精神科医・益田裕介先生が“不登校の親の悩み”に答えます(3)〜母親である自分のメンタルがつらい。心をどうやって保てばいい?〜
2025年9月26日(金)、「学校休んだほうがいいよチェックリスト(※)」を運営する3団体が、精神科医・益田裕介先生をお招きして、無料のオンライン講演会を実施いたしました。
テーマは「不登校のプロと精神科医益田先生が答える、不登校のお悩み解決スペシャル」。
オンライン講演会での、不登校のお子さんがいる親御さんからお寄せいただいた質問へのご回答を、全3回に分けてご紹介します(一部の表現は、不登校オンライン編集部が編集を行っております)。
※学校休んだほうがいいよチェックリストとは
子どもが「学校休みたい」「学校行きたくない」と言っているけど、休ませていいのかな?と心配になっている保護者の方に向けたチェックリストです。簡単な質問に答えるだけで、精神科医からの回答結果が届きます。運営は、不登校ジャーナリスト・石井しこう、好きでつながる居場所「Branch」、不登校の子のための完全個別指導塾「キズキ共育塾」の3団体が行っています。
目次
質問7:「他人のためにしか生きられない」と言う娘。成功体験を積ませるべき?
中3、娘。不登校になって2年。ずっと傾聴してきて信頼関係はできてきていますが、まだまだ本人のアイデンティティが戻ってこないようで、「他人のためにしか生きられない」と言っています。好きなことをさせてあげたり、小さな成功体験を積ませてあげられたらいいのでしょうか?
益田:
「人のためにしか生きられない」っていうのは、その子の1つの個性だと思います。皆が皆、自分のために生きていないと僕は思っています。僕もどちらかと言うと、自分のためにはあまり働きませんから。
伊藤:
やり甲斐や生き甲斐などを見つけられなくて、エネルギー不足になっているみたいなことも、キズキでもよくご相談いただきます。
益田:
子どもの世界でよくあることは、「知っているストーリーが少ない」んですよね。「成功とは、お金を儲けることだ」「成功とは、SNSで人気になることだ」とか。
そうじゃない成功とか幸せの形もいっぱいありますよね。都合のいいときに都合のいい物語・価値観に切り替えればいいだけなんですよね。
大人同士だったら、「俺たちは金のために働いていないよな。やっぱりこの最後の飲み会がいいんだよな」って肩組み始めたりして、そうかと思ったら翌日にはドライな人間関係に戻って…とかの切り替え力があります。でも、子どものときにはあまりないわけです。
中学生くらいで、ましてや不登校での親子関係の中だと、物語の数が少ないんだと思います。こういうケースだと、「自分のために生きなさい」って話ばかり聞いているから、「他人のために生きちゃいけないんじゃないか」と思っていることもあるかもしれませんよね。
他人のために生きる生き方もあるわけです。僕ら支援者は、どちらかと言うと、自己中心的というよりは他人のために生きています。ってことは、それもそれで1つの価値観であるわけですよね。
自己中心的な人たちの価値観で言うと、他人のためにやっている僕らは、ちょっと間抜けなわけです。「こういうことをすればもっと儲かるのに」「もっと出世できるのに」っていうことをしないので。でも、そういう世界もあるわけですよね。
お勧めは、人助けや人の役に立つことが好きな子だと、不登校の子のコミュニティとかに行って、小学校に勉強を教えるとか、遊びを手伝うとかがいいのかなとか思いますね。
都内だと、そういう場所もいろいろあるんですよね。フリースクールのようなところには、いろんな学年・年齢・タイプの子たちがいます。
放課後等デイサービスで、中学生が下の子たちに勉強を教えていたりしますよね。そういうところでいろんな体験をしたり、いろんな場所に行かせたりするといいんじゃないかなと思います。
伊藤:
世界を広げることは、すごく大切そうですね。
益田:
そうそうそうそう。いろんなサービスがあるからね。使うのがいいと思います。
伊藤:
私は今から10年前に不登校だったんですが、当時はまず保護者の会もなかったですし、私たち不登校生が通える塾も全然なかったので、今は本当に羨ましいなと思います。いろんな世界を広げるために外の力をどんどん活用するっていうのは、とても大切なことですね。
質問8:3時間だけ学校に行ける娘。「頑張り方」は本人に任せてもいい?
