わが子へのいじめ、これはもはや「犯罪」では? ためらわずに警察へ通報・相談を

  • 「ケガをした」
  • 「多額のお金をとられた」
  • 「不適切な画像をSNSで流された」

子どもがいじめでこうした被害に遭ったとき、どうすればいいのでしょうか。

  • 「警察に言っても迷惑がられるだけでしょう?」
  • 「子どものいじめを警察沙汰にするなんて、大袈裟じゃない?」

警察への相談・通報を躊躇する保護者の方も少なくないかもしれません。

しかし近年、いじめにあった子どもの生命を守る観点から、文部科学省と警察庁が連携し、学校に対していじめの相談・通報を促しています。

この記事では、文部科学省と警察庁が公開しているいじめの相談・通報に関する情報を紹介します。

この記事をお読みになって、いじめによってお子さんの生命や尊厳がおびやかされていると感じたら、迷わず最寄りの警察署へご相談ください。

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1. その「いじめ」は犯罪の可能性あり!?

「いじめ」と一口に言っても、無視や「からかい」から身体への暴力まで、行為の内容は多岐にわたります。でも、どのいじめ行為が警察で取り扱ってもらえるものなのかわからない。この点も、保護者の方が警察への相談・通報を躊躇する理由と思われます。

文部科学省が毎年秋に公表している「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」には、学校でのいじめについて、どのような行為(いじめの態様)が何件報告されているかなど、詳細な統計情報が掲載されています。

この調査で項目に挙げられているいじめの態様が、どのような「犯罪行為」の可能性があるか。文部科学省は、この点についても資料を公表しています。

なお、文部科学省では、「警察への通報・相談に係る基本的な考え方」として次の2点に基づいて警察への相談・通報の可否を判断するよう、学校等へ通知を出しています(太字は編集部による)。

  1. 学校や教育委員会においていじめる児童生徒に対して必要な教育上の指導を行っているにもかかわらず、その指導により十分な効果を上げることが困難である場合において、その生徒の行為が犯罪行為として取り扱われるべきと認められるときは、被害児童生徒を徹底して守り通すという観点から、学校においてはためらうことなく早期に警察に相談し、警察と連携した対応を取ることが重要。
     
  2. いじめられている児童生徒の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるような場合には、直ちに警察に通報することが必要。

参考資料:平成25年5月16日 早期に警察へ相談・通報すべきいじめ事案について(通知) (別紙1)学校において生じる可能性がある犯罪行為等について

 

2. 文部科学省のデータに見る「学校から警察への相談・通報」

では、学校から警察への相談・通報について、「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」の統計を見てみましょう(令和4年度分が2024年9月時点での最新情報)。

令和4(2022)年度のいじめ認知件数のうち、警察への相談・通報が行われた数・割合は下記のとおりです。

小学校:565件(0.1%)
中学校:1,101件(1.0%)
高等学校:322件(2.1%)

 

警察への相談・通報件数は、統計が確認できる平成24年(2012)度以降、小学校と高等学校では増加傾向にあります。中学校ではほぼ横ばいでしたが、令和4年度には前年度の1.7倍に増加しています。

ただし、いじめの発見を促す施策により、「いじめの認知件数」そのものが増加していることに注意が必要です。「いじめの認知件数」に対する「警察への相談・通報件数」の比率は、小学校では全期間を通じて0.1%程度、中学校では0.5〜1.1%で推移しています。

高等学校では件数と同様、「相談・通報の比率」も上昇が続いています。平成24年度は0.8%と、中学校の1.0%よりも0.2ポイント低かったものの、その後は小・中学校を上回るポイントで推移しています。令和4年度は期間中最高値の2.1%でした。

 

3.  警察庁に聞いてみた! 個人からの「いじめの相談・通報」件数は?

ここまでは、文部科学省の統計情報から、「学校から警察へ相談・通報」について見てきました。では、保護者やいじめ被害者本人など、個人が直接警察へ相談・通報した事例はどれくらいあるのでしょうか。

「不登校オンライン」が警察庁へ取材したところ、以下の回答を得られました。

警察庁では、警察が取り扱ったいじめに起因する事件に関する統計は取り扱っておりますが、いじめについての相談・通報に関する統計は取り扱っておりません。(2024年9月2日付)

残念ながら、いじめに関する「個人からの警察への相談・通報」については、件数、内容ともにわかりませんでした。しかし、警察庁が公表している統計資料から、警察へ相談・通報する際に参考になる情報を読み取ることができます。

 

4. 警察庁のデータに見る「警察が扱ったいじめ事件」

ここからは、「令和5年における少年非行及び子供の性被害の状況」をもとに、「いじめに起因する事件」について見ていきます。

(なお、文部科学省の統計は年度単位、警察庁の統計は年単位でまとめられています。また、この記事ではそれぞれ最新の情報を採用しており、警察庁の統計のほうが新しい情報です。調査期間が異なるため、単純比較はできないことをご了承ください。)

