ADHDの子どもの「学校行きたくない」はなぜ? 家庭でのサポートのポイントを解説
ADHDのお子さんのいる保護者のなかには、次のような悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
- 入学当初は楽しそうに学校へ通っていたのに、最近「行きたくない」と言うことが多くなった。
- 「先生に怒られるから行きたくない!」と行き渋るようになってきた。たしかに落ち着きがないかもしれないけれど、まだ小学生だし、先生も厳しすぎるのでは?
- 勉強面にも友人関係にも大きな問題はないはずなのに、最近元気がないような気がする。学校も休みがちだし、少し心配……。
お子さんが学校への行き渋りを見せると心配になりますよね。
もちろん、学校へ行くことがすべてではありませんが、保護者がお子さんに楽しく学校へ通ってほしいと願うのは自然なこと。お子さんだって、楽しく学校へ行きたいと思っているかもしれません。
今回は、ADHDの子どもたちの気持ち、学校生活での困りごとを探り、「学校へ行きたいのになんだか行きにくい」という子どもたちへの支援のポイントを解説します。
目次
ADHDの2つタイプと特徴
まず、ADHDのお子さんの特徴(特性)についてです。
ADHDには「多動・衝動性タイプ」と「不注意タイプ」の2つのタイプがあります。2つのタイプの特徴が混ざり合って現れることもあります。
多動・衝動性タイプ
人が好きで、積極的にコミュニケーションを取ったり、独創的なアイディアを出したりと、クラスのムードメーカーになることもあります。
その反面、集中が続かず授業中にゴソゴソする、ほかのことが気になって立ち上がる、衝動的な行動で周囲とトラブルになりやすい、といった特徴も持ち合わせています。そのため、学校生活では先生から頻繁に注意されるお子さんもいます。
本人は頑張っているつもりなのに「いつも怒られる」「認めてもらえない」と、学校に対してネガティブな気持ちになることもあります。
不注意タイプ
女子に多いとされるタイプです。
忘れ物が多い、授業中も上の空で先生の話を聞いていない、大事なことを聞き逃して何をすればよいかわからなくなる、といった特徴が挙げられます。内心焦っているのに「わからない」「教えて」と言えず、みんなのマネをしてその場を乗り切ることもよくあります。
多動・衝動性タイプより、困っていることに周囲が気づきにくいのも特徴です。常に周囲の状況に気を配らなければならず、一日を通して落ち着く時間がありません。心も体も疲弊してしまい、学校を休みがちになることがあります。
「なんで自分だけ?」ADHDの子どもたちが学校で思うこと
ADHDの子どもたちに限らず、学校生活で困りごとのある子どもたちはたくさんいます。
学校には「合理的配慮の提供義務」がありますので、保護者はお子さんの特性や困りごとについて、学校と相談することができます。とは言え、教職員数や校舎の設備などから、十分な対応が難しいケースもあります。
また、学校(や先生)のADHDの子どもたちについての理解が不十分で、適切な指導を受けられないケースもあります。たとえば、集中が途切れやすく授業中に何度も注意される、話し出すと止まらなくなって注意される、忘れ物が多くて注意される、などです。
本人は「積極的に授業に参加しようとしている」「忘れ物がないように毎日気をつけている」のに、なかなか思うようにいきません。
その結果、「なんで自分ばかり怒られるんだろう」「なんで自分だけできないんだろう」とネガティブな気持ちが生まれ、学校から足が遠のいていくことがあるのです。
いつもいつも叱られていては、学校へ行きたくなくなるのも当然。頑張っているのに認めてもらえないのは、とても悲しいことです。そんな気持ちにさせないためにも、ADHDの子どもたちに合った環境を作って、適切なサポートをしたいものです。
家庭でできるADHDの子どもたちへの3つのサポート
①集中できる環境や仕組みを作る
ADHDの子どもたちは、周りにいろいろな情報(もの)があると注意がそれてしまいます。
勉強する時は、勉強に必要なもの(教科書、ノート、筆記用具)のみを机の上に出し、ゲームなどはケースにしまって見えないところに片づけておきましょう。オープン収納になっている場所は、カーテンなどで目隠しをするといった工夫も必要です。
不注意タイプのお子さんには、教科ごとに教科書やノートを入れるファイルを作る、提出物をまとめるゴムやクリップを作るなど、うっかりしていてもミスに気づきやすい仕組みが役立ちます。いずれもお子さん自身が使いやすいように、一緒に考えていくことが大切です。
②声掛けのタイミングを見極める
ほめるときも注意するときも、その行動が見られた直後が最適なタイミングです。
