「不登校からの高校選びに迷っている親へ」現役校長が語る高校選びの際に役に立つ4つの極意【全文公開】
不登校からの進路選択。どのような学校があるのか、何を基準に選べばよいのか、わからないことだらけという方も多いと思います。そこで今回は数々の高校の立ち上げに携わり、不登校の子の進学事情にもくわしい時乗洋昭さん(山手学院中学校・高等学校校長)に「高校選びの極意」をうかがいました(※写真は時乗洋昭さん)。
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――不登校の中学生が高校への進学を考えるとき、本人やご家族はまず何から考えればいいのでしょうか?
お子さんが不登校だと、何を基準に学校を選べばいいのか、誰に相談すればいいのかなど、わからないことがたくさんありますよね。そんなとき何よりも最初にすべきことは、本人に次の2つのポイントを確認することです。
1つ目は、「毎日学校に通う生活に戻りたいのか、現在の通学しない状況を続けたいのか」ということ。2つ目は「今、したいことは何か」ということです。
まず1つ目です。「高校生になったら毎日通うぞ!」と言うお子さんもたくさんいますし、実際に通えるようになるケースも多々あります。ただ、私が見てきたかぎり、環境が大きく変わるなかで不登校に戻ってしまうお子さんもすくなくありません。2度目の挫折は、1度目の挫折に比べて、はるかに大きなダメージになる場合があります。
だから、私としては、通えなくなりそうな心配があれば、無理をせずに通信制高校を検討してもいいのではないかと思います。
2つ目は、「今、したいことは何か」です。もちろん、将来について考えることも大事なのですが、不登校の子の場合は、「今したいこと」にスポットを当てるほうがよい場合が多いです。たとえば、ゲームに夢中なのであれば、とりあえず勉強は横に置いて、ゲームに熱中できる時間を取りやすかったり、環境が整っていたりする高校を探してみるのも1つの手です。
高校は3種類 どう選べば?
さて、高校は「全日制、定時制、通信制」と大きく3種類に分けられます(図1)。1つひとつはさらに細かく分類されるのですが、どの形態の高校に通うにせよ、卒業資格を得るために必要な条件はただひとつ、「74単位以上取得すること」です。この「74単位」は、全日制高校に毎日通っても、定時制高校に夜だけ通っても、通信制高校でオンライン中心で学んでも取得することができます。
高校選びの際に、相談先がなくて困ることもありますね。私見ですが、中学校の先生の多くは学校へ来ている子の対応に追われており、来ていない子にまで手がまわらない場合が多く、通信制高校の情報も持っていないことが多いようです。在籍する中学校が頼りにならないときは、高校選びの「極意」として以下を心に留めておいてください。
①気になる高校があれば、直接連絡して話を聞きに行くこと。きっとていねいに情報を提供してくれると思います。
②お住まいの県の教育委員会に相談すること。最近は、東京都の「チャレンジスクール」や神奈川県の「クリエイティブスクール」のように、不登校経験のある子に対応してくれる公立高校も増えています。そうした情報も教えてくれるはずです。
③入学後、欠席日数が規定数をオーバーしてしまった場合に救済措置を講じてくれるのかどうかを確認すること。欠席日数が規定数を超えた場合の対応は学校によって千差万別です。
④実際に学校へ足を運んで、空気感を肌で感じること。とくに生徒の登校風景を見てください。パンフレットではわからない、生徒たちの日常の雰囲気がよくわかります。
――なるほど、教育委員会を頼ったり、高校へ直接アクセスしてみるのがよいのですね。ところで、昨今は不登校の子が通信制高校を選ぶケースが増えています。通信制高校の選び方について教えてください。
はい。ここまでは高校全般についてお話ししましたが、いざ通信制高校へ進学したいとなった場合、ポイントは3点あります。
通信制の選び方 ポイントは3点
①レポート作成など、単位修得のための学習にどの程度のエネルギーを割くことが求められるのかを確認すること。
たとえば、私立の広域通信制高校(学校の所在地以外の都道府県からも入学できる通信制高校)のなかには、単位修得のための学習を軽めに抑えて、興味のあることに時間を割けるようにプログラムが組まれている高校がたくさんあります。「74単位取得」という条件は同じですが、やりたいことに時間が割けるよう、レポートの内容や量に工夫がされているのですね。
②面接指導(スクーリング)の場所や形態を確認すること。学校によっては、面接指導を合宿形式で行なうこともあります。参加できない場合のことなどもあらかじめ確認しておくほうがいいでしょう。
③授業料を確認すること。最近の私立通信制高校は授業以外に、声優コース、K‐POPコース、e‐スポーツコースなど、多様な活動をサポートしていることが多いです。
親御さんとしては「この通信制高校は息子が好きなe‐スポーツのコースもあるから、趣味と勉強を両立できる」と思うかもしれませんが、単位取得のための費用と、趣味的な活動をするための費用はべつになっていることがほとんどです。
また、授業料については就学支援金(*)が適用されますが、趣味的な活動については、適用対象外であることがほとんどです。
こうした学費の詳細については学校案内で明記している高校もあれば、まったく書かれていない高校もあります。かならず事前に確認しておきましょう。
サポート校とは何か?
