「つらいなら1日ずつ生きればいい」実業家が伝える刹那的生き方のススメ【全文公開】

 「つらいときは1日ずつ生きればいい」。実業家としてマネジメントやコンサルタントなどを幅広く手掛け、働く人のメンターとして活躍する澤円(さわ・まどか)さんはそう語ります。「学校なんか大きらいだった」という澤さんに、社会の変化や不登校について、また刹那的に生きることの強みについて、不登校の子どもを持つ親がお話をうかがいました(※写真は澤円さん)。

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――澤さんはどんな子どもだったのでしょうか。

 小さいころの僕は、ムダに頭がよくて口が立つ、大人からすれば扱いづらい子どもだったと思いますよ。ただ、僕自身は運動など、自分の苦手なことばかりに目が行って、「なんでもっとうまくやれないんだろう」といつも思っていました。「できない自分」が許せなくてつねにイライラしていて、誰にでも突っかかっていました。自分以外は全員敵でした。本当にしんどかったですよ。

 学校なんてめちゃくちゃ嫌いでした。行かないという選択肢を思いつけなかったから行っていただけです。第一、僕は友だちをつくるということの価値がわからないんです。「友だちをつくろう、仲よくしよう」と押しつけてくる学校が大嫌いでした。

 大人になった今ならわかるのですが、僕は1人が好きな人間なんです。2020年のコロナによるロックダウンは社会全体としてはたいへんなことだったけれど、僕みたいな孤独大好き人間にとってはありがたい面もありました。「え? 人と会わなくていいの? ひきこもっていていいの? なんて幸せ!」って。こんな孤独が好きな人間にとって学校という場は苦痛でしかないんです。

 ちなみに僕は発達障害でもあり、HSPでもあり、未診断ではあるけれどASD傾向も相当に強いと思っています。そんな、僕みたいな子どもにとって学校という場は酷ですよね。それでも、当時はまだインターネットがなかったから、学校と家が切り離されていました。

 でも今はスマホのなかに生活のすべてが入ってしまった。他人が考えていることが自分1人でいてもわかってしまう。外の生活が家のなかにまで侵入してきて、純粋に1人でいることができないんです。冗談じゃないですよ。僕みたいな1人が好きな子どもにとって、今は、昔よりずっとしんどいだろうなと思います。

大人の側が 問題を大きく

――不登校をどのように考えていますか。

 不登校というと「学校から逃げている」ととらえて悩む子や親も多いようですね。僕は格闘技をやりますが、逃げない格闘家はいないです。自分への攻撃は避けるのが基本です。攻守は表裏一体なんです。場面場面で避けたり逃げたり隠れたりを使い分けないと、格闘技は勝てません。だから、学校から逃げていい。逃げてよけて隠れながら、自分なりの人生の戦略を練ればいいんです。

 そう考えれば不登校は大した問題ではありません。大した問題にしちゃっているのは大人の側です。大人にとってとても重要なことは、子どもの問題と親や大人の側の問題を切り離して考える必要があるということです。たとえば、「子どもが家にいるから仕事に行けない」、「この子の将来がとても不安だ」、「わが子をほかの子と比べてしまってつらい」、こういう悩みは多いと思います。でもそれって全部、親や大人の側の問題です。子どもから見たら、自分と他の子を比較する親なんて、もう親じゃなくて敵ですよ。親はわが子を唯一の絶対値として見なきゃいけない。不登校という問題を社会問題にしてしまっているのは大人なんです。

 では大人にできることは何か。学ぶ場が学校以外にすくない、選択肢がすくない、といった社会構造や制約ももちろん問題であり、解決していかなきゃいけない課題です。でもそれとは別に、親や周囲が今すぐできることもあります。それは、子どもの想いや願いをちゃんと聞く、ということではないでしょうか。子ども自身に好きなことや、やりたいことがきっとあるはずです。だからそれらがどうやったら実現できるかを、もっといっしょに考えるとよいでしょう。

澤円さん

とりあえず脇へ 

 また、親が「大丈夫だよ! なんとかなる!」と笑い飛ばしてくれたら、問題が何一つ解決していなくても、子どもは救われるものです。問題解決は次のステップへ進むための必須条件ではないのです。だから問題を問題として扱わなければいい。とりあえず脇へ置いておいて、そして子どもに「じゃあ何をしようか? どうしたい?」を問う。子ども自身から何かしら出てくるはずです。

