「昼夜逆転、親は何もしなくて大丈夫です」児童精神科医が断言する理由【全文公開】
子どもが不登校になると「昼夜逆転する」「お風呂に入らない」「ご飯を食べない」ということが往々にして起こります。「せめて規則正しい生活を」と願う親にとっては大きな悩みの1つですが、なんとか直そうとがんばっているうちはうまくいかないこともしばしば。不登校経験者と児童精神科医の語りから大事な「コツ」を考えます(※画像はイメージです)。
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子どもが不登校になったとき、昼夜逆転する・お風呂に入らない・ご飯を食べないなど、今までできていたことが急にできなくなることがあります。「せめて規則正しい生活だけは」と悩まれている親御さんはすくなくありません。このとき、親はどんな声がけや対応をすればよいのか。2人の不登校経験者の事例と精神科医の指摘から考えます。
朝がつらい理由
小学4年生の夏休み明けから不登校になったAさんは、週1で適応指導教室へ通いながらがんばり続けていました。しかし、その緊張の糸がある日、パチンと切れてしまいます。昼夜逆転し、お風呂も入らず、ご飯を何も食べない日もあり、自宅でひきこもるようになります。
不登校で昼夜逆転するというのはよくある話で、Aさんの場合は「朝は社会が動き出す時間だからイヤだった」とのこと。同学年の子どもが登校する声が聞こえてきたりするのもつらかったそうで、その時間をやりすごすために、昼夜逆転したわけです。
食事に関しては、Bさんの体験談を紹介します。中学1年生で不登校になったBさんは、学校へ行けない自分が許せないという思いから、しだいにご飯が食べられなくなり「摂食障害」になります。もっとも痩せてしまったときには、体重が30キロを切ってしまったそうです。
では、お二人の親はどうしたのか。結論から言うと、特別なことは何もしなかったのです。Aさんの母は朝食をつくりながら、深夜のラジオ番組の内容をしゃべる娘の話を「そうなんだ」と聞くばかり。また、「お風呂に入ったら」とはいっさい言いませんでした。Bさんの母は、やせ細る娘を前に「生きた心地がしない」と思いつつも、食事することを無理強いしなかったと言います。
親の対応について、Aさんは「母がすべてを受けいれてくれたので、落ち着きました」、Bさんは「ありのままの私の存在を認めてくれている」と感じたと言います。その後、Aさんはフリースクールのスタッフに、BさんはNGO団体の職員として働いています。
命を守る行為
しかし、昼夜逆転をしていても本当に大丈夫なのでしょうか。児童精神科医の高岡健さんは「心配いりません。むしろ、不登校の初期に昼夜逆転がみられない場合のほうが、どこかで無理をしている可能性が高いので、かえって心配です」と指摘します。高岡さんいわく、いったん社会から撤収したいという心理が働いたときには、生命を守ること以外はすべて重要ではなくなるとのこと。つまり、子どもにとってエネルギーの消費量が最小限で済むような生活スタイルになるということです。高岡さんは「昼夜逆転には自分の生命を守るという働きがある」とし、声がけや対応は何もいらず、親は後ろから見守るだけでよいと指摘します。
昼夜逆転ひとつとっても、その背景には子どもなりの理由が各々あります。また、親が必死になって昼夜逆転を直そうとしているあいだは、状況がなんら変わらなかったという話も、これまでの取材でよく聞きました。そう考えると、親のよかれで生活習慣を正そうとすることは、逆効果にもなり得るわけです。
昼夜逆転し、お風呂に入らず、食事もまばらな状況に困っているのは、子どもか親か。そこを問うことから始めるのが、とても大切です。(編集局・小熊広宣)
(初出:不登校新聞582号(2022年7月15日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)