時間がたってから「あのときは~」と言っても、本人は何のことを言われているのか、何がよかったのか・よくなかったのかがわかりません。とくに、よくなかったことについては、ただ「注意された」というネガティブな気持ちだけが残ってしまいます。
ほめるときもタイミングが大切です。たとえば、宿題中に集中が続かないお子さんをほめるのは、宿題に取り組むことができた「その日のうち」が効果的です。
③自分で決めてやり遂げる力を育てる
ADHDの子どもたちは、「計画を立て、その計画に沿った行動をする」ことが苦手です。
「宿題を期日までに提出する」という課題を例に、つまずきやすいポイントを見てみましょう。
1.計画を立てる
提出期限から逆算してスケジュールを組むことが難しい。1日にどのくらいやれば終わるのかイメージできない。
2.計画通りに進める
スケジュールに沿って実行することが難しい。
3.その日の割り当て部分・分量を終わらせる
宿題の量に対して、どのくらい時間がかかるか予想できない。学校で同じような問題を解いたときなど、これまでの体験の記憶が残りにくい。
4.行動や感情を切り替える
ゲームなどをやめられず、宿題に取りかかれない。宿題をしている途中でほかのことが気になって脱線する。
最初は保護者がお手本を見せながら、どのように計画を立てるのか一緒に考えていきましょう。慣れてきたら、本人の選択を増やしていきます。
たとえば「宿題のプリントをする」のであれば、スケジュールを組むことは保護者がサポートしつつ、1日の枚数や分量はお子さんが自分で決めるといった具合です。
まずは短い時間集中することを目標にして、少しずつ時間を伸ばしていきましょう。ADHDのお子さんには、一度にたくさんの量をこなすことよりも、少ない量を集中して取り組むことのほうが重要です。
なお、宿題については、本人にとって現実的に取り組める量がどれくらいか、学校の先生と相談してみてください。
行動や感情の切り替えが難しい場合は、前もって「〇時までは何をする」「〇時からは何をする」とスケジュールを立て、お子さんと確認しておきましょう。お子さんが時間を気にし始めたタイミングで、声掛けしてみてください。
ADHDの子どもたちをサポートするときに心がけたいこと
①まずは簡単なことから、スモールステップで!
1つできると次々に課題のレベルを上げたくなるものですが、そこは少しがまんしてください。
はじめから完璧を求められると、大人でも逃げ出したくなりますよね。
簡単なことを少しずつ、「できた」という達成感の積み重ねが自信に繋がります。
②ほめるときも、注意するときも具体的に
お子さんの行動で何がよかったのか、何がよくなかったのか、具体的に伝えてください。
とくに注意するときには、「本人」が悪いのではなく「行動」がよくなかった、という点が伝わるようにしましょう。もう1つ大切なのは、保護者が感情的にならないことです。大きな声を出さず、冷静に注意しましょう。
「具体的にほめるってどうすればいいの?」と思われるかもしれませんが、難しく考えなくても大丈夫です。「ゆっくり書けたね」「姿勢よく座れたね」など、事実をシンプルな言葉で伝えてください。
③できなかったことではなく、できたことに注目
大人から見ると「なんでこんな簡単なことができないの?」と思うかもしれませんが、決してお子さんの努力が足りないわけではありません。
ほかの子どもたちと比べるのではなく、少し前のお子さん本人と比べてみてください。きっと、前よりうまくできるようになっていることがあるはずです。
④結果ではなく経過を大切に
何でも最初からできる人はいません。結果として目標が達成できなかったとしても、がまんしようとしたこと、やろうとした気持ち、これまでよりできるようになったことなどに目を向けましょう。
お子さんの頑張りを、ポジティブに評価してあげてください。
ご家庭・保護者へのサポートも活用して
ADHDの子どもたちは、特性が要因になっている行動が、本人の努力不足のせいだと誤解されがちです。本人も困っているのに、それに気づかずただ叱るだけでは、子どもたちの困りごとは解消しません。
ADHDについて正しく理解し、まずはご家庭でサポートすることで、子どもたちの自己肯定感を育んでいくことができます。
家庭でのサポートや、家庭と学校の間で十分な相談・連携があっても、学校へ行かない選択をする子どもたちもいます。不登校は、決してめずらしいことではありません。
学校以外にも、さまざまな学びの選択肢があります。ADHDのお子さんのサポートをご家庭だけで抱え込まず、支援制度・団体など、専門家のサポートもぜひ活用してください。
保護者の不安がやわらぐことが、お子さんへのサポートにつながります。ご家庭が安心できる居場所であれば、お子さんは前向きな気持ちで、自信を持って生きていくことができます。
お子さんも、保護者のみなさんも「次の一歩」へ!