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「かたちだけやっても学力はつかない」半年以上の勉強の遅れを取り戻す方法【全文公開】

 多くの保護者から「勉強の遅れ」を心配する声を以前より聞いてきました。休校によりその声は、不登校の家庭以外にも広がっています。保護者の安心のために今、この点を紙面化することが必要だと感じました。そこで、さまざまな子どもを支えてきた緒方広海(ひろうみ)さんに「勉強の遅れ」についてお話をうかがってきました。(石井志昂)

――不登校や休校の影響で勉強が遅れてしまった場合、学力は取り戻せるのでしょうか?

 もちろん取り戻せます。休校に絞っていえば、休校が原因で学力が遅れることはないんですね。

 「学力の遅れ」ということをあえて言えば、子どもがその年代でどの位置にいるのかで判断するので、みんなの学習進度が全体的に遅れれば、自分の立ち位置や学習の進度も変わりません。

 だから休校になってみんなが遅れているのに、個人だけが遅れることはないと思います。

 「うちの子の勉強が遅れている」と感じるのは、とくにこの間、親御さんどうしで情報交換をする時間がなかったのも大きい要因かもしれません。「うちの子は勉強していない」と心配した方もたくさんいらっしゃったと思います。

 でも学校が再開されて情報交換ができれば、ほかの子もそこまで家で勉強していなかったことに気づかれたのではないでしょうか。

 まずは休校だけで勉強が遅れてしまうことはないと知って安心していただきたいです。

個人のペースで学習は追いつく

 それに学校の授業は、集団のスピードに合わせて学習が進んでいくので、個人の理解度に合わせた学習よりもどうしても学習効率に差が出ます。

 ですから個人が自分の学習進度で学んでいく場合には、いつかは学校の進度に追いついていくものです。

 もちろん個人差はあるものですが、たとえ半年や1年くらい遅れていたとしても、基本的にはそんなに大きな差にはなりません。

――たとえば半年以上遅れた学習を取り戻したい場合、どれくらいの期間が必要なのでしょうか?

 取り戻すのに必要な期間はひとくくりにできませんが、自分なりのペースで学習を進めていけるのであれば、どこかの時点で追いつけます。

 今まで支援をしたお子さんのなかには、小学校6年間と中学1年の計7年間を不登校だったお子さんがいました。

 小学校の勉強をまったくやっていなくて、中学2年生くらいから高校受験の勉強を始めたんですが、自分の希望の学校に合格できたということもありました。

 とくに小学生の場合は、中学や高校に比べれば学ぶことが基本的には基礎的なものやかんたんなものが多いですから、休校期間の学びを取り戻すという意味では、比較的早い時期に取り戻せるのではないでしょうか。

――「勉強する習慣が失われた場合は、本人がやる気になっても取り戻せない」という声もあります。

 本人がやる気になった時点から習慣をつくっていけばよいので大丈夫です。

 そもそも、やる気になってないのに、習慣だけ残っていてもあんまり意味がありません。イヤイヤ勉強しても本人はつらいだけなので、学力は身につかないと思います。

子どもの興味を大事にできるか

 「楽しい」とか、「好きだな」と思えば思うほど、自分から主体的に学んでいくという姿勢が出てくるんですね。

 だから「子どもの興味関心をどれだけ大事にできるか」が、勉強や学力を身につけていくうえで何よりも大切なことではないでしょうか。

――そうはいっても子どもの好きなことと言えばスマホとゲームだけ。オンラインゲームの「フォートナイトばっかりやってる」という心配の声も聞きます。

 ゲームだって学びの題材になりますし、親や周囲の大人が工夫することでたくさんの学びが得られます。

 フォートナイトであれば、チームプレイのためのコミュニケーション術、課金の仕方次第ではお金の使い方も学べます。

 ゲームの感想を書けば国語の勉強にだってなります。もしフォートナイトが好きならまずはやらせてあげたらいいと思いますよ。

 そのうえでほかのゲームや、フォートナイトに関連したイベントに誘うなど、活動の幅を広げて興味関心を増やしていくことが学びを広げていくことにつながります。

 また、小学生であれば、親子でいっしょに楽しむことも大事なポイントですね。大人が「子どもに教わる」という姿勢で関わると、子どもは人に教える段階に進むので学びが深くなります。

 もっと言えば、ゲームだからスマホだからという理由で、子どもの興味を否定するのはもったいないです。学校で教わることだけが学びではないことを知っていただきたいです。

――家庭で学習するにあたって、具体的にどんな手順があるのでしょうか?

