わが子がいじめで不登校に……「いじめた子ども」を出席停止にできない?

「いじめられた側が不登校になって、友だちと過ごす時間や学習の機会が奪われているのに、いじめた側がそのまま登校し続けているのは納得いかない」。

いじめが原因で不登校になった子どもの親なら、多かれ少なかれ、こうした思いを抱くことがあるかもしれません。

いじめた子どもへの対応には、何かルールがあるのでしょうか。また、いじめられた子どもの親にできることはあるのでしょうか。

※以下、数字の出典は、文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」

「子ども自身が苦痛を感じている」ことがあれば、それは「いじめ」

わかるようでわからない、「いじめ」。何がいじめで、何がいじめではないのか。

特に学校でのいじめについては、平成25(2013)年に施行された「いじめ防止対策推進法」で、こう定義されています。

(定義)
第二条 この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。
(出典:文部科学省ウェブサイト「いじめ防止対策推進法」(太字は編集部。以下同様))

法律の文章だと難しく見えますが、この法律でいう「いじめ」とはつまり、「ほかの子どもから何かされたことで、本人が心や体に苦痛を感じている」場合のことです。

「大人から見ていじめかどうか」ではなく、「子ども本人が苦痛を感じているかどうか」が判断基準になっています。

いじめた子を「出席停止措置」にできる?

「いじめ防止対策推進法」には、明確にこう書かれています。

(いじめの禁止)
第四条 児童等は、いじめを行ってはならない。

「いじめ」は法律ではっきりと禁止されています。とはいえ、いじめを行った場合の罰則は定められていません。

罰則ではありませんが、いじめた子どもへの対応については明記されています。その1つが、「出席停止制度」です。

(出席停止制度の適切な運用等)
第二十六条 市町村の教育委員会は、いじめを行った児童等の保護者に対して学校教育法第三十五条第一項(同法第四十九条において準用する場合を含む。)の規定に基づき当該児童等の出席停止を命ずる等、いじめを受けた児童等その他の児童等が安心して教育を受けられるようにするために必要な措置を速やかに講ずるものとする。

いじめられた子どもだけでなく、クラスのほかの子どもも安心して授業を受けるための措置として、「出席停止制度」が定められているのです。

重い措置ゆえに、運用はなかなか難しい

では、「出席停止制度」はどのように運用されているのでしょうか。
実際には、「出席停止制度」はほとんど使われていないのが現状です。

令和4(2022)年度のいじめ認知件数は、小学校55万1,944件、中学校11万1,404件。

「出席停止」は小学校1件、中学校4件の計5件であり、そのうち「いじめへの対応」としての「出席停止」は、小学校の1件のみです(ほか4件は暴力行為等)。

「出席停止」は学校の判断だけで決定できるものではなく、教育委員会が命じるものです。措置が講じられるまでに、保護者への聞き取りなども含め綿密な調査が行なわれます。

「学校へ来ない」ことを強制する重い措置ですので、慎重に運用する必要があるものと考えられます。

「いじめ防止対策推進法」では、「出席停止」を「速やかに講ずるものとする」とされていますが、「明日からすぐに!」というのは現実的ではないでしょう。

「別室授業」は学校が判断してできるが……

「出席停止制度」のほかにもう1つ、注目したい措置があります。
「別室授業」です。

(いじめに対する措置)
第二十三条 4 学校は、前項の場合において必要があると認めるときは、いじめを行った児童等についていじめを受けた児童等が使用する教室以外の場所において学習を行わせる等いじめを受けた児童等その他の児童等が安心して教育を受けられるようにするために必要な措置を講ずるものとする。

「別室授業」は「出席停止」とは異なり学校が判断して行なうものなので、比較的相談しやすいかもしれません。

「別室授業」は「出席停止」同様、いじめられた子どもだけでなく、クラスのほかの子どもも安心して授業を受けるために必要な措置と位置づけられています。

こちらも実際の運用数を見てみましょう。

令和4(2022)年度に行なわれたいじめた子どもへの対応としての「別室授業」の件数は、小学校4,171件、中学校2,208件。
「出席停止」に比べるとはるかに多いことがわかります。

ただし、いじめ認知件数全体との比率を見ると、小学校で0.8%、中学校で2.0%と、一般的に行なわれている措置とは決して言えません。

さまざまな事情を考慮して最終的な判断をするのは学校ですので、保護者の要望が必ず叶えられるわけではありません。

「別室授業」のための環境や人員を確保しなければならないので、学校によっては難しいケースもあります。

しかし、「いじめた子どもがいなければ登校したい」と本人が希望しているなら、子どもの意思を積極的に学校に伝えてよいでしょう。

学校にとっても、子どもの家庭との重要なコミュニケーションの機会になります。

「いじめ防止対策推進法」は、処罰が目的ではない

「いじめ防止対策推進法」における「出席停止」や「別室授業」には、子ども同士を(一時的に)引き離すことで、いじめられた子どもをケアする目的があります。

しかしこの法律は、いじめた子どもを「出席停止」や「別室授業」で教育の場から排除しようとするものではありません。

いじめた子どもへのケアについても、以下のように明記されています。

(いじめに対する措置)
第二十三条
3 学校は、前項の規定による事実の確認によりいじめがあったことが確認された場合には、いじめをやめさせ、及びその再発を防止するため、当該学校の複数の教職員によって、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者の協力を得つつ、いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援及びいじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言を継続的に行うものとする。

いじめた子どもにも、何らかの困りごとがある場合があります。

その場合、叱責では解決しないばかりか、本人が困りごとを自覚できないまま、将来にわたって他者とのコミュニケーションに課題を抱え続けることになるかもしれません。

そのために、いじめた子にもケアが必要なのです。

こんな時は警察や弁護士を頼っていい

いじめによる被害があまりにも大きければ、いじめられた子どもが不利益を受け続けることになります。

学校関係者によるいじめた子どもへの「指導」だけでは、いじめられた子どもを救済できない重大なケースもあります。

「ケガを負った」「金品を脅しとられた」「ネットに不適切な画像を流された」など、犯罪および法に触れる行為で子どもが被害にあったときには、学校への相談とあわせて、警察や弁護士への相談も検討してください。

文部科学省も、学校や教育委員会などに対して警察との連携を促しています。

とくに以下の文書では、警察へ相談・通報すべき具体的ないじめ行動があげられていますので、参考にしてみてください。

文部科学省ウェブサイト「早期に警察へ相談・通報すべきいじめ事案について」別紙1「学校において生じる可能性がある犯罪行為等について」

警察が対応した後の、いじめた子ども本人に対する処遇については、子どもの年齢によって異なります。

いじめ行為が重大と判断されれば、14歳以上の子どもによる事件は刑事裁判の対象になります。14歳未満の子どもは少年法による審判が行なわれます。

また、被害状況によっては民事裁判で損害賠償を求めることも考えられます。

それぞれの状況で可能な対応については、ぜひ弁護士へ相談してください。

まずは自分の子どもの傷つきと向き合って

いじめた子どもへの具体的な対応は、学校、専門家、医療機関などに相談しつつ、しかるべき機関に判断をお任せする。

裁判などさらなる対応を検討する時も、「ご自身の子どもへのケア」を優先する。

これも「いじめられた子どもの親にできること」です。

まずは、ご自身の子どもの傷つきにじっくりと向き合う時間をすごしてください。いじめられた子どものケアをサポートする団体もたくさんあります。

心身の回復とともに、子どもの人生がひらかれていきます。

※この記事の続編として、警察などの見解を取材する記事を作成予定です。

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