不登校にも通じる、「自然災害の後に子どもの心をケアする『救急箱』」

#不登校#行き渋り

自然災害に見舞われやすい日本。日ごろどんなに備えていても、自然の大きな力を前に、なすすべもないこともあります。そのたびに、わたしたちはやり場のない悲しみや怒りに打ちひしがれます。

子どもたちにとっても、そのやり場のなさ、言葉にできない思いは大きな心の負担になっています。そして、その負担を受け止めるプロセスで、子どもたちは大人とは少し違った反応を示すことがあります。

今回は、自然災害後の子どもの「急性期の反応」に対して、保護者の方にできるケアについて、ご一緒に考えます。

自然災害に限らず、「学校で起きたストレス(による不登校や行き渋り)」にも転用できる内容ですので、ぜひご覧ください。

【関連記事】
自然災害の後、子どもが「学校へ行きたくない」と言い出した! 親が知っておきたい3つのこと

心の救急箱「サイコロジカル・ファーストエイド」を知っていますか?

すり傷や切り傷を負ったとき、わたしたちはまず自分たちで手当てをします。絆創膏や塗り薬など、最低限のケア用品を救急箱に用意している家庭も多いでしょう。近年では、湿潤療法(傷口を乾燥させない方法)など、手当てに関する知識がアップデートされています。

身体の傷と同様に心の傷にも、初期の手当て方法があります。それが、「サイコロジカル・ファーストエイド(心理的応急処置)」です。

「サイコロジカル・ファーストエイド」の歴史は長く、1940年ごろからアメリカやオーストラリアで提唱・研究されてきました。現在は、2006年にアメリカ国立PTSDセンターが開発した「サイコロジカル・ファーストエイド」が用いられています。さらにそれもとに、WHOなどさまざまな団体がマニュアルを発行しています。

「サイコロジカル・ファーストエイド」は、災害やテロで心にダメージを負った人のための、心理的支援の方法です。初期の心の苦しみをやわらげ、回復を助けるために、支援者はどのような行動をとったらよいのか。その指針が書かれています。

「サイコロジカル・ファーストエイド」は、医療従事者やカウンセラーなど専門家でなければ使えないというものではありません。災害現場でのボランティアや自治体職員などにも使うことができるマニュアルです。救急箱と同じように、保護者が子どものケアのために使うこともできます。

参考:
兵庫県こころのケアセンター「サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引き 第2版」日本語版(アメリカ国立PTSDセンター版日本語訳)
厚生労働省「心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)フィールド・ガイド(WHO版日本語訳)
文部科学省「CLARINETへようこそ」心の外傷とその対応(2001年9月11日ニューヨーク同時多発テロ直後に発表された文書)

自然災害直後、子どもの気になる反応・行動に対応するには?

では、心にダメージを負った直後の子どもの反応・行動について、「サイコロジカル・ファーストエイド」の考え方から、対応方法を見ていきましょう。

就学前〜小学校低学年の子どもは、現実にないことを言ったり、今までできていたことができなくなったりすることがあります。不安な気持ちをまだうまく言葉で表現できないため、その気持ちが行動に現れやすくなります。

「現実にないことを言う」のは、過去の危険な出来事が現在も起こっているように感じて、混乱しているためです。「頑丈な建物の中にいるよ」「もう雨はやんだよ」など、事実を確認しながら、今は危険が去って「安全」であることを伝えてください。

災害に関係する「ごっこ遊び」をする子どももいます。「不謹慎」と感じられるかもしれませんが、ショッキングな出来事を子どもの心が受け止めるための行動ですので、叱ったり、やめさせたりしないようがよいでしょう。

「今までできていたことができなくなる」ことの例として、一人でトイレに行けなくなったり、一人で寝られなくなったりすることがあげられます、保護者と離れられなくなり、学校へ行けなくなることもあります。まずは子どもの不安を理解して、安心させましょう。

また、指しゃぶりなどの「赤ちゃん返り」が起こることもありますが、一時的なことです。あわてて無理にやめさせる必要はありません。

小学校中学年以上になると、不安や恐怖、悲しみなどの感情を、より具体的に感じられるようになります。それらの感情に翻弄されて、急に泣き出したり、怒り出したりすることもあります。がまんさせずに感情を表現させ、否定せずに受け止めてあげてください。

思春期の子どものなかには、自分や他者を傷つけるような行動、苦しさを紛らわせるための無謀な行動(いわゆる「非行」)に走る子どももいます。感情的に対応せず、危険な行為であることを落ち着いて伝えてください

