【全文公開】手洗いや長時間の入浴 強迫神経症に悩む子どもに親ができること
不登校経験者のなかには「手洗いが止まらない」「カギ閉めの確認を何度もする」など、強迫神経症の症状で悩んだという方がいます。「無理にでもやめさせるべきか」「病院へ連れて行くべきか」と悩んでいる親御さんもいると思います。不登校経験者と医師の語りから考える「親にできること」とは。
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不登校経験者のなかには「不潔に思えて何度も手を洗う」「ガスの元栓やカギの戸締まりを何度も確認する」など、強迫神経症の症状で悩んだ、という方がいます。今回は、ある不登校経験者の実体験をもとに、親にできることを考えます。
ベッドの上だけ
Aさんが不登校したのは小学6年生の2学期。中学受験のための塾通いをするなかで体調を崩すようになり、夏休み明けから不登校になりました。そんなAさんに異変が起きたのは中学2年生のときでした。
最初のきっかけは「地面が汚れている」と感じるようになったこと。これが強迫神経症の始まりでした。外出先の汚い地面にふれたズボンを着ていると、家のなかまでどんどん汚れていくように思えてしまい、しだいに家具にもさわれなくなってしまったのです。手洗いも止まらなくなり、明け方まで何時間もお風呂に入るようになってしまいます。また、調理器具が汚れていると感じるようになってからは、ご飯さえ満足に食べられなくなりました。最終的に、自分のベッドの上にしか居られなくなる状態が約1年続きました。
そんな状況のなか、Aさんは「現状を無理に変えようとするのではなく、今はこういう時期と受けいれたほうが楽になるのではないか」と考えるようになります。この状態が今後何十年も続くことはないだろうと開き直ったのです。その結果、気持ちもだいぶ楽になり「自分が居られる場所をベッドの上から広げてもよいかも」と、しだいに思えるようになったと言います。
医療への関わり
子どもに過度の手洗いや長時間の入浴などの症状が見られる場合、親御さんのなかには「無理にでもやめさせるべきか」「病院へ連れて行くべきか」など、悩まれている親御さんもいらっしゃると思います。
他方で、児童精神科医の高岡健さんは「親が最初にすべきことは、家風を切り替えること」と指摘します。これは、子ども自身が学校へ行かないで暮らすことが当然と思えて安心できるように親の発想を切り替えるということです。
もちろん、家風を切り替えたとしても、Aさんのように、強迫神経症の症状がすぐにおさまらない場合もあります。また、医療機関への関わりという選択肢を最初から除外してしまうというのも尚早だと私は考えます。治療については、認知行動療法や薬物療法が行なわれることになりますが、高岡さんはもう一つ、大切な指摘をされています。それは「治療はなんのために行なうのか、が重要である」ということ。「子どもが安心してすごせるためであり、学校へ行くためではない。家風を変えることなく医療につなげても、治療の効果が出にくいどころか、症状の悪化などを招きかねない」と警鐘を鳴らします。また、高岡さんは「自閉スペクトラム症など、ほかの原因が関係していることもあるため、この場合はまず親だけが医療機関に関わるべき」と助言します。
「不登校その後」
考え方を切り替えたAさんは、1日の大半を家のなかですごし、家族の夕食づくりなど、好きな料理づくりに没頭します。自分のやりたいことを自分のペースでやりつくした結果、気持ちもおのずと外へ向き、その後はカフェの店長を務めるなど、自分の「好き」を仕事につなげていく「不登校その後」を歩んでいきました。(編集局・小熊広宣)
(初出:不登校新聞588号(2022年10月15日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)