子どもも親も縛られない「ホームエデュケーション」という子育て法【全文公開】
学校のみに頼らず家庭を拠点として学ぶ「ホームエデュケーション」。現在、全国で約2000家庭以上が実践していると言われています。今回取材した原田雅代さんもその一人。原田さんは3人のお子さんを、シングルマザーで育てられてきました。ホームエデュケーションを始めたきっかけや子育ての思いについてうかがいました(画像は原田家の家族全員そろっての記念写真)。
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――ホームエデュケーションを始めたきっかけを教えてください。
そもそも私自身、子どものころから学校があんまり好きではなくて、受け身から始まる教育に疑問を抱いていたんです。たとえば起立や礼、休め、三角座りなど、先生から言われたことに対して、集団で従わなければいけない雰囲気に、子どもながらどうも納得できずにいました。「なぜみんなと同じでなければならないのだろう」と思いながら、学生時代をすごしたことを今でも覚えています。
大人になってからも世のなかにただよう生きづらさを感じていました。みんなと同じような生き方をするのが「ふつう」という空気感が、やっぱりどこか息苦しくて。「なぜこんな生きづらい世のなかなんだろう」と考えたとき、元をたどれば学校が始まりなのかもしれないなと気づいたんです。
当時は20代後半で、田舎暮らしをしたくて佐渡島に移住し、長女を妊娠したタイミングでした。そうしたことも重なって、これからの生き方や子育てのことなどを考えていくうちに、「親も子も自分の感覚を信じて、自由に生きられるような方法を探したい」という思いが強くなったんです。
私が納得できる子育てをしよう
そんなとき、「自然育児友の会」という団体が出している冊子で、京都でホームスクーリングをしている方の記事を目にしました。私と同じような考え方で子育てされているようすを見て、すごくいいなと思って。
私たちも理想を追って田舎暮らしを始めたことだし、それなら徹底して自分が納得できる子育てをやっちゃおう、と。そこで決心がついたんですね。地域内で価値観の合う仲間とともに「自分たちで子育てをしよう」と、自主保育を始めたんです。
その後、小学校に上がるときにわが家はホームエデュケーションに移行しました。小学校に通うかどうか決める際には、小さな娘とも向き合って、しっかり話し合いをしました。親が学校へ行かなくてもよいと思っていても、「やっぱり行かせたほうがよいのかな」という迷いはあったので。
でも、それを長女に相談したら「どうしてお母さんが行かせたくないところに、私を行かせるの?」と言われたんです。
長女の言葉に思わずハッとしました。最終的には入学式に出て、記念写真だけ撮るということになりました。
さいわい小学校の校長が理解のある方で、わが家の方針を応援してくださって、ホームエデュケーションをスムーズに始めることができました。一方で長男は小6から「行きたい」と本人が私を説得したので、現在は学校に通っています。
――お子さんたちは、これまでどのようにすごされてきたのでしょうか。
基本的には家での生活が中心なので、いっしょに料理や家事をしてすごしていました。何か教えるというわけでもなく、ただ生活をするという感覚ですね。田舎暮らしということもあって、自然に囲まれた生活だったので、お風呂やストーブに使う薪を運んでもらったり、掃除してもらったりしていました。子どもたちは「ちょっとしたこと」を意外と楽しみながらやってくれていたようです。
何も教えずとも自然に学ぶ
一方、勉強は、ほとんど教えてないです。最初のころは「ドリルでもやったほうがいいのかな」と思って、用意したんですけど、私も無理にやる必要はないと思っていましたし、やっぱり続かないんですよね(笑)。
なので算数は年齢に合わせて理解できるかなと思ったタイミングで、足し算・引き算・かけ算・割り算のやり方のみを教えました。あとは子どもたちが数字がわかるころになったら、「おつりはいくら?」と聞いたりして、暮らしのなかの会話を通して教えていました。
文字は、漫画で読んでいるうちに、自然と身につきました。わが家には手塚治虫の漫画がたくさんあるんですけど、いつのころからか興味を持ちだして、手に取るようになったんです。最初のうちは漫画の読み方すらわからなくて本の終わり部分から読んでいたんですけど、ある日を境に最初から読むようになったんです。「あ、字が読めるようになったんだ」と思いましたね。
社会については、テレビのニュースを見ながら「これって、どう思う?」と子どもに聞くようにしていました。ニュースって時事だけでなく、社会的背景や歴史も知れるじゃないですか。なのでニュースを題材に会話をして学んでいました。
そんな感じで、わが家では勉強という勉強はさせていなかったけど、日常のすべてが、「学び」の機会になっていたのだと思います。でも、子どもたちにとっては、すべてが「遊び」だったんじゃないかな。最近子どもたちがね、昔の写真を見て、「このころの私たちずーっと遊んでいたよね」と言っていましたから。
――つねに子どもといっしょにすごす生活は、たいへんではなかったですか?