――広域通信制高校に入学するのであれば、同時に「サポート校」にも入る必要があるという話をよく聞きます。「サポート校」とはどのようなものなのでしょうか?
広域通信制高校の多くは全国から生徒を募集しています。たとえば、「N高」の本拠地は沖縄県ですが、日本全国どこからでも入学できますよね。基本的にはオンラインなので、自宅と学校が離れていても構わないのです。
ただ、必要な単位を取るには、決まった回数の面接指導を受けなければなりません。そこで、広域通信制高校はそのための連携協力施設を各地に持っているのです。すこし複雑な話になりますが、図2を見ながらお話ししましょう。連携協力施設は「面接指導等実施施設」、「学習等支援施設」、「その他の施設」と大きく3つに分類できます。
1つ目の「面接指導等実施施設」は、通信制高校と直接的に連携協定を結んでいる学校法人のこと。
各教科の面接指導など、ここでの活動はすべて通信制高校の単位に直結します。
2つ目の「学習等支援施設」は通信制高校と提携し、レポート作成などの支援をする施設です(一部のフリースクールなども含む)。
3つ目の「その他の施設」も通信制高校と提携関係にあり、おもにe‐スポーツなど学習以外の趣味の活動などにも使われる施設を指しています。
ちなみに、世間的にはこの3つを混同して「サポート校」と呼びがちですが、「サポート校」とはあくまで通称。文科省としては3つの区分けがあるということです。なお「面接指導等実施施設」と「学習等支援施設」は「通信教育連携協力施設(サテライト施設)」として法的に位置づけられています。
こうした連携協力施設を選ぶときも、やはり現地を見ることが大切です。通信制高校の学校案内に全国の連携協力施設の詳細までは書かれていませんし、各施設の実態にまで本校の目が行き届いているとは言い切れませんから。
チェックすべき点は、教科専任の職員が何人常駐しているのか、ということです。勉強がわからなくて電話をしても、いつも誰もいない、ということでは困ってしまいますよね。また、面接指導の際に養護教諭やスクールカウンセラーがいるのか、といったことも確認しておきたいところです。
――不登校の中学生が進路に悩んだときには、幅広い選択肢があることがわかりました。では不登校の小学生の進学先として、通いやすい中学校などは整備されているのでしょうか?
高校の選択肢がここまで広がったのは、「大学や専門学校進学のために、高校卒業資格は取っておきたい」と思う生徒が多いからです。それに対して、小中学校は義務教育ですから、通おうが通うまいが卒業はできますよね。だから、おそらく行政サイドは、不登校の小中学生が通いやすい学校がないことを、それほど問題視してこなかったのではないでしょうか。
でも、実際は「卒業できればそれでいい」という話ではありませんよね。
学びの断絶 生まないように
不登校期間中に学びが滞ったり、外の世界と断絶されたりすることは、改善していかなければならない大きな問題です。たしかに民間のフリースクールに通うという選択肢もありますが、費用がかかる場合がほとんどですし、自宅の近くになければ遠方まで親御さんが送迎しなければなりません。
そういう意味では、N中等部や八洲学園中等部などのような通信制中学校が広がっていくことに、私は期待しています。小中学校にもいろいろな選択肢があるんだよ、という考え方がスタンダードになるといいですね。
――ありがとうございました。(聞き手・編集/棚澤明子)
【プロフィール】時乗洋昭(ときのり・ひろあき)
私立山手学院中学校・高等学校校長。全国通信制高校評価機構事務局長。厚木清南高校、横浜桜陽高校、横浜修悠館高校立ち上げに携わるなど、神奈川県公立高校の改革に長年尽力。趣味はマラソン。
(初出:不登校新聞620号(2024年2月15日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)