「子どもは1人残らず、一生懸命生きている」 現役小学校教員が保護者に伝えたい4つのこと

学校支援員を経て小学校教員になり、20年近く教壇に立ち続けている江口ひとみさん(仮名)。現在は、2人の子育てをしながら1年生の担任として奮闘しています。不登校児童・生徒数が激増する学校現場では、この20年で何が変わりつつあるのでしょうか? ご自身が実際に経験した範囲であることを前提に、率直な声を聞かせてくださいました。(聞き手・編集=棚澤明子)

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「みんなと同じことをしたくない」 低学年に増える不登校

――2023年、不登校の児童・生徒数が約30万人に達しました。現役の小学校教員として、どのように受けとめていらっしゃいますか?

去年、育休が明けて2年ぶりに現場復帰したときに、不登校の子が増えていること、しかも低年齢化していることに気づきました。以前は「行きたくない」と言い出すのは高学年の子が中心だったのですが、最近は1〜3年生の子たちのあいだに増えているようです。

理由として多いのは、「集団行動が合わない」「みんなと同じことをしたくない」というものですね。「好き、嫌い」や「合う、合わない」をはっきり表現する子が低学年にも増えているように感じます。それが全国の不登校児童・生徒数の激増に直結しているのかどうかはわかりませんが。

私自身は自分のクラスの子が不登校になった経験がまだないのですが、今やどこのクラスにも不登校の子はいるという状況です。

――昔の子どもたちは今の子どもたちより集団行動が得意だったのでしょうか。

そんなことはないと思います。たとえ集団行動が苦手でも本人や保護者が口に出さなかっただけなのではないでしょうか。「学校は行かなければならないもの」という考えが大前提としてあったので、「行きたくない」という声が埋もれていただけなのではないかと考えています。

学校側も、かつては無理にでも登校させるようなこともあったので、言っても取り合わなかったのかもしれません。今は、教育を受ける場所の選択肢が増えていることなど、情報を持っている保護者が増えていることもあって、要望を言いやすくなっていると思います。また学校の対応も、「頑張らせる一辺倒」ではなくなってきています。子どもが変わったというより、子どもを取り巻く社会が変わってきているのではないでしょうか。

「どんな子もおいで」とは、もう言えない 

私自身は、子どもが「自分はこの場所に合わない」と周囲に伝えられることは大切だと思っています。合わない環境でガマンするよりも、早い段階からほかの場所を探したり、折り合いをつける方法を学んだりするほうが、本人の人生にとっていいと思いますので。

フリースクールなどの選択肢が増えているのは、実はありがたいと感じている学校関係者も少なくないと思います。もちろん理想を言えば、公立の学校が「どんな子にも個別対応できますよ」と言えるといいのですが、正直なところ今の学校にはそう言えるだけのキャパシティがないのです。その子にとってほかに行きやすい場、学びやすい場があるのであれば、そちらに行って自分らしくいられるほうが幸せですよね。

とはいえ、もし自分のクラスの子が「ここは合わないからほかのところに行く」と言っていなくなってしまったら、個人的には「いてほしかったな」と、とても寂しい気持ちになりますね、きっと。


一人ひとりに対応するためのマニュアルはない

――「学校が合わない」と言われたら、どのように対応するのでしょう? 学校としてのマニュアルなどはあるのでしょうか。

私の勤務校には、マニュアルのようなものは何もありません。「学校が合わない」というひと言も、子ども本人が訴えているのか、保護者の方がそう言っているのかによって対応が変わってきますし、その子と担任がどのような関係を築いてきたのかによってもちがいます。なので、ケースバイケースで模索することになります。

一例をあげると、「みんなと音読するのはイヤ、あっちで粘土をしたい」と言われたときに、「いいよ」と言うのはやはり難しいです。教員の目が届かなかければ思わぬ事故につながりますし、ほかの子たちが不平等感を抱けば子どもたち同士の関係が悪化する恐れもあります。そんなときは「音読がいやなのはわかったよ」と、まずはその子の気持ちを認めて、読書や別のプリントなど、自分の席でできることを提案したりしています。

今はみんなと同じことをするのがイヤでも、いつか気持ちが変わることがあるかもしれません。ですから、無理のない範囲で、クラスのみんなと同じ空間にいてくれたらうれしいな、とは思いますね。


「うちの子に合わない」と思う前に知ってほしいこと

――保護者の方からはどんな相談が寄せられますか?

とくに発達に特性がある子の保護者の方から、「うちの子はみんなに合わせるのが苦手だから、浮いてしまったらどうしよう」という声を聞くことがあります。

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