心療内科医が語る、子どもに必要な「いい甘え」とは【全文公開】

 2021年もコロナが猛威を振るった年でした。コロナ禍は子どもの心にも大きな影響を与えており、昨年度は小中高生の自殺や不登校が過去最多を更新。今の子どもたちの状況をどう認識し、大人はどう向き合っていくのがよいのでしょうか。心療内科医・明橋大二さんにお話をうかがいました(※画像は明橋大二さん)。

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――2021年もコロナ禍で揺れ動く一年でした。子どもたちはどんなようすだったのでしょう。

 2020年度の不登校児童生徒数は過去最多を記録しましたが、2021年度はそれを上回るだろうというのが、心療内科医としての現場感覚です。コロナ・ストレスの一つのサインだと感じるのは、子どもの強迫性障害の相談が増えたことです。

 もともとの気質が心配性であったり、人一倍いろいろなことを気にしたりするタイプの子が、コロナによって、さらに不安が強まり、不潔恐怖やバイ菌恐怖となって、手洗いを必要以上にくり返すのが典型的な症状です。

止められない長時間の手洗い

 家族にうつしたらいけないと言って、学校から帰ると手が真っ赤になるまで何時間も洗い続けてしまう。服にバイ菌がついたのではないかといって、家に帰ったら、服をすぐ脱いでシャワーを浴びる。2021年はそういった子どもがすくなからず見られました。

――コロナ禍では逃れようのないストレスを子どもも感じているのだと思います。どうやって子どもの気持ちを発散させたらよいのでしょうか?

 やはり「子どもの話を聞く」、これに尽きると思います。2020年には自殺者の数が11年ぶりに前年を上回りました。なかでも女性と子どもの自殺が増加しています。背景の一つとして考えられるのは、コロナによるコミュニケーションの遮断です。ママ友とおしゃべりをして、日ごろのストレスを発散していたお母さん方も多いでしょう。子どもたちにしても、友だちと話をしたり、体を動かしていっしょに遊ぶことは、ストレス発散の大事な手段です。

 しかし、コロナ禍ではそれができなくなってしまいました。だからこそ大人はしっかりと子どもの話に耳を傾けてほしいと思います。

 子どもは不安を感じると「甘える」という形でサインを発します。具体的には「親にベタベタする」「スキンシップを求める」「夜、親の布団に入ってくる」などです。こういう甘えを受けとめることは、子どもに安心感を与え、ストレスを軽減するために大事です。そして甘えの表現の一つが「話を聞いて」と求めてくることなのです。

 子どもの話を聞くときに大事なことは、「子どもが話したいときに、そのタイミングで聞く」ということです。とくに思春期の子の場合は、話しかけてきた「そのときに聞く」ことが大事です。

 思春期になると、子どもは親に話を聞いてほしいと、あまり思わなくなってきます。でも、ごくたまに、聞いてほしくなるときがあるわけですね。ところが親はそういうときにかぎって忙しい。「今ちょっと忙しいから」とか「あとにして」と言ってしまいます。じゃあ、あとで子どもが話をしてくるかというと、来ません。気持ちが変わってしまうからです。

 ですから年ごろの子が「話がある」と切り出したときは、どんなに忙しくても手を止めて、そのときに耳を傾けてほしいですね。

著者・明橋大二/イラスト・太田知子/1万年堂出版

よい甘えと悪い甘やかし

――子育て中は「甘やかしすぎかな」、「もっと厳しくしたほうがいいかな」という悩みはつきものです。子どもをどこまで甘えさせてよいのでしょうか?

 コロナ禍で親子がいっしょにいる時間が多くなると、世話をしすぎている気がして「これは甘やかしかもしれない」と感じる人がいるかもしれません。甘えには、「よい甘え」と「悪い甘え」のがあるのをご存じでしょうか。よい甘えは「甘えさせる」と言います。悪い甘えは「甘やかす」と言います。どこがちがうかというと、2つあります。

 まず「よい甘え」は、子どもの情緒的な要求に応えることです。子どもの「抱っこして」や「話を聞いて」の要求に応えることです。あるいは子どもが何かつらい思いをしているときに、手助けすることもそうです。これらはいくらやっても、「甘やかす」にはなりません。

 一方、悪い甘えである「甘やかす」は、子どもの物質的な要求に、言われるがままに応えることです。「おもちゃ買って」「お菓子ちょうだい」「お金ちょうだい」などの物質的な要求に、言われるがままに応えるのは「甘やかし」で、よくありません。

 大事なことは、情緒的な要求にはしっかり応えて、物質的な要求は制限していくことです。しかし今の世の中、ともすればこれが逆になっているんですね。親も忙しいので、子どもの情緒的な欲求に応えられない。その埋め合わせに物を与える。しかし物では子どもの心は本当には満たされません。

 2つめのちがいは「子どもへの手助けの仕方」です。子どもがどうしてもできないことに対して、大人が手助けをする。これはとても大事です。自分が助けを求めれば、まわりの大人が助けてくれるという経験の積み重ねは、大人への信頼感を育てます。

 一方、子どもが自分でできることまで親が手を出すのは「過干渉」。これは「甘やかし」で、よくありません。子ども自身ができることは、どんどん本人にさせていく。でもどうしてもできないことは、大人が手助けする。そういうことが大事だと思います。

――子どもに関わっていると「頭ごなしに子どもを叱ってはいけない」と思いつつも、ついキレてしまうこともあります。親自身の気持ちは、どうやって発散すればよいのでしょうか?