娘は、少しASD傾向があります。適応障害の診断も出ています。1年生の時は後半から慣れたようで、毎日普通に通っていました。最近、1日は疲れるということで、学校へ3時間くらい行っています。
無理しないのがいいとは言われていますが、本人に任せていればいいのでしょうか?学校が嫌いというわけでもなく、今は精神症状は落ち着いています。
頑張り方の塩梅は本人に任せていてもいいのでしょうか?それとも大人がちょっとリードしてあげるのがいいのでしょうか?
益田:
これは、僕はいつも「ラーニングゾーンに留まるほうがいい」とよく言っているんですよ。つまり楽すぎない、苦しすぎない。苦しいのは、パニックゾーンですね。
■ラーニングゾーン:
自分の能力や経験よりも少しだけ高いレベルの課題に挑戦し、新しいスキルや知識を習得できる成長のための領域のこと
■パニックゾーン:
自分の経験や能力がまったく通用しないほど、強いストレスや不安を感じて正常な判断や状況把握ができなくなる領域のこと
「学校に3時間いる。1日(6〜8時間)いると疲れる」ので、6時間は本人にとってはパニックゾーンですよね。
3時間でも、本人なりに手ごたえを感じているのであれば、それはラーニングゾーンです。
楽すぎず、苦しすぎない。ちょっとストレスがかかっている、ちょっと成長を感じられる。このラーニングゾーンに留まり続けたらいいと思います。
ラーニングゾーンに留まった結果として、1日中行けるようになるのは、年内かもしれないし、来年かもしれないし、もしかしたら小学校にいる間は難しいのかもしれません。それは、その子次第です。
現代人は皆、ゴールありきで考えているんですよね。例えば、「できたら小学校3年生までには普通に通えるようになりたい」「そのためには、年内にはフルで登校できる日が週2日ほしい」とか、そういうふうに逆算して考えちゃうじゃないですか。これは、精神科臨床では上手くいかないんですよね。
「分からないけど、ここに留まるという勇気・胆力」。これが精神科臨床なんです。分からないけども少なくともラーニングゾーンには留まっているよと。それでいいんです。
「その結果、その子が、どれくらい成長していくのか?どれくらい将来成功するのか?それとも成功しないのか?」それは運命というか、その子次第というか、持っている運次第なんですよね。
引きこもりの治療をしていても、ラーニングゾーンにその人たちが留まった結果、引きこもりから正社員になるのか、アルバイトできるようになるのか、それとも一生引きこもりのまま生活保護になるのか。それは医者から見ても、どんな治療者でも、分からないんです。
でも、少なくとも、その子は、ずっとラーニングゾーンに留まり続けたよと。これが大事なんです。これが精神科の世界観というか、感覚なんです。これは、覚えてほしいなと思います。
伊藤:
「こうしなきゃいけない、ああしなきゃいけない」という確定的な答えを探すんじゃなくて、今の状況が少なくともつらすぎとか、楽すぎとか、どっちかに全振りするのではなくて、その間のところにいるかどうかを一旦考えれば良いということですね。
益田:
そうそうそう。勉強も、ラーニングゾーンの勉強は何でもいいんですよ。ゴボウのささがきの作り方とか、ニンジンの洗い方とか。
親は、「料理のことなんか覚えなくてもいいから算数やってくれ」と思うかもしれないけど、それは無理なんですよね。その子が今、興味があること、やらないといけないと思うことじゃないと。何でもいいので、いつかはそれが役に立ちます。
野菜の洗い方や魚の捌き方など、昨日できなかったこと、知らなかったことを、今日知ったんだと。そうこうやっていたら、そのうち算数にも興味持ってきます。なんだかんだ言って、人間って、そんな感じなんですよね。
質問9:母親である自分のメンタルがつらい。心をどうやって保てばいい?
