子どもと向き合う際の極意 精神科看護師が10年の臨床経験から編み出した9つの合言葉【全文公開】

#不登校#行き渋り

 「お寿司最高かよ」。いやいや、食べるお寿司ではありません。このフレーズは子育てをするうえで極意となるキーワードなのです。このキーワードを提唱したのは児童精神科病棟で働く「子どもの精神科看護師@こど看」さん。こど看さんは日々の経験をもとに、ツイッターとユーチューブで子どもへの関わり方について発信しています。こど看さんが「お寿司最高かよ」に込めた思い、子どもと向き合ううえで大切にしていることを聞きました。

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――こど看さんはどんなお仕事をされているのでしょうか?

 私は児童精神科の入院病棟で働いていて、入院している子どもたちの生活を支えるのがおもな仕事です。入院するということは何かしら診断が下っているということなのですが、発達途中である子どもへの診断はあくまで仮のものです。統合失調症や摂食障害など、さまざまな診断の子がいますが、子どもを診断の枠に当てはめて見ないようにしています。

 ふだんの対応でも特別なことはしません。朝起こして、ご飯を食べてもらって、学校へ行くのを見送ったり院内ですごすのを見守ったりして、どの子にもふつうの生活を送ってもらいます。そのうえで、その子が困っている症状に介入していきます。

試行錯誤を重ねた10年

 入院する子どもは家族と離れて慣れない場で暮らすので、最初は警戒しています。子どもの精神安定のために、私たち看護師は子どもと信頼関係を築くことが何より重要です。私は約10年間現場で子どもへの接し方を試行錯誤してきました。その結果意識するようになったことをまとめたのが、ツイッターで反響をいただいた「お寿司最高かよ」です。

――「お寿司最高かよ」を拝見したとき、不登校の子どもを見守るうえでも極意になると感じました。あらためて、くわしく教えてください。

 「お寿司最高かよ」は、「おびやかさない」、「すぐに助言しない」、「叱責しない」、「最後まで話を聞く」、「(子どもの)意向を軽視しない」、「子どもが使う言葉を使う」、「疑わずにいったん信じる」、「(子どもの)感情を否定しない」、「余計な一言を言わない」という9つの頭文字を取った言葉です。

 「おびやかさない」は、子どもを危険にさらさないことです。そんなのあたりまえだ、と思うかもしれませんが、子どもをかんたんにおびやかせてしまうのが大人です。たとえば「(私に)そういうことを言うんだ?」という一言もおどし文句の1つ。「みんなやっているんだから」と苦手なことを強要するのも子どもには恐怖でしかありません。大人の立場を利用して子どもを怖がらせないように気をつけています。

 「すぐに助言しない」は、助言のタイミングに気をつけることです。子どもが課題を見つけて、自分なりに考えて行動したあとに、いっしょに改善点を考えるのはいいと思います。でも、子どもが課題に向き合っている途中で口をはさんではいけない。「もっとこうしたほうがいいよ」、「それやっちゃまずいでしょ」などの言葉は、のどまででストップです。

非難はしない

 「叱責しない」は、叱っちゃダメということではありません。子どもが危険な行動をしたときは叱る必要があります。では「叱る」と「叱責する」はどうちがうのか。後者には責める要素が入っていると私は思います。だから「叱責しない」は失敗を非難しないということ。何回か失敗しても「何度同じことをするの」などと、子どもを責めることがないように気をつけています。

 「最後まで話を聞く」は、意外と難しいです。大人は子どもより経験を積み重ねている分、子どもの言うことをさえぎって批判してしまう。「いや、でも、だから」とつい言ってしまいますよね。ここで意識するのは、子どもは成長途中であるということです。子どもは今ある力で話しているだけのこと。それを理解するのが大事です。

 「意向を軽視しない」は、「どうせ話してもムダ」という子どものあきらめを防ぐために意識しています。大人は子どもが自分の価値観から外れたことを言うと否定的な反応をしがちです。    たとえば、子どもが「将来ユーチューバーになりたい!」と言ったとき、「それはちょっと……」と返すなど。このような反応を続けていたら、子どもは大人に話をしなくなってしまいます。意向を受けとめて、「大人に相談するのも悪くないな」と思ってもらいたいですよね。

 「子どもが使う言葉を使う」は、子どもと共通言語を持って、おたがいに理解を深めるためです。想像してほしいのですが、人によく知らない業界の専門用語をバリバリ使って話されてもわからないですよね。それと同じで、子どもに大人の世界の言葉で話しても通じません。だから子どもの世界に関心を寄せて、子どもの言葉を吸収するんです。知っている言葉で話してもらえると子どもは気分がよくなってたくさん話してくれます。

 「疑わずにいったん信じる」は、子どもを信じた事実を残すためにやっています。子どもって「ゲームやったら勉強する!」とか言いますよね。でも結局やらない(笑)。過去にこうしたことがあると大人は「どうせ」と疑います。でも大人も似たことをしますよね。ジムに入会したけれど行かない、みたいな。やるかどうかはそのときどきでちがうので、絶対にやるという結果を求めるより、まずは子どもを信じて着実に信頼を重ねるほうがいいと思います。

