【熊本】医療・福祉・教育の垣根を越えて。認定NPO法人NEXTEPが届ける「不登校支援」への思いに迫る
「学校に行けない」「進路が描けない」―そんな悩みを抱える子どもたちをどう支えていくか。
ウェブメディア「不登校オンライン」を運営する株式会社キズキでは、現在、全国のNPO法人等と協働し、不登校の子どもたちの進路支援の仕組みをつくるプロジェクト「急増する『不登校・長期欠席の子どもたち』支援モデル形成事業」に取り組んでいます。
※参照:株式会社キズキ、「休眠預金活用事業」資金分配団体として「不登校・長期欠席の子どもたち」支援モデル形成事業を開始〜創業理念を基に、全国で急増する不登校生に「多様な進路の選択」を支援するモデルを構築〜
このプロジェクトに参加する各団体が、どのような想いで子どもたちに向き合い、支援を行っているのか。そのリアルな姿を届けるため、歌人・田中章義さんとともに各団体を取材しました。
第1弾は熊本県で活動する認定NPO法人NEXTEP(ネクステップ)です。医療と福祉、教育の垣根を越え、既存の制度だけではこぼれ落ちてしまう子どもたちにどう寄り添っているのか。 専門領域を横断して活動する彼らがこの事業に懸ける情熱と、子どもたちと歩む「多様な将来」への願いを、田中さんに綴っていただきました。