 子どもへの対応方法に「正解」を求めてしまう親や大人も多いですが、これは学校が「正解」を探すトレーニングの場になってしまっているのがよくないですね。正解なんてものはないし、あるとしても自分でつくっていくものです。ビジネスの世界にも、もはや正解なんて存在しません。30年前までは正解が「あったように見えた」のです。同じやり方をくり返せば儲かったのでね。それらが完全否定されて、日本社会全体が不正解を引いたタイミングが、バブル崩壊と95年のネット社会への乗り遅れです。世界は「正解なんてない」ものへと変化しました。「正解」は自分でつくるものになりました。昔のやり方を踏襲しても、極めて小さな成功しか得られなくなっています。

 とくに現在は生成AIの登場などで、1995年にインターネットが登場したときと同じような、社会の大変革期です。従来からの価値観を入れ替えないと社会構造の変化においていかれます。大人はそれをしっかりと認識する必要があります。

レンガタイプと石垣タイプ

 一方で、日本社会には選択肢がとにかくすくない。学校という場ではとくにそうですが、単一の価値観、単一の評価軸のなかでみんなががんばっている。でも、もうやめましょう。不揃いでもいいし、嫌なものは嫌と言っていいんです。ビジネスの世界でも、昔は「レンガタイプ」と言われた経営モデルから、今は「石垣タイプ」と言われるものへ変化してきています。レンガとちがって石はもともと不揃いです。大きな石のあいだに小さな石が支えで入ることで、石垣は崩れなくなるのです。日本社会は、たとえば不登校に代表されるような個別性、特殊性をもっと受けいれたほうが素敵だし、そのための制度も整えていく必要があります。

仕事によって救われた

――子どものころはとてもしんどかったとお聞きしましたが、今はどうでしょうか。

 子どものころは、朝目覚めたら「どうして起きちゃったんだろう」と後悔するくらい生きるのがつらかったです。「もう1日だけ生きてみようかな、だったら1日分の寝床や食糧は手にいれないとな」という感じで、イヤイヤ生きてきました。今は目覚めるのが楽しみになりましたけれど、今でも僕は生き方がとても刹那的です。何年も先を見越して行動するということはまったくないし、やる気も起きないんです。いつも、どういう状態が自分にとって一番快適なのかを考えて、環境を整えてきました。

 もちろん、学生時代は環境なんて思うようにいかないものだから、まわりに合わせて自分も空気のようになって生きていたときもありました。でも今は、自分の都合のよいやり方で働けるように、つまり孤独な状態で仕事ができるようにしています。そうしたら、予定も埋まり始めて、「こんな調子で数カ月先までなら生きていけるな」という見通しが立つようになりました。

 僕は仕事によって救われたのです。仕事というものは成果さえだしていれば評価につながる。人間関係だって、友だち関係とちがって仕事を理由につき合って、仕事が終われば1人の時間に戻れる。僕みたいな孤独大好きな人間にとっては仕事ってめっちゃありがたいし、生きやすい環境なのです。

 今、生きるのがつらい子には刹那的に生きることをオススメします。今何が足りないとか、先のために何をしなきゃいけないか、などと考える必要はまったくないです。先のことを考えても、どうせ予想以上の変化が突然やってきます。だから先のことは考えず、1日ずつ生きてほしいと思います。そして、好きなときに好きなところに好きなように存在してください。その日そのとき夢中になれることをやっていくのが最適解なのです。

探し続けて

 もしも今、自分がいる場所が居心地よくない、自分の居場所じゃないと感じるときは、別の居場所を探しましょう。かならずあるから。希望を捨てず、探し続けてください。仮想空間でもいいんです。楽に息ができるコミュニティを見つけて明日1日を乗り切っていきましょう。

 そして明日1日生きるのも苦しいのなら、寝ましょう。できるだけ食べ物をお腹にいれてから眠りましょう。親は起こしちゃだめ。目覚めたときにその子がハッピーであるように、そっと寝かせておきましょう。

――ありがとうございました。(聞き手・めいめい、編集・麓加誉子、茂手木りょうが、撮影・矢部朱希子)

【プロフィール】澤円(さわ・まどか)
1969年生まれ。株式会社圓窓代表取締役。Voicyパーソナリティ。1997年日本マイクロソフト株式会社に入社。エンジニア、ITコンサルタント、サイバー犯罪対応チームの責任者を歴任。2019年より、株式会社圓窓代表取締役に就任。数多くの企業の顧問やアドバイザーを兼任し、テクノロジー啓蒙や人材育成に注力している。著書に『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)など多数。

澤円さん書籍紹介

『「やめる」という選択』(日経BP)

『メタ思考「頭のいい人」の思考法を身につ ける』(大和書房)

(初出:不登校新聞625号(2024年5月1日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)

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