 「(子どもの)感情を否定しない」は、感情に正解も不正解もないと思うからです。子どもは泣きたいから泣くんです。ただ、大人はその場にそぐわないと感情を抑えることができます。だから「そんなことで泣かないの」と言ってしまうんでしょうね。でも子どもは人生初の経験をたくさん積んでいる最中です。感情のコントロールが難しいのは当然なんです。

 「余計な一言を言わない」も、ついやってしまうので気をつけています。大人は子どもの未熟さが目につくものなんですよね。それで「だから言ったのに」などと口走ってしまう。でもそれを言ってしまうと関係性が損なわれます。余計な一言に関しては本当に言わないだけでプラスになると思います。

――どれも大切な心がけですね。ただ、実行するのは難しそうです。

 そうですよね。全部を完璧にできる人はすくないと思います。でも、だからといって「子どもへの対応をまちがわないようにしなきゃ」といつも思っていると、親自身が硬くなり、子どもを緊張させてしまいます。子どもと距離を縮めたいのにそれでは意味がありませんよね。そこでもう1つ、私が意識していることをお話ししたいと思います。それは、ユーモアを取りいれるということです。

 じつは、かつて私も子どもの前で硬くなっていたことがありました。児童精神科に転職して1年目のことです。当時、私は前職でつらい思いをしたことから看護師としての自信を失っていました。そのため、しっかりしなくてはと張りつめた気持ちで仕事をしていたんです。しかしあまりにも硬くなりすぎていたようで、あるとき教育担当の先輩に、「まじめすぎる。その感じだと子どもたちと打ち解けられないよ。おもしろくない大人と見られちゃうよ」と指摘されました。その言葉を受けて、子どもの心をほぐしたいと思っているのにこちらが壁をつくってはもうしわけないと考え、遊び心を取りいれることにしたんです。

ボケをかまして ゆるくさせる

――どんなことをしたんですか?

 しょうもないことです(笑)。朝「おはよう」と言うときにゆっくり頭を下げたり、夕方退勤するときに体を揺らしながら「バイバイ」と言ったり。要するにボケをかますんです。そして子どもから「なにしてんだよ」とツッコミが入ったら、「いいね、最高!」などと返します。このアクションは別に子どもを笑わせるのが目的ではありません。ちょっと気のゆるんだようすを見せることで、子どもが大人に話しかけるハードルを下げているんです。

 これは「お寿司最高かよ」の「おびやかさない」にも通ずることです。子どもってまじめすぎる大人や立派そうに見える大人には声をかけにくいんですよね。以前の私は子どもたちに全然近づいてもらえませんでした。今は仕事中にぼーっとしたり、ヘンなことを言ったりしてほどよくゆるんでいるので、子どもたちに「ひまそうだね」と話しかけられます。子どもからしたら、「ひまな人がいるから、かまっただけ」と相手のせいにできるんです。会話が始まるよいきっかけになっています。実際、何気ないことから会話が広がり、「じつは今しんどくて」などの声を拾えるようになりました。

 入院している子の親御さんにも外泊の際に、コミュニケーションの手段としてユーモアの活用をお伝えすることがあります。「お子さんが家のご飯を食べられたら、『こんなに食べられるなんて今日はもうお祭りね』とうれしそうに言ってあげるといいですよ」など、子どもがしたこと・できたことにユーモアのある言葉を乗っけていくことを勧めています。ただ、突然テンション高くヘンなことを言うと警戒されることもあるので、最初はその子を巻き込まず、独り言っぽく言うといいです。大事なのは、「あなたに関心があるよ」という事実を残すことなんです。

 人にユーモアを使うときは、自分がゆるくなるだけでなく、相手の心をどうゆるくさせられるかと、その人のことをたくさん考えると思います。だからユーモアは相手に関心を示すサインのようなもの。そう考えると爆笑を狙う必要はありません。私もおもしろさより、「大人が自分に関心を向けた」という記憶が子どもに積み重なることを意識してユーモアを用いています。

 私が接する子たちは、ほとんどがつらい思いを経験しています。過去は変えられませんが、私はすこしでも子どもの過去への認識を変えていけたらと思っています。「あのときつらかったけど、ヘンなことしていつも私を見ている大人がいたな」と、将来子どもたちが思い出してくれたらうれしいです。

――ありがとうございました。(聞き手・本間友美)

【プロフィール】子どもの精神科看護師@こど看(こどかん)
看護師資格取得後、大学病院の内科に勤務するが、理想の看護師像と現実のギャップに悩み、1年で離職。3カ月間のひきこもりののち、別の病院の児童精神科へ転職。現場経験を活かし、子どもへの関わり方をSNSで発信する。
Twitter:@kodokanchildpsy

(初出:不登校新聞603号(2023年6月1日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)

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