕事がきっとあるはずだ」と心のどこかで強く思う必要がある、と書かれています。

どういうふうに生きていこう、と少しでも考えることがあれば、ぜひ学校の図書館や公共図書館で本書を見つけて読んでほしいと思います。きっと、何か興味のあることが見つかるはずです。そして、興味を持てることがひとつでもあれば、そこから世界が大きく広がっていくでしょう。

 

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【連載】ひきこもり読書のススメ
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