まず、警察が取り扱った「いじめに起因する事件」の件数について推移を見てみましょう。

この数字は「件数」ですので、1つの事件に複数の児童・生徒が関わっている可能性があります。

また、「いじめによる事件」でなく、「いじめの仕返しによる事件」も警察によって扱われています。令和5年は18件の事件で18人(小学生4人、中学生6人、高校生8人)が検挙・補導されています。

次に、学校種別ごとに「いじめに起因する事件」(仕返しを含む)で検挙・補導された人数の推移を見てみます。

平成26(2014)年の301人をピークに中学生の減少傾向が目立ちます。しかし、直近の令和4(2022)年から令和5(2023)年を見ると、小学生1.6倍、中学生2.2倍、高校生1.5倍と、それぞれ大きく増加していることがわかります。小学生と高校生については、期間中最多となっています。

 

5. いじめ事件、ワースト3は「暴行」「傷害」と「あの行為」

「いじめに起因する」事件の罪種別件数を見ると、「暴行」102件(うち仕返し7件)、「傷害」60件(うち仕返し7件)と、身体的な暴力行為が全体の半数以上を占めます。そして、この2つの次に多いのが、「児童買春・児童ポルノ禁止法(※)違反」で、46件が該当しています。
※正式な法律の名称は「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」。

さらに、基本的に身体の接触がない「インターネットを使用した事件」のみに注目すると、69件中43件、実に6割以上が「児童買春・児童ポルノ禁止法違反」です。「侮辱」7件、「脅迫」6件、「名誉毀損」4件を大きく引き離し、突出していることがわかります。

次に、学校種別ごとに検挙・補導人員ワースト3の罪種を見てみましょう。

◆小学生(125人、うち仕返し4人)

「暴行」……60.8%(76人、うち仕返し2人)
「傷害」……12.8%(16人、うち仕返し1人)
「強要」……9.6%(12人)

「暴行」が6割を超えており、「傷害」と合わせて身体的な暴力が大半を占めています。

しかし少数ながら性的な暴力事件も報告されています。「不同意わいせつ」5人、「児童買春・児童ポルノ禁止法違反」も1人いました。

◆中学生(189人、うち仕返し6人)

「暴行」……31.7%(60人、うち仕返し3人)
「傷害」……24.9%(47人、うち仕返し2人)
児童買春・児童ポルノ禁止法違反」……11.1%(21人)

身体的暴力が多いものの、相手にケガを負わせる「傷害」の割合が小学生よりも大きくなっています。

性的な暴力は「児童買春・児童ポルノ禁止法違反」の21人に加え、「不同意わいせつ」も13人おり、合計すると全体の18%にのぼります。

◆高校生(90人、うち仕返し8人)

「傷害」……28.9%(26人、うち仕返し4人)
「暴行」……21.1%(19人)
児童買春・児童ポルノ禁止法違反」……13.3%(12人)

身体的暴力では、相手にケガを負わせる「傷害」が、「暴行」よりも多くなっています。

また、性的な暴力の割合が中学生よりもやや大きく、「不同意わいせつ」5人と合わせると、全体の18.9%を占めます。

 

6. 警察から、いじめ被害者や保護者へのメッセージ〜「これは犯罪では?」と思ったら、迷わず警察に相談・通報を〜

警察庁の統計では、「暴行」「傷害」「児童買春・児童ポルノ禁止法違反」が事件として多く取り扱われていることがわかりました。

しかし、数は少ないものの、「名誉毀損」「侮辱」「脅迫」「強要」など、おもに言葉による暴力も見られます。いじめにおいて、言葉の暴力の実数が少ないわけではなく、相談・通報の数が少ないものと思われます。犯罪として扱われるべき言葉の暴力を受けている子どもにも、もっと目を注いでいく必要がありそうです。

前述の警察庁への取材で、いじめ被害者や保護者へのメッセージをお願いしたところ、とても丁寧な回答が得られました(太字は編集部による)。

警察庁では、いじめを受けていた児童生徒の自殺等憂慮すべき事態が生じている現状に鑑み、警察としても、学校や教育委員会と緊密な連携を図り、早期把握と情報の共有に努めており、犯罪行為(触法行為を含む。)がある場合には、被害児童生徒や保護者等の意向、学校における対応状況等を踏まえながら、警察として必要な対応をとっていくよう、都道府県警察に対して指示しております。

いじめについての警察への相談・通報については、目安というものはありませんので、いじめ被害の内容が犯罪に当たるのではないかと思われたら、迷わずに警察に相談・通報していただきたいと考えております。

この記事が、子どもへのいじめに悩んでいる保護者の方々のお役に立てるものであることを願っています。

いじめを受けている子どもたちが安心して生きることができるように、「不登校オンライン」は今後も情報を発信していきます。

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