「親の責任だ」には耳を貸さないでください みなさんは十分がんばっています【全文公開】
「子どもに寄り添って」。そうたくさんの人が親にアドバイスします。しかし、「子どもに寄り添うのをやめてください」と不登校支援にたずさわる土橋優平さんは言います。なぜなら、親はこうあるべきという価値観が、親をしばり、苦しめてしまうからです。親御さんはもう十分がんばっている、「親の責任だ」なんて言葉には聞く耳を持たないでください、と土橋さんは訴えます。(連載「出張版 お母さんのほけんしつ」第9回)※写真は土橋優平さん
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「子どもといっしょに居るのが正直つらくて」。「本当は親も弱音を吐きたい」。そんな声が私たちのところに数多く届きます。つらそうな子どものようすを見ている親御さんも苦しいですよね。
そこで大切なのは、子どもに寄り添うのをやめることです。「子どもに寄り添ってと言われ続けてきたのに」、「親としてそれってどうなの」。そんな声が聞こえてきます。「親はこうあるべき」というその価値観が、親御さんの心と頭をしばり、余裕をなくしてしまっているのです。私はそれを「親の鎧」と言っています。
子どもが生まれてからというもの、ずっと子ども中心の生活をされてきたと思います。成長につれて子どもはできることが増え、関わる人も増えていきます。親としては「これはできてほしい」という子どもへの期待がだんだんと膨らみます。じつはこの「期待」には、ある考えが隠れています。それは「子どもがちゃんとできるかどうかは親の責任だ」という考え方です。
子どもがいつまで経ってもトイレを1人でできない。保育園に入ったのに大人数で遊ぶことができない。小学生だけど授業中イスにじっと座れない。漢字も計算もほとんどできない。そんなさまざまな壁が目の前に立ちはだかると、「あなたの子育てが悪い」と言われているかのように親は感じます。まわりに助けを求めたときに、直接そんな言葉をかけられた方もいるでしょう。
たしかにいっしょに暮らす親がどう在るかは、子どもの成長に大きく影響を与えます。ただ子どもたちは生まれた瞬間から大勢の人に囲まれて生きています。生まれた病院の先生や看護師に始まり、家族、親戚、保育園、地域クラブ、ご近所さん、学校、近所の駄菓子屋さんだって、子どもに影響をあたえる1人。1人の大人が子どもにかける「元気?」、「こんにちは」、「よくがんばったね」という声が、子どもの心に1つまた1つと積みあがっていくのです。子どもたちは何も親の影響だけを受けているわけではありません。
核家族化が進み、最近は祖父母に頼りづらくなりました。地域のつながりも希薄化し、困ったときにSOSを出せる相手も減りました。「親」という仕事が、いつのまにかこの社会でもっとも孤立しやすいものになったように私は思います。とくに子育ては、正解のない仕事です。子育ての結果は、10年や20年経ってもわかりません。そんな大きな仕事を「親」であるみなさんはしてくださっています。
感謝されるべき
私は「親」という役割を担うみなさんにもっと感謝したいと思っています。「親の責任だ」と、親を孤立に追い込むだけの言葉には聞く耳を持たないでください。不登校になると、衣食住に加えて、学びや人とのつながりなど、子どもの人生すべてを見なければいけなくなります。1人で担うには重たすぎます。これだけのものを背負って尽力されているみなさんは、むしろ感謝されるべき存在です。ぜひ「親はこうあるべき」という親の鎧を脱ぎ、「私もよくがんばったよね」と、自分を認めてあげてください。それが難しいときは、ぜひ「お母さんのほけんしつ」に立ち寄ってください。私たちがみなさんに「ありがとう」を伝えます。
■執筆者/土橋優平(どばし・ゆうへい)
NPO法人キーデザイン代表理事。不登校支援のほか保護者向けLINE相談「お母さんのほけんしつ」を開設中。
(初出:不登校新聞597号(2023年3月1日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)
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