これは私が大事にしてきたことなのですけど、とにかく子どもたちのやることを、つねに「おもしろがって」見ていました。というのも、子どもの発想のおもしろさを発見していくことが、ホームエデュケーションを続けるために、とても大事なことだと思うからです。「人間(生き物)としてのおもしろさ」をベースに捉えると、365日24時間いっしょにいてもつらくはなかったですね。
あとは、子どもには自分の考えを大切に扱ってほしかったから、つねに子どもをひとりの人間として対等に接することを意識してきました。それと同時に私自身も「お母さんをやめよう」と思って。同じ立場に立って、ひとりの人間としてたがいに生きる姿を見せ合おう、と考えたんです。
「先入観」が苦しみの要因
――「お母さんをやめる」、印象的な言葉です。
そもそも「私はお母さんだけど、お母さんってなんなのだろう」と、ずっと思っていました。「お母さんだから、○○であらねば」とか「お母さんなのにこれができない」ってよく聞くけど、子どもを育てるのに1人目だろうが2人目だろうが、その子を育てるのは全部初めてのことですよね。真正面から向き合わないといけないことばっかりじゃないですか。そこに「お母さんだから」っていう肩書きは必要なのかなって疑問に思っています。「お母さんだからこうしなきゃいけない」という先入観が自分のなかにあると、より一層自分を苦しめちゃうと思うんです。
「学校へ行かなくちゃいけない」とか、「子どもだからこうでしょう」とか、「これは危ないから」というルールって、誰もが無意識に持っていると思います。でも、そのルールってそもそも誰が決めたのでしょうか。そんなふうに自問しながらルールを取っ払っていくと、新しい物の見方ができるようになるし、すごく楽になるんじゃないかな。
かくいう私も最初からできたわけではなく、子育てをするなかで子どもたちに教わりながら、育まれた視点だと思っています。子どもたちとすごすなかで、自分の価値観が日々変わっていくのは楽しい経験でしたし、それは今でも大切にしていることですね。
――あたりまえを見直す、とても大事なことですね。
もちろん葛藤もありました。それに、ホームエデュケーションを実践する人は佐渡島で初めてだったから、いくら説明しても周囲に理解してもらえなかったんです。近所の人には「学校にも行かせてもらえないで、かわいそうに」って、言われたこともありました。
でもあるときね、地域の人たちと清掃活動していたら「おめえんところの姉ちゃんたち、やるなぁ」って言ってくれたんです。ついでに、わが家の子育ての話も伝えたら、認めてくれるような反応が返ってきて、それはうれしかったですね。反対されたとしても見ている人は見てくれているし、応援してくれる人もいるんだな、と実感しました。
娘2人は16歳から働いているのですが、子どもたちの勤め先でも「すごくしっかりしているね」とほめられているようです。家のことはなんでも子ども自身もやってきたのが、今になって役立っているのかな、と思います。いろいろあったけど、そう考えるとやっぱりホームエデュケーションでよかったなと思います。
――原田さんのように最初からホームエデュケーションを選択して実践する方がいらっしゃる一方で、不登校になってホームエデュケーションにしようかなと悩まれている方もいらっしゃると思います。何かメッセージはありますか。
「学校へ行かなくてもなんとかなったよ!」って、私は伝えたいです。学校へ行かないと社会のレールから外れたように感じて、お母さん自身も「自分のせいなんじゃないか」と責めちゃうこともあるかもしれません。でも、親が一生懸命に生きて、その姿を子どもに見てもらっていれば充分だと思うんです。ときどき、一生懸命生きている理由を話せたら、よりすてきだな、と。
子どもの選択をほめてあげて
子どもって本当によく見ているから。生き方が不器用であろうが、同じまちがいをくり返していようが、「自分が生きたい姿」を見せるのが大事なのだと思います。不登校をきっかけに「どう生きたいか」を、親子で話し合うのもよいですね。
あと、不登校の子どもたちって自己主張ができているんだなって、私は思うんです。だから、「よく自分の意見を表明したね」って、むしろほめてあげてほしい。みんなと同じにすることってたいへんなことだから。学校でみんなと同じようにやらなければいけないことに、苦しみを覚える子だっています。うちは、「不登校ではなくて登校拒否だよね」と話したら子どもたちは喜んでいましたよ。
最近はオンライン授業も浸透して、すこしずつ自分で選べる社会になってきました。自分らしさを確保できるような教育のあり方があってもいいはずですし、コロナ渦でそのチャンスがめぐってきているんじゃないかなと思います。だから、不登校でも心配しなくて大丈夫だし、みなさんにも自分の人生を家族とともに、一生懸命生きてもらえたらいいな、と願っています。
――ありがとうございました。(聞き手・木原ゆい)
【プロフィール】原田雅代(はらだ・なりよ)
佐渡島在住。「背中で家庭を育む」をモットーに、現在19歳、16歳、13歳の子どもをホームエデュケーションで育てる。その一方で「古道具とカフェ 山のねまりや」を営む(カフェは自粛休業中)。
(初出:不登校新聞562号(2021年9月15日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)