不登校の親だってつらいんだ。親の支援にも取り組むNPOの思い【全文公開】
自分の子どもが不登校になったとき、頼れる場所はそう多くはありません。栃木県で活動するNPO法人キーデザインの代表・土橋優平さんは「不登校の子を持つ親御さんの味方でありたい」と言います。フリースクールなどで不登校の子どもの支援するほかに「お母さんのほけんしつ」という親御さんの悩みと向き合う取り組みも行なっている土橋さん。不登校の子の親御さんにも支えが必要だと感じた理由や今悩んでいる親御さんに伝えたいことなど、お話をうかがいました(※写真は土橋優平さん)。
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――「お母さんのほけんしつ」は、具体的にどのような取り組みなのでしょうか?
「お母さんのほけんしつ」は、不登校の子どもを持つ親御さんへ向けた、無料のLINE相談サービスです。お子さんへの接し方など不登校全般についての悩みを、メッセージのやりとりを通して、いっしょに考えていきます。不安でいっぱいになっているお母さんお父さんに、モヤモヤした気持ちを吐き出してもらいたい、悩みを共有してもらっていっしょに前に進んでいきたいと考え、始めた取り組みです。
――なぜ、親御さんへの支援を始めたのですか?
それは、当事者である子どもたちと接していて、子どもが元気になるためには「親御さんも余裕を持った状態で元気でいること」が大事だと感じたからです。きっかけは、ある子どものようすでした。私が関わるなかで徐々に表情が明るくなっていった子が、あるとき、もとの元気のない状態に戻っているということがありました。どうしたのかと聞くと「家でいろいろあってさ」と言ったんです。親御さんに確認すると、「学校へ行ってほしい気持ちが拭えなくて、ついプレッシャーをかけてしまった」とのこと。
はっとしました。家庭の外にある場所や家族以外とのつながりも大事ですが、子どもたちの帰る場所はやっぱり家。だから、家でのすごし方も支援を考えるうえで外せないことだと思いました。フリースクールやホームスクールなどでストレスをやわらげたり気分を変えたりできても、家で窮屈な思いをすると、子どもの安心感は育っていきません。接し方によっても子どもの状況は変わると認識し、親御さんに目を向けていくようになりました。
親御さん自身がとても苦しんでいるようすを目の当たりにしたことも、支援に踏み切るきっかけでした。親御さんたちはいつも揺らいでいます。子どもがどうしても学校へ行くのがつらいなら、無理強いはしたくない。でも子どもの将来を考えると不安で、つい「学校どうするの?」と言ってしまうと。子どもへの接し方に迷っているんです。だからこそ、当事者だけでなく親御さんの不安にも寄り添わなければならないと思いました。
――親御さんからは、どんな相談があるのでしょうか? また土橋さんは実際に親御さんにどんな言葉をかけているのですか?
相談内容はさまざまです。子どもが暴れていてどう接したらいいのか、学校の先生とのやりとりに困っている、夫婦で子どもへの接し方に差がある、祖父母に不登校の理解がなくプレッシャーになっているなど、みなさん本当に大きな不安や葛藤を抱えていらっしゃいます。なかには、買い物へ行っているあいだも子どものことが頭から離れない、仕事でパソコンを打っているあいだも心配で涙が流れるという方もいます。
ありがとうから
私たちはご相談をいただいた際「いつもお子さんのために、ありがとうございます」と伝えることがあります。感謝の言葉を私たちから伝えるのはヘンだと思うかもしれませんが、「ありがとう」を親御さんに受け取ってもらうことが、悩みを考えていく出発点になるんです。というのは、不登校の子どものことで悩んでいる親御さんは「自分は親として、しっかりこの子のことをなんとかしなきゃいけない」と義務感にとらわれていることが多いんです。子どものことばかり考えて自分のことを考える時間は二の次。でも、自分に余裕のない状況で誰かを全力で守ろうとすることは難しいですよね。親御さん自身が夜眠れない、仕事に集中できないというような状態で、子どものことまで考えるのはたいへんです。から、まずは親御さん自身が自分を大事にしてよいと思うんです。そのためにも「親だからあたりまえ」という重荷をおろしてほしくて、「ありがとう」を伝えています。親だからといって身を投げうってまでがんばらなきゃいけないことはないんですよ。
また、ご相談をいただく方のなかには、なるべくいっしょに居てあげたいからと、子どものために仕事を辞めようと悩んでいる方も多くいます。お子さんが心配でたまらない気持ちはよくわかるのですが、「退職は1度待ってください」と私たちはお話しさせていただいています。休職や雇用形態の変更など別の道をいっしょに考えるんです。
それは、仕事を辞めてしまうと親御さんと社会とのつながりが薄れてしまうからです。仕事を辞めると子どもと1対1の時間が増え、家庭外の人と話す機会は以前よりすくなくなると思います。でも、親御さんが家に居るようになったからといって、かならずしも子どもの心の傷が回復するわけではないですし、子どもへのよい接し方が見つかるわけでもありません。そんななかで外とのつながりが減ると、家庭内で悩みが煮詰まってしまうこともある。だから、ほかの選択肢を含めて決断を焦りすぎないようサポートさせていただいています。心配や愛情ゆえに、親御さんはお子さんを優先すると思うのですが、お子さんと距離を取ることも、親御さんにとっては大切なことだと私は思っています。
――どうして子どもと距離を取ることが必要なのでしょうか?
