【全文公開】小中高すべてで不登校した私が高認に合格するまでの10年間
小学5年生のときに不登校になった山下優子さん(仮名)。「ふつうになりたい」とこだわり続け、勉強も部活もがんばろうとした山下さんは中学でも高校でも不登校になります。そんな山下さんは20代になり、高認に挑戦。今年8月に全科目に合格しました。「ふつうになりたい」と悩み続けた10年を振り返りつつ、高認に気持ちが向いたきっかけや実際に受験してみてわかった高認のメリット・コツについて、お話をうかがいました。
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――不登校のいきさつからお聞かせください。
最初に不登校したのは、小学5年生のときです。クラス替えがあって、新しいクラスメイトとの人間関係がうまくいかなくて。また、クラブ活動でも厳しい上下関係やポジション争いがありました。人間関係につまづいた感じがして「もう学校へ行きたくない」と思ったんですね。
9月からは教育支援センターに通い、6年生の4月から学校へふたたび行くようになりました。というのも、小学5年生の終業式の直前に、クラスメイトから電話があったんです。その日だけでも来ないかって。私自身、いつかは学校へ戻らなければいけないと思っていたので、それを機に学校へ戻りました。
――中学校は?
入学式から毎日通えていたんですけど、中学2年生の夏休み明けからまた不登校になりました。きっかけは、起立性調節障害です。私の場合、朝は起きられないし、頭痛やめまいもある。しかも、朝にかぎらず、一日中体調が悪い日が多くて、とてもつらかったですね。
その後は学校へ行ったり行かなかったりをくり返していましたが、身体だけでなく、精神的にもしんどい時期でした。そのときには「学校へ行きたくない」という気持ちはなかったからです。もっと言うと、「私は絶対に学校へ行くんだ」という思いでいっぱいでした。親は私の体調を気づかって「そんなにつらかったら、無理して行かなくていいよ」とまで言ってくれていたんですが、私はかたくなに譲りませんでした。
――なぜそこまで強い思いを抱いたのでしょうか?
「ふつうになりたい」という思いが強かったんです。学校へ行かないとちゃんとした大人になれない、だからみんなと同じじゃなきゃダメなんだって。体調がよい日は学校へ行ってみるんですが、帰宅すると倒れ込むように動けなくなってしまうことがしょっちゅうでした。学校へ数日行っては数日休むという感じで、ときには1カ月丸々休むこともありました。今、思い返してみても、起立性調節障害の症状は、かなり重度だったと思います。高校については、通信制高校に半年通いましたが、その後、定時制高校へ編入しました。
理由としてはさきほどお話しした「ふつうになりたい」ということにすごくこだわっていたからです。朝起きて学校へ行き、勉強して部活もがんばってという、ごく一般的とされる学校生活を送らなければと思っていました。ただ、そのころから、うつ症状や不安障害が強く出ていました。無理をしすぎて体調を大きく崩してしまい、高2で不登校したのち、定時制高校は退学することになりました。
将来のために高認を取ろう
――その後、20代になって、高認を受験されたとうかがいました。きっかけは?
「将来のために高認は取ったほうがいい」、強くそう思ったからです。就職や進学するにしても、必要になる場面があると思いました。不安障害の症状はまだかなりありましたが、電車に乗り、必死で塾へ行きました。じつは、定時制高校に通っていたとき、英語と数学の単位だけは取れていたので、その2科目は免除になりました。昨年11月に1科目だけ受験し、残りを今年8月に受験し、全科目に合格できました。
――おめでとうございます。高認の勉強をするなかで、苦労された点は?
勉強について、どんなペースで、どうやって進めるかについて悩みました。ただ、私が通っていた塾はNPOが運営していたところで、先生がたくさん相談に乗ってくれ、いっしょに考えてくれたので、なんとかがんばることができました。
――高認に合格された今だからこそわかる高認のよい点などはありますか?
大きく3つあると思います。1つめは、高校在籍時に取得した科目は試験で免除になること。高認に合格するためには最低8科目を受験して合格する必要がありますが、私の場合はそのうち2科目が免除になったので助かりました。2つめは、試験が毎年8月と11月、年2回あるので、そのときの体調に合わせて受験できることです。
3つめは、1回の試験で全科目に合格しなくてもよいことです。たとえば、8月に2科目受けて、11月で残りを受けるということもできますし、年度をまたぐこともできますので、数年かけることもできます。
なかでも、1回の受験で全科目に合格する必要がないということは、私にとってよかったですね。私は昨年11月に日本史Aだけ受験したんですが、これには2つの理由がありました。当時はまだ体調がよくなかったこと、そして試験に慣れるためです。今年8月に残りの5教科を受験したわけですが、体調を考慮しながら試験の準備ができましたし、試験会場の雰囲気もわかった状態で臨めました。その意味で、自分でペースを決めて受験できるというのは大きかったです。
高認についてもうひとつ言うと、高認にはいくつかのコツがあります。たとえば、出題範囲については科目ごとに「この分野が出やすい」という傾向があります。また、国語であれば漢字を1つずつコツコツ覚えるよりも文章読解の設問に力をいれたほうが点数を取りやすいというようなテクニック的なこともあります。
私が通っていた塾ではそうしたことを教えてくれるのはもちろん、講師がいっしょに過去問を解いてくれるというサポ―トもあり、大きな支えになりました。その意味で、あくまで私の場合ですけど、独学で高認に臨むというのはちょっと厳しかったかもしれませんね。
「もういいかな」ふと解放された
――以前は「ふつうになりたい」ということにこだわっていましたよね。現在は?