 ついキレてしまうのは、その親御さんが、一生懸命に子どものことに関わっているからですよね。でもなかなか思うようにならなくて、それでキレてしまうわけです。だから、ついキレてしまうのは、それだけ親御さんががんばっている証拠。そういう自分をまず、ほめてほしいと思います。

 親自身の発散の方法としては、おしゃべりするのが一番だと思います。友だちと直接、会うのが難しければ、リモートでもいいですし、電話でもかまいません。おたがいの近況報告を兼ねて、おしゃべりするのが一番いいと思います。

――すこしでも子どもに伝わる叱り方、というものはあるのでしょうか。

 なかなか難しいことですよね。「叱る」については、ポイントが3つあると言われています。

 まず1つめは、「叱る」とは、子どもが相手のことも自分のことも大事にできるように教える、ということです。「叱る」とは「教える」ことなんですね。ですから、別に大声を上げる必要もなければ、ヒステリックに怒鳴る必要もない。むしろそのようにすると、それで子どもは頭が真っ白になって、そのあと何を言われたか全然覚えてない、ということになりかねません。内容がちゃんと相手に伝わるためには、目を見て、簡潔に、きっぱりと。これが大事です。

 2つめは「~してはいけません」と否定するのではなく、「~してほしい」と伝えることです。必要なのは正しい行動を伝えることですから。「廊下を走ってはいけません」ではなく、「廊下は歩こうね」。「人を叩いちゃいけません」より、「何かしてほしいときは言葉で伝えようね」と言う方が、今後どういう行動をすればよいのか子どもに明確に伝わります。

 3つめは、伝える言葉の最初に「私は」がくるように伝えることです。これをアイ・メッセージと言います。たとえば「おまえはいつもダメだ」ではなく、「お父さんは心配したよ」など、親の気持ちを言葉にすると、子どもは「心配させて悪かったな」という気持ちになりやすいと言われています。

 それでもやっぱり同じことを何度もくり返し言わないといけないですよね。そういうときに、私が親御さんによく言う言葉があります。それは「子育ての悩みの9割は年齢とともに解決する」です。うまくいかないのは、子どもに問題があるのでもなく、親の育て方が悪いわけでもなく、まだそういう年齢になっていないということです。

 年齢が上がるにつれて、子どもも、しだいにできるようになってきます。いや大人だって、かつてはそうだったのです。でも今はそれなりにちゃんとできるようになっています。大丈夫です。心配いりません。

著者・明橋大二/イラスト・太田知子/1万年堂出版

兆しになるのは

――2年間、暗いニュースが多かったです。2022年以降に期待をしていることはありますか?

 コロナで何が変わったのかをひと言で言うと、多様性を認める社会にいっそう進んだ点だと思います。学び方については、リモート授業が進みました。オンライン家庭教師も増え、全国のどこにいても受けたい家庭教師の授業を受けられるようになっています。不登校の子に対応する学校以外の学びの場も増えてきました。

 教育や障がいについて、世界ではニューロ・ダイバーシティ(神経多様性)という新しい概念も生まれています。ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)、HSC(人一倍敏感な子)といった神経発達の特性も多様性の一つであり、その多様さが人類には必要です。DNAに多様さが残されてきたことには意味がある。それがニューロ・ダイバーシティの考え方です。

 社会は「学校がイヤだ」という子も必要としています。そういう子がいなければ、学校を改革しようという声も出てこないでしょう。逆に、HSCの子に優しい学校は、すべての人に優しい学校です。多様性を認める社会は、すべての人に優しい社会なのです。

 そういったことを教えてくれるのが、さまざまな特性を持った人たちであり、多様性を持つ人がともに生きていく社会がコロナ禍を端緒として生まれた。それは、これからの社会においてますます大事になっていくということを、私たちは学ばなければならないと思います。

――ありがとうございました。(聞き手・石井志昂/編集・小山まゆみ)

【プロフィール】明橋大二(あけはし・だいじ)

1959年大阪生まれ。子育てカウンセラー、心療内科医。真生会富山病院心療内科部長。著書『子育てハッピーアドバイス』シリーズは累計400万部を超える

(初出:不登校新聞569号(2022年1月1日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)

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