「勉強を全然しません」不登校の親の悩みにフリースクール代表が語る学びの本質【全文公開】
「不登校してたら勉強が遅れてしまう」不登校の親にとって、子どもの勉強をどうするかは心配の種です。不登校支援にたずさわる土橋優平さんは、学校の勉強よりも、その子自身の「好き」からたくさん学ぶことが大切だと言います。(連載「出張版 お母さんのほけんしつ」第7回)※写真は土橋優平さん
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「子どもが勉強をまったくしないんです」、「ほかの子はどんどん進めているのに、うちの子だけ遅れていってしまって」。そんなご相談をよくいただきます。親としては、子どもが勉強せずにいるのは大きな心配の種ですよね。
私が代表を務めるNPOではフリースクールも運営しています。本人の希望があれば勉強を教えることもありますが、実際に勉強に取り組んでいる子は1割に満たないのが現実です。でも、子どもたちは勉強をしなくても日々「学んで」います。
そもそも勉強することで何が得られるのか。私は自分自身によく問いかけます。国語力を身につけて、他人とコミュニケーションをうまく取れるようになる。計算のしかたを学んで、日々の生活に困らないようになる。「いい学校」へ行って、「いい会社」へ就職する。人によってその解は異なってくるでしょう。
私が大勢の子どもたちとの関わりのなかから編み出した答えは「初めての事柄との出会いを楽しみ、自分の人生に積極的になる」でした。キーとなるのは「好き」、「楽しい」ということです。まず「勉強」という言葉ですが、一般的にイメージされるのは、学校の授業や教科書学習です。でも私はそうした意味の「勉強」ではなく、より広い視野で見た「学び」のほうが大事だと考えます。
好きから学ぶ
たとえばある不登校の小学生はゲーム「マインクラフト」にドハマりしています。毎日6時間以上費やし、ついにはゲーム機では飽き足らず、パソコンを購入してまでやるように。すると数カ月も経たないうち、にその子はローマ字打ちをマスターしていました。大人の力をいっさい借りずに。本人は好きなマインクラフトのために、みずからユーチューブやネット上の情報からスキルを得たのです。
たとえばある不登校の中学生は、海外生活を長くしていたこともあり、日本に来てからも家族で英語を話すのが日常でした。話せるだけでなく、日本語と英語の文章校正や単語1つ1つの意味、そこから見えてくる文化のちがいといった点に関心を強く持ち、「言語」が好きでした。その子は中学生で英検準1級をとりました。TOEICは900点を越えるまでに。その子は自分なりにネット上で英語圏の友人をつくり会話を通して日々学んでいました。好きという気持ちから、自分なりの手法を見つけ、大人顔負けのスキルを持てるまでになったのです。
彼らは「勉強している」つもりはありません。「好きなことをするために必要なことを得た」という感覚です。誰かに押しつけられた学びではなく、本人が「楽しい」と思っているから、自然と学ぶのです。
こうした「学びをとことん楽しむ」経験をした子は、自分の人生に積極的です。自分の生活のなかに好きなことがあれば、それをするためなら、不安や怖さのある初めてのことでも、一生懸命に取り組むのです。「好きこそものの上手なれ」という言葉がありますが、まさに「好き」は人生のオアシスなんです。みなさんのお子さんはどんなことが好きですか。たとえ勉強をしていなくとも、好きなことからたくさん学ぶこと、それが生きるうえで大切なことだと思うのです。
■執筆者/土橋優平(どばし・ゆうへい)
NPO法人キーデザイン代表理事。不登校支援のほか保護者向けLINE相談「お母さんのほけんしつ」を開設中。
(初出:不登校新聞595号(2023年2月1日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)
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