息子の不登校から12年「私はいま幸せです」と母が断言できる理由【全文公開】
息子が不登校になって12年、さまざまな苦しみを息子とともに経験してきた母・後藤誠子さん。しかし後藤さんは「息子が不登校したおかげで、私は今とても幸せです」と言います。どうしてそう思えるようになったのでしょうか。(連載「不登校は幸せへの道」第31回)※写真は後藤誠子さん(左)と息子さん
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「あなたは今幸せですか?」。その問いに、私は迷うことなくこう答える。「はい、とても幸せです」。もう一言、かならず付け加える言葉がある。「すべて次男のおかげです」と。
次男が学校へ行けなくなった夏から12年が経ち、私は今、本当の意味で自分の人生を生きている。次男の苦しみを知ろうとするなかで、自分の生きづらさに気づいた。どうやら自分の思いに正直なあまりに、まわりの人たちとかみ合わない。なんとかかみ合うようにと自分なりに努力すればするほど孤立する。そんなことのくり返しで何度も転職し、自分に合う職場など1つも無いとあきらめかけていた。
だが、みずから居場所を始めたことで、自分が自分のままでいてよい場所を見つけたのだ。ラジオや講演などで話す機会が増え、自分の思いを表現することの楽しさも思い出せた。不登校・ひきこもりの子どもを持つ母親でありながら、こんなに楽しく発信している人はいない。しかも、それを聞いて喜んでくれる方がたくさんいる。自分が楽しくてやりたいことをやっているだけなのに、まわりの人も楽しんでくれる。これは私にしかできないことだと思った。
ラジオでの発信を始めたばかりのころに私を取材してくれたジャーナリスト・池上正樹氏から言われた言葉がある。「息子さんがあなたの一番の応援者なんですね」。
私が次男のことを語るのを、次男は初めから許してくれていた。それは私を応援してくれているからだと池上氏が教えてくれた。次男に対してあんなにひどいことをしてきた私を? まさかそんなはずはない。信じられなかった。だが今なら信じられる。次男にはきっとわかっていたのだろう。自分の母親が自分の人生を生きていないことが。次男の苦しみは、自分の人生を生きなさいと私に伝えるためだったのではないか。
次男は母親のために不登校・ひきこもりになったというのか? 自分に都合のいいことばかり言うなと批判されるかもしれない。だが、次男だけではないのだ。今までに出会ってきた不登校・ひきこもり経験者の多くは口をそろえて「親に幸せになってほしい」と言う。どんなにひどいことをされた子どもでも、だ。親が笑顔で幸せでいることが彼らの安心につながる。安心して初めて、彼らも自分の人生を歩けるようになる。そこには目に見える証拠など1つも無い。それでも私は言う。次男が不登校・ひきこもりになってくれたおかげで、今の私がいる、と。(つづく・次回最終回)
■筆者略歴/後藤誠子(ごとう・せいこ)
次男が高校1年生の夏に不登校。現在もひきこもり生活を続けている。後藤さんはその経験を通して学んだことを共有したいと岩手県で当事者を地域で支える「笑いのたねプロジェクト」を立ち上げ活動中。
(初出:不登校新聞592号(2022年12月15日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)
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