また、心の成長が進むにつれて、他者を心配して気に病んだり、出来事に対して罪の意識(「自分は何もできなかった」)を抱いたりすることもあります。その子には何も責任がないことを伝え、今、何ができるのかを子どもが考える手助けをしましょう。

自然災害後の子どもの心のダメージを大きくしないために注意したいこと

身体の傷の手当てには、「傷口をよく洗って清潔にする」など、後から化膿したりしないようにするための「知恵」があります。同じように、自然災害後の子どもの心のケアをするときにも、保護者が知っておきたい「知恵」があります。

◾️無理に話させない

子どものようすが普段と違っていると、保護者は心配になり、あれこれ尋ねたくなるかもしれません。「どういうことが怖かったのか」「どうして不安なのか」など、出来事を具体的に思い出させるような質問をして無理に話させようとすると、子どもの心のダメージの回復に影響することがあります。

子ども自身が、話したいタイミングで、話したいことを話せるようにしましょう。そして、その言葉に注意深く耳を傾け、「ちゃんと聞いているよ」「受け止めているよ」というサインを送りましょう。

◾️子どもの成長段階に合わせた言葉を使う

子どもが何か話そうとしているときに、気持ちをうまく言葉で言い表せないことがあるかもしれません。子どもが普段使っている言葉、たとえば、「こわい」「かなしい」「ムカつく」といったやさしい言葉を使って、気持ちの表現を手助けしてください

また、思春期の子どもに対しては、「大人同士」として接してください。保護者の方から見るとまだまだ心配な「子ども」かもしれません。大人びた言葉を使ったとしても、話す内容に「子どもっぽさ」が残っていることも、確かにあります。

しかし、災害直後に思春期の子どもに見られる反応・行動は、大人にも見られるものです。敬意をもって話を聞いてもらえているというサインが、思春期の子どもの心の回復に役立ちます。

◾️子どもをさらなる傷つきから守る

自然災害発生時には、メディア関係者がいち早く現地に入ります。記者からインタビューを受けたり、撮影されたりすることがあるかもしれません。こうした取材活動は、大人でもあまりいい気持ちはしないものです。

子どもが刺激に敏感になっているときには取材カメラなどから離れる、インタビュー取材を受けるときには「答えたくないことには答えなくていい」と伝えておく、保護者の判断で取材を断るなど、子どものプライバシーや尊厳が守られるようじゅうぶんに配慮してあげてください

保護者の行動の変化が子どもの行動に影響することも!

自然災害の直後に子どもの心をケアするとき、とてもたいせつなことがあります。それは、保護者自身が「自分も災害によってストレスを受けていること」に気づくことです。

自然災害による不安や恐れの気持ちは、子どもだけが感じるものではありません。大人でも、心に大きなダメージを負うことがあります。それでも、「子どものケアをしなくちゃいけないから、自分ががんばらなければ」と、つい無理をしてしまいます。

しかし、保護者が感じている不安や恐れは、保護者の言葉や行動に表れます。保護者の不安を感じとったことで子どもも不安になり、さまざまな反応や行動の変化につながることもあります。

災害の直後は、保護者ご自身にも安心と休息が必要です。一人でつらい気持ちを抱え込まず、周囲の大人と気持ちを分かち合ってください。愚痴でも、泣き言でもいいのです。

もし、ご自身で子どものケアをすることが難しいと思ったら、迷わずに助けを求めてください。

心のダメージの長期化を防いで、少しずつ日常のリズムを取り戻して!

今回は、自然災害直後の子どもの心のダメージのケアについて、「サイコロジカル・ファーストエイド」の考え方を紹介しました。

自然災害のような、突然の出来事で受けた心のダメージが長期化することで、「学校へ行く」というそれまでの日常を送りづらくなることもあります。

そして、「これは自然災害だけではく、学校で受けた大きなストレスでも、同じことが起こるのではないか?」と気づいた方もいるかもしれません。

「サイコロジカル・ファーストエイド」の考え方を知って、子どもの心をケアする救急箱としてぜひ役立ててください!

 

「不登校オンライン」では、会員向けの記事(有料)をご用意しています。不登校のお子さんをサポートするために知っておきたい情報や、同じ悩みをもつ親御さんの体験談などを掲載しています。お申し込みは下記から(30日間無料)。

関連記事

登録から30日間無料!ゲーム依存、昼夜逆転、勉強の話、子どもにしてもいいの…?疑問への「答え」が見つかるウェブメディア 不登校オンライン お試し購読はこちら