「ふつうになりたい」と、10代のころはあれほどこだわっていたのに、20代になった今ではまったくと言ってよいほど考えなくなりました。今ふり返ると、異様なまでに「ふつうになりたい」と、こだわっていた自分自身にぞっとする部分も正直あります。
考え方が変わったきっかけはいくつかあるんですけど、もっとも大きかったのは「成人式」。じつは地元で開かれた成人式の式典に私は出なかったんです。ただ、そこで重要だったのは「式典へ行けなかったのではなく、行かないんだ」と、自分自身で決断したことでした。「小中学生時代のクラスメイトが集まる式典会場まで行ったけど、会場内に入れなかった」ということではなく、「最初から私は行かない」ということを自分で選び、自分で決めることで、気持ちのうえでも、ひとつの整理がつきました。もちろん、成人式直前の数日間はすごく悩みましたし、街中で振り袖姿を見るのもつらくて家にいたんですが、成人式が終わったとたん、ふと解放されたような気持ちになりました。「もういいかな」って思えたんです。
小学5年生で不登校してから10年ほど「ふつうになりたい」と悩み続けてきましたが、これだけ悩んだんだからもういいだろうと、踏ん切りがついたというか。何より、今後も悩み続けるとしたら、またあっというまに10年がすぎ、私は30代になってしまうかもしれないと思ったら、それってもったいないなって。「ふつうになりたい」との思いで10年がんばってきた努力が水の泡になってしまうという考えも頭をよぎったのですが、20歳という節目を迎えて、「私は変わりたい」と心から思えたタイミングだったんだと思います。そのほかには、引っ越しを機に学校生活で使っていたものを断捨離したり、服薬やカウンセリングを私に合うものに変えるなど、いくつかのことがあいまって、すこしずつよい方向に進んでいった気がします。こうしたいくつかのきっかけや私自身の考え方の変化も、高認へ気持ちが向いた背景にあるように思います。
――今後については?
今は、通っていた塾に事務のアルバイトとしてたまに関わらせていただいています。そのほかには、通信制大学の資料を取り寄せたり、オンラインで開かれている学校説明会に参加しています。また、就労支援をしているNPOに相談をしたり、登録制のアルバイトを始めたりもしています。親や友だちにもいろいろ相談しながら、なんでもいろいろやってみたうえで、自分にできることを見つけたいなって思っています。
最後に、高認についてすこしだけお伝えしたいことがあります。この記事を読んでいる方のなかには、高認を考えている不登校経験者もいるかもしれません。一度に全科目を合格しなければいけないとの思いから、高認に対して高いハードルを感じているかもしれません。
でも、私がそうだったように、1回の受験ですべて合格する必要はありません。また、合格基準は100点満点を取ることではないので、すべてを完璧にこなそうとしなくてもいいんです。高認について迷われている方がいたら、まずは1科目の勉強から始めてみるなど、検討していただけたらなって思います。
――ありがとうございました。(聞き手・小熊広宣)
高認ってどんな試験?
■毎年8月と11月に行なわれる試験
高認は毎年8月と11月に実施される試験です。受験する年度の終わりまでに満16歳以上になる人が受験できます。2005年度から全日制高等学校などに在籍している場合でも受験が可能になりました。
■全10科目、年度をまたいで受験も可能
高認の試験科目は全部で10科目あり、国語、数学、英語などの必修科目のほか、日本史や世界史などの選択必修科目のなかから全部で8科目~10科目合格する必要があります。またその年の1回目の受験で3科目、2回目の受験で2科目、翌年の1回目の受験で3科目受けるなど年度をまたいで受験することができます。
■「高卒」とはならないが、進学・就職で活用可
高認は「高等学校を卒業した方と同等の学力があると認められる」ための試験なので、高認合格イコール「高卒」とはなりません。ただし、専門学校や大学などへ進学する際に必要な受験資格となるほか、就職の際に履歴書に書ける資格となります。
■書類の準備は早めに
高認を受験する際には専用の出願書類のほか「住民票または戸籍抄本」などの書類が必要になります。夏・秋それぞれで出願期間は決まっているので、文科省担当課もしくは同省HPでご確認ください。
【文部科学省総合教育政策局生涯学習推進課認定試験第一係、第二係】(TEL)03-5253-4111
(初出:不登校新聞590号(2022年11月15日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)