 まずは子どもがどのくらいの学習進度で進んでいて、どのくらいの理解があるかを把握するところから始めるのがよいと思います。

 理解がないのに詰め込んでしまうと、ますます理解が追いつかない状態になってしまうんですね。

 地道で遠回りに見えるかもしれませんが、理解しているところから着実にステップアップすることが大切です。

本人の特性は見定めながら

 発達が気になるお子さんの場合には、目で見て覚えるのが得意なのか、耳で聞いて覚えるのが得意なのか、実際に体験しながら学ぶのが得意なのか、得意・不得意を見極めながら学習を進めていきます。

 ただ家族だと客観的に子どもを見るのが難しい場合があるので、たとえばLITALICOジュニアのような支援機関や専門家がお手伝いできるとよいかなとも思います。

 どの子にも共通して重要なのは、無理がない状態で勉強させることです。とにかく、かたちだけでもいいからやらせなきゃと悩まれる親御さんもいらっしゃると思います。

 でも実際にはかたちだけやらせても学力は身につきません。休ませたりモチベーションを上げたりして、本人が「よしやるぞ!」と思ってから勉強させることが大切ですね。

――子どもに無理をさせたくはないと思っていても、学校から送られた宿題を見ると「親がなんとかしなければ」と思う方も多いかもしれませんね。

 僕からは「親には親のままでいてほしい」ということをお伝えしたいです。

 家のなかでは親としての役割の優先順位を高くしていただいて、少し余裕があるときには学校の役割も担うくらいの気持ちでいてほしいと思います。

 休校中は、教える人が先生から親御さんに移ったために、プレッシャーを感じられた方が多かったのではないでしょうか。

 でも無理に学校の肩代わりをする必要はありません。だって学校で勉強している内容をすべて家でやれといったって無理です。

 親は先生でもないし、ずっと家にいるわけでもないし、ましてや子どもにつきっきりでいられるわけでもありません。

宿題の適量考えても

 だから課題が終わらなかったのはけっして親のせいではないし、子どものせいでもないんです。

 もし課題が3割しか終わらなかったのなら、「3割しかできなかった」ではなくて、「この子には3割の量がちょうどよい」と捉え直すことが大切だと思います。

 課題の量が適切なのかも考えなければいけないですよね。各家庭でできる範囲は変わってくるので、個別性に配慮のある課題になっていないことが一番の問題じゃないでしょうか。

 でも先生も親御さんもどのくらいの量が適切かわからなかったというのが現実でしょうし、誰も経験したことのない事態のなかで、おたがいに悩んでしまったのではないかなと思います。

――最後に親の方へメッセージをお願いします。

 今は「その子にとっての必要な学力は何か」に立ち返って考えないといけないと思っています。

 小さいころは将来どんな方向に進んでもいいようにまんべんなく教えようと、いろいろな体験をさせて詰め込みますよね。

 でも本当は小さいころから得意なことを伸ばすほうが大事な気がするんです。

 これからの世の中に適応していくためには得意なことがあるのは強みですし、必要ない知識をイヤがってでもやらせるのは勉強がきらいになっていく要因です。

 身についたものをもって社会でやっていくと切り換えて、その子にとって必要な部分を必要なだけ学ぶくらいのスタンスがよいのではないでしょうか。

――ありがとうございました。(聞き手・石井志昂、赤沼美里)

【プロフィール】緒方広海(おがた・ひろうみ)LITALICOジュニア チーフスーパーバイザー・公認心理師・臨床心理士。15年以上にわたって、乳幼児から成人期までの精神保健福祉、障害福祉の分野で幅広く心理臨床業務に携わる。現職では支援に関わる指導員への研修やスーパーバイザー育成の統括を担当している。

【株式会社LITALICOとは】
「障害のない社会をつくる」をビジョンに掲げ、障害福祉分野でのサービスを提供している。得意や苦手を見つけ、子ども一人ひとりの特性に応じた指導を行なうソーシャルスキル&学習教室「LITALICOジュニア」は全国に111拠点を展開中。

(初出:不登校新聞536号(2020年8月15日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)

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