スクールカーストとは 鈴木翔さんに聞く

 2012年に出版された『教室内カースト』はあらゆるところで反響を集めた。とくに強い反応を示したのが現在、あるいは少し前まで学校に通っていた子ども若者。誰もが教室内で感じていた違和感は「スクールカースト」と名づけられ、その構造が明らかにされていった。今回、『教室内カースト』の著者・鈴木翔さんにお話をうかがった。
 
――まず最初に「スクールカースト」の概要を教えてください。
 同級生どうしで、地位・身分差、力の差をみんながなんとなく共有している状態を「スクールカースト」と私は呼んでいます。誰が指名したわけでもなく「上位グループ」「中位グループ」「下位グループ」がクラス内で形成され、みんながそのグループごとに与えられたキャラ、役割を生きていく。たとえば、野球部やギャルグループといった「上位グループ」が教室内で幅を利かせ、一方でおとなしい子たちの「下位グループ」は公然とバカにされたりする雰囲気がある、というようなことです。
 
 まだ研究が進んでいる分野ではないので正確な定義はありませんが、調査では、こうした「力の差を感じたことはない」と言った人は一人もいませんでした。
 

根拠のない序列化

 
 問題なのは「力の差・身分差」よりも、その序列化が理にかなっていないことにあります。たとえばですが、野球部は体育祭のときだけ仕切っていればいいのに、なぜか文化祭でも修学旅行でも彼らが仕切っている。そもそも、なぜ野球部、サッカー部、バスケ部が中心メンバーに選ばれ、卓球部やバドミントン部だと端っこに追いやられるのかはまったく謎です(笑)。研究資料は『教室内カースト』(光文社新書/12年刊)にまとめましたので興味のある方はお読みください。

鈴木翔さん著書


 

各年代とのちがいは?

 
――いわゆる「ガキ大将」がいた時代とはなにがちがうのでしょうか?
 各年代ごとにスクールカーストのような「力の差」があったのかを測る資料はほとんど残っていません。特別、問題視されていなかったからです。ただ、「学校が荒れていた」と言われる70年代からは状況が読み取れる資料は散見されます。
 
 70年代は腕っ節の強い、いわば「番長」があきらかに尊敬を集めていました。同級生からも敬語を使われることも多かったようです。しかし、そこには目的や実利がありました。学校間抗争などでは番長がいなければ学校が負けてしまう。「あの学校には〇〇がいるから手が出せない」とか、そういう状況です。なのでみんなが番長を持ちあげるのは、ある程度、理に適っていたのだと思います。
 
 一方、現在ですが、なんのためにギャルグループがクラスを仕切るのかわからない。別に学校間ギャル抗争があるわけでもない(笑)。みんなのためのリーダーじゃない、というのが大きなちがいです。
 
――「教室内にグループはあったけど序列はなかった」という人もいるかと思いますが。
 たしかに90年代前半ごろまではそうだったと思います。仲良しグループ(サブグループ)の調査研究によると、教室内は「ケバいグループ」「オタッキーグループ」「不良グループ」などに分かれていた、と。ポイントはそれぞれのグループがおたがいをどう見ていたかです。
 
 たとえばお勉強グループに属する女子生徒はケバいグループの女子生徒を「あんなんじゃ、お嫁にいけない」などと言って見下していました。一方、ケバいグループもお勉強グループを「女としてどうなの?」と言って見下していたんです。別にこのグループにかぎっての話じゃありません。不良グループは不良グループ以外を、オタッキーグループはオタッキーグループ以外を、ある種、見下していました。自分のグループにこそ、信じられる価値があり、それ以外の価値観は信じていなかった。つまり価値観は対立していましたが対等ではあったんです。社会学ではこれを「島宇宙」と言います。
 
 ところが90年代半ばぐらいからは明らかにグループ間に上下関係ができ、それをおたがいが認識している、というのがちがいです。


 

仕切るキャラ おとなしいキャラ

 
――こうした新しい「カースト」は、どこに弊害があるのでしょうか。
 根拠のない雰囲気によって自分のポジションやキャラを演じていくわけですから、やはりモヤモヤとした息苦しさというのが大きいのではないでしょうか。下位グループに属していた子は「『下』には騒ぐとか、楽しくするといった権利がない」と言ってましたし、上位グループの人には、場を盛り上げて「仕切しなきゃいけない義務がある」と言ってた子もいました。それぞれに与えられた役割を演じていかないと、教室内でハジき出され、まるでゴミのように扱われるといったこともあります。ハジき出された生徒に対する極端な例が「いじめ」として、よく問題視されます。しかし、それ以前に、ほとんどの子たちが根拠のない上下関係のなかに身を置いているという構造のほうには目が向けられていません。


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