伊藤:
親御さん自身の心のことでのご相談です。
母親である自分のメンタルがつらいです。子どもの不登校の今の現実は受け入れ、見守っていますが、主人は受け入れていると言いながら子どもの様子を見て将来のことといろいろ々不安に思っているようで、時折イライラしたり、無気力になったりしています。
自分の行動が良くなかったから、子どもが不登校になったり、夫がそうした様子になったりしているのか?と思うようになってしまい、消えてしまいたくなります。
友達に話したりして落ち着きますが、また元気がなくなったりで気持ちが不安定です。教育センターなどでは母親だけ相談には行っています。どう心を保っていけば良いでしょうか?
益田:
子どもが自己受容していくため、自分を受け入れるためには、周りの人がその子どもを受け入れていくことが重要です。でも、足並みはなかなか揃いません。
旦那さんは旦那さんで、今の現実を受け入れていなくて、鬱っぽいってことですよね。だから、「旦那さんの治療をどうするか?」「自分の話もしつつ、子どもの話も聞きつつ、旦那の話も聞かなきゃいけない」ということになるでしょうね。
『親を憎むのをやめる方法』という私の著書にも書いているんですけど、基本的には、家族のチーム力を高めるためには、相手の話を聞くのもそうなんですけど、相手を知ることが大事なんですよね。
つまり「夫って、どんな人間なの?」ってことを、もう1回改めて知る必要があると。夫の生い立ちを整理して書いてみることが必要なんです。
先ほどの『うつ病よりそい手帳』もそうですけど、臨床って、こういうのをやるんですよ。
つまり「自分の生い立ちだけじゃなくて、夫の生い立ちを知る」ということですね。そうすると「夫はこんな子ども時代だったから、こう言っているんだ」ということがわかります。
よくあるのは、「夫は子どものときに本当に勉強しなかったんだな。叩き上げなんだ。だから、勉強のこと、学歴を気にしていないんだな」とかですね。
逆に、「夫の家はすごく勉強に厳しかったから、夫はこんなに厳しいんだな」とかも分かるわけですよ。
夫のことだけじゃなくて、夫のお父さんとか、お母さんとか、夫の兄弟の生い立ちも整理する。生い立ちやライフストーリーを知ってから考える。そうすると、すごく見えてくるんですよね。
あとは、自分の課題・問題点だけじゃなくて、夫の課題感も知ったほうがいいんですよね「夫が考えている夫の7つのポイント」というか。「夫は、今、何に悩んでいるの?」「仕事は、どんなことで悩んでいるの?」「健康の悩みは何なの?」とかね。
そういうことを知ってくると、相手の気持ちとか行動が予測できるようになります。そうすると、相手と上手くコミュニケーション取れるようになってくるんですよね。
子どもの不登校っていうものがきっかけで、自分もそうだし、夫もすごく傷ついていることが分かります。そういう中では、皆で助け合っていく必要があります。助け合っていくためには、話を聞く。話を聞くためには、その人のことを知った上で聞かないといけない。データを溜めておくというのがいいかなと思いますね。
伊藤:
「何か上手くいかないからダメ」となるんじゃなくて、その背景や、たくさんの情報から総合的に方向性を考えていくことが大切ということですね。
益田:
そうそう。大体、案外、皆、夫のことを知らないんですよね。聞いたことないから。夫の親がどんな性格だったのかとか、親子でどんな会話していたのかとか、意外と知らなかったりするんですよね。それを知ったら、「こんな感じよね」みたいに思えるんですよね。腹も立たなくなります。
「難しい本を読まなくていいから、目の前の人のデータをちゃんと聞いてみたら」ということですね。
伊藤:
不登校のことに限らず、人間関係として、そうですもんね。
■動画もご覧いただけます
※動画中で紹介しているクラウドファンディングは、現在終了しております。
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