それは親御さんに、自分と子どもはちがう人間だということを受けいれる余裕をつくってもらうためです。子どもを支えていくためには、子どもは別の人生を歩んでいる自分とはちがう人間だと認識することが欠かせません。しかし親御さんが自分の価値観にとらわれずに子どもを見るのは、かんたんではありません。人は誰しも自分が生きてきたなかで得た価値観が正しいと思うからです。余裕がない状況ならなおさら、ちがいへの理解は進まないと思います。だからお子さんのことをいったん脇に置いて、ご自身のことを考えてみてほしいんです。
望みのちがい
そもそも親御さんと子どもでは望んでいることが全然ちがいます。多くの子どもは、学校へ行けなくなるずっと前から苦しさを抱えています。長期間、無理をしてがんばってきたから「今は安心したい」と願っている。一方で親御さんが望んでいるのは、勉強の遅れや進学・就職への不安を解消すること。「お母さんのほけんしつ」内で行なったアンケートでも「親が感じている不安」の項目ではこの2つの回答が圧倒的に多かったです。でも、子ども自身は勉強の遅れを取り戻したいとは考えていません。悩みのすれちがいは子どもだけでなく親御さんにとっても苦しみの種になります。おたがいの苦しみをやわらげるためにも、お子さんから1度離れて方向性のちがいを親御さんに知ってもらえたらと思うんです。
――今悩んでいる親御さんたちに伝えたいことは、ほかにありますか?
「ひとりで抱えないでください」と伝えたいです。親御さんは子どもの不登校によって、社会や家庭内で孤立してしまうことがあります。社会からは近所の人との会話が減ったり仕事を辞めたりすることで孤立しますし、家庭内では夫婦間で連携が取れないことで孤立が起こることもあります。とくにお母さんが孤立していることが多いです。お父さんが抑圧的であったり、何年もまともに夫婦で話せていなかったりして、思っていることを話せていないとよく耳にします。
誰にも本音を打ち明けられないというのは本当につらいことです。私自身もまわりに理解されないことにつらさを感じていたことがありました。小学2年生のとき、「生きるってなんだろう?」と私はよく考えていました。深く考えることが好きだったんです。ところがあるとき、友だちに考えていることを話したら、「まじめくんだね」と言われてしまいました。ショックでした。友だちと自分とのあいだに溝を感じ、ひとりになった気がしました。人が離れていくさびしさを感じた私はその後、人前でふざけるようになりました。何もない道でわざと転んだり、ちょっとしたことに声を上げて爆笑したり、演技するようになったんです。自分を隠して演じていれば人とつながっていられると思ったんですね。高校の担任の先生との出会いをきっかけに、私は本音で話せるようになりましたが、今ふり返っても、ひとりで孤独を抱えるのは苦しい経験でした。
悩みの伴走者に
どんなことでも自分の気持ちを表に出せると、その先の「何か」につながっていくと思います。今苦しんでいることから1歩踏み出すためにも、どうか「人を頼ること」を恐れないでください。親御さんのなかには自分の子育てが悪かったのではないかと自分を責めている方もいますが、過去のことはそのとき一生懸命に考えて行動したことだったと思います。親のみなさんは本当に努力されてきました。でも、これ以上ひとりでがんばる必要はありません。誰かに頼っていいんです。「お母さんのほけんしつ」では子どものことだけではなく、親御さん個人の相談も受けつけています。なんだったらグチをこぼしてもらうだけでも私たちは大歓迎です。みなさんの悩みの伴走者でありたいと、私たちは思っています。
――ありがとうございました。(聞き手・遠藤ゆか、編集・本間友美)
「お母さんのほけんしつ」利用方法
スマホやタブレットで下記QRコードからアクセスし、LINE上で友達追加していただくことで、ご利用いただけます。1行のみの短文でも、長文でも構いません。悩んでいることやご自身の思いをご自由にお送りください。もちろん、お父さんも利用できます。(※日・祝は休日のため返信はありません。また稼働日でもすぐの返信ができない場合もあります)
NPO法人キーデザイン
電話 080-1853-6296
【プロフィール】土橋優平(どばし・ゆうへい)
NPO法人キーデザイン代表理事。大学時代に周囲の生きることへの姿勢に疑問を持ち、中退後にNPO法人キーデザインを起業。「ひとりにならない社会をつくる」を目指し、栃木県宇都宮市とさくら市で不登校の小中学生向けのフリースクールを運営。ホームスクール(家庭訪問プログラム)と、保護者向けLINE相談支援「お母さんのほけんしつ」にも取り組んでいる。
(初出:不登校新聞571号(2022年2月1日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)