外観

日々の様子

空間
地域に根ざすクヌギがもたらすもの
萌芽力が強く、生長すると広大な樹冠を形成するクヌギ。樹液にはカブトムシ、クワガタが集まり、薪や家具、シイタケ栽培の原木などにも利用され、樹皮は生薬として漢方薬にも用いられてきた。
縄文時代から人々の生活を支え、『万葉集』で大伴家持も詠んだこのクヌギを市の木にもつ自治体が熊本県にある。市の北部は、阿蘇山の火山灰が降り積もった火山灰性腐植土に覆われ、広大な農地が形成されている合志市(こうしし)だ。
ここに、小児科医が理事長を務める認定NPO法人NEXTEPがある。2000年12月、熊本の大学生たちが中心となって立ち上げ、世代や職種を超えた交流・学びの場を創ろうとスタートさせたNEXTEP。
その後、2009年にNPO法人格を取得し、「小児専門の訪問看護ステーション」「小児専門の居宅介護事業所」「重い障害の子どもたちが通える障害児通所支援事業所」などを立ち上げ、複合的に子どもと家族を支える体制づくりをめざしてきた。
さらに、「農作業を通しての不登校児サポート」「就労継続支援A型事業所”ちょこから”」「就労サポート事業【久遠チョコレート熊本店】運営」も開始し、不登校や発達障害の子どもや若者たちのために何ができるのかを今日も模索し続けている。
一貫しているのは、「縁のあった子どもや若者たちのために私たちは何ができるのか」、という真摯な問いかけだ。小児科医たちがチーム編成し、チャレンジするからこそ、子どもや若者たちの心身の状態・特性にまで配慮されたプログラムづくりがおこなわれているのだった。一般的なマニュアルではなく、常にイレギュラーバウンドもあり得る個別最適な対応を心がけた実践のキーワードは、「こどもたちの笑顔のために」。
すべては、“笑顔あふれる地域社会を創りだす”ために、医療・福祉・教育の諸問題について必要な事業をプランニングし、行動に移しているのだった。
合志市の木のクヌギの実は独楽になるなど、古来、こどもたちの玩具として用いられてきた。養蚕では、クヌギの葉に天蚕を付けて飼育されるなど、幹や樹皮のみならず、実も葉も地域に役立てられてきたクヌギ。
“ひとりじゃない。つぎの一歩をいっしょに”というスローガンを掲げ、子どもや若者たちそれぞれのペースを尊重しながら、活動する認定NPO法人NEXTEPの取り組みは、どことなくクヌギの豊かさを彷彿とさせてくれる。立ち上げてから、わずか25年で、太陽のひかりを浴び、大地の恩恵も受けながら枝葉を伸ばし、生育する認定NPO法人は、まさに地域のクヌギそのものだと言える。
木材は家具に使われるだけでなく、車両や船舶にも使われるクヌギ。クヌギの落葉は腐葉土として作物の肥料にも利用される。生育が早く、10年ほどで豊かに育つクヌギの育つ街で、認定NPO法人NEXTEPは四半世紀にわたって活動を続けてきた。2014年には認定NPO法人格も取得している。
そんなNEXTEPが今、新たな取り組みを開始している。
READYFOR株式会社と株式会社キズキが資金分配団体となり、資金的な支援と伴走支援を提供する、休眠預金を活用した事業だ。この「急増する【不登校・長期欠席の子どもたち】支援モデル形成事業」助成採択団体にNEXTEPが採択されたのだった。全国から45団体の応募があった中、助成されることになった団体はわずか5団体。九州では、認定NPO法人NEXTEPのみが選出されている。
ここ数年、不登校となる小中高生は増加を続けている。2024年度文部科学省調査では、小中高合計で42万1,752人もの不登校生がいるという。過去最大を更新した数値だ。
不登校自体は決して「悪い」ことではない。それによって、自身に合った将来を選択できるのであれば、否定されるものではない。ところが、不登校になると進路を考える機会が届きにくくなるという課題が全国的にある。不登校児童や生徒の約4割が現状、公的機関や民間支援につながることができていないと語られる。
そのため、自身の適性や特性に合った個別の進路支援を受ける機会が減ってしまっているのだ。過去最大のペースで急増する不登校生に対し、「多様な進路の選択」を支援する事業が求められ、休眠預金活用事業として、「急増する【不登校・長期欠席の子どもたち】支援モデル形成事業」が実施されることになったのだった。
休眠預金活用事業とは、「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(休眠預金等活用法)に基づき、2009年1月1日以降の取引から10年以上、取引のない預金等(休眠預金等)を、社会課題解決や民間公益活動促進のために活用するものだ。今回の「急増する「不登校・長期欠席の子どもたち」支援モデル形成事業」は、全国を対象に、2025年9月1日から2028年2月29日まで実施される。
この助成採択団体をめざした理由を、認定NPO法人NEXTEP理事長で小児科医の島津智之さんは次のように語っている。
「私たちは寝たきりの子どもや医療ケアが必要なこどもたちのところに看護師を派遣するなど、こどもに関した取り組みを20年以上してきた中、学校に居場所がないこどもたちのために何かできないかと思っていました。
2017年から、就労サポート事業として、【久遠チョコレート熊本】を私たちが運営することになり、ここでは病気や対⼈関係への不安、不登校などの経験がある若者たちが多く働いています。
⽉数回だけ通信学校に通う⾼校⽣も、ここでは⼀⼈前のショコラティエとしてチョコレートと向き合っています。
焼いたり蒸したりすることのないチョコレートづくりは、⾃分のペースに合わせやすく、作業中に固まってしまっても温めれば再チャレンジ出来ます。
失敗を経験し、過去に⾃信を失ったことのある若者たちにも「再チャレンジができるんだ」と⾃信をつけてほしくて、私たちは運営しています。
今の店長も、利用者からスタートした若者でした。ここが自分の居場所なんだ、と彼が思ってくれたことが嬉しいと話す仲間もいます。
このプログラムを運営してきた仕組みを用い、中高生にも拡げるかたちで、休眠預金活用事業が展開できないかと、私たちは考えたのです」
「学校に行くことのできないこどもたちに、学校という場所に行かなくても大丈夫だよ、と言ってあげたい。そのためには、このような社会と繋がるためのワンクッションが必要だと思いました。それが彼らの居場所になったらいい。
病院に来ることのできるこどもたちはまだ一部で、実際にはどこにもたどりつけないでいるこどもや若者たちも多い。学校に行け、という保護者のプレッシャーは決していいものだとは思っていません。
どこにも行くことのできないこどもたちが、ここに居場所があったんだと思ってもらえる拠点をつくりたい。字が上手に書けなくても、算数が苦手でも、やれることはきっとある。彼らと時間を過ごす中で、それを一緒に見つけて、ともに成長していけたら、と思っています」
認定NPO法人NEXTEPが休眠預金活用事業でつくる場所には、現在2人のスタッフが配置されている。こどもたちの少し年上世代。児童養護施設で働いていた人、教育現場にいた人。どちらも、こどもたちの心に寄り添うことのできるスタッフだ。こどもたちがアクティブに活動したいなら、それを叶えることもできるし、ゆっくりしたいならそれも可能だ。
気軽で居心地のいい空間を生み出すべく、レイアウトや室内インテリアにも配慮している。現地の写真を見て、こどもたちの心に寄り添うプロフェッショナルチームなのだと思った。小児科医である理事長の他にも、スタッフ一人一人が、心の療養士であり、医療器具を持たない看護師でもあるのかもしれない。
「今回の休眠預金活用事業は期限付のものですが、事業が終わってからも継続できるものを生み出したい」と認定NPO法人NEXTEP副理事長の佐々木大河さんは語っている。ここをノックしてくれたら、5年後も10年後も変わらない居場所であってもらえるようにしたい、と語る。
幸い、NEXTEPにはこれまで農業体験や不登校児サポート事業、ジェラート屋運営、小児ヘルパーステーション「ドラゴンキッズ」などの取り組みで得た地域とのつながり、ネットワークがある。
地域の資源を活かし、これまで培ってきた異業種の仲間とともに、こどもたちや若者たちの就労支援まで、未来をあたたかく支え続けていく。
今回の事業では、利用者の進路を見据えて支援していくところがポイントだという。本人の特性や感性、可能性を尊重し、ともに未来を切り拓くことがミッションだ。
「3年後には、5~6人の中高生が常に来て、この場所を巣立った若者たちと交流しているようにしたい。ここから、スタッフになったり、シンポジウムの際に登壇して自らの体験を語ることのできる若者を誕生させたい」と副理事長の佐々木大河さんは夢見ている。
「どこまでも本人の意思を大事にしたい。環境さえあれば、こどもたちは自分で育っていくことができると体験的に思っています」とスタッフは語る。そのための安らぎの居場所を生みだそうとNEXTEPの皆さんは新たなチャレンジをはじめたのだった。
こどもたちの第三の居場所づくり。
人によっては、未来への滑走路となる場所。
認定NPO法人NEXTEPのある熊本県合志市の、市の木「クヌギ」の由来は、「国の木」だという説がある。実も葉も樹皮も世の中にすべて役立つクヌギ。古来、どんぐりと呼ばれた実は唱歌になるほど、人々の生活に根付いた樹木だ。
環境によっては、樹高15メートルにもなる高木(こうぼく)で、新緑や紅葉など、人々の暮らしに美しい色彩ももたらしてくれている。1本のクヌギからたくさんのどんぐりが生まれるように、認定NPO法人NEXTEPという樹木から、たくさんのどんぐりのようなこどもたちの笑顔が生まれる日を楽しみに期待している。
この実はやがて、熊本のみならず、九州各地に芽吹き、次世代の希望となっていくのではないだろうか。
田中章義
(歌人、元国連WAFUNIF親善大使)



