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あなたの眠れぬ夜に一冊の本を ひきこもり読書のすすめ  第2回『一億三千万人のための小説教室』(高橋源一郎)

何をしていても悲しい。誰とも話したくない。そんなときでも、本を開けば、これまで出逢ったことのない世界、まったく見たことのない景色が広がっているかもしれません。連載「ひきこもり読書のススメ」では、不登校経験者である書籍編集者・ライターの藤森優香が、いま学校に行っていない人・学校が苦手な人におすすめしたい本を紹介していきます。よければ、お子さんに薦めてみてください。第2回は、高橋源一郎著『一億三千万人のための小説教室』です。

藤森優香のプロフィールを見る
土橋優平

藤森優香(ふじもり・ゆか)

ライター・編集者。ひきこもり期間中、読書で現実逃避をする術を身につける。現在は不登校オンラインでの執筆のほか、教育・ビジネス・実用関連の媒体で執筆している。趣味は、恋愛リアリティ番組を見ることと、村上春樹の登場人物のマネをして過ごすこと。

私は小説の書き方を教えてくれる「小説の書き方ハウツー」系の本をよく読みます。理由は、小説を書けるようになりたいとずっと思っているのに、うまく小説が書けないから。小説の書き方を教えてもらえそうな本を、つい手に取ってしまうのです。

書きあぐねている人のための小説入門』(保坂和志著、草思社、2003年)、『WEB小説ヒットの方程式』(田島隆雄著、幻冬舎メディアコンサルティング、2016年)、『小説とシナリオをものにする本』(柏田道夫著、彩流社、2010年)など、いま自宅の本棚にはざっと見ただけで9冊の「小説の書き方を教えてくれる本」がありました。

定期的に本棚にある本を整理しているので手元に9冊しかありませんが、実際に読んだことのある「小説ノウハウ本」はたぶん40~50冊を超えているじゃないかなと思います。

「そんなにたくさん小説を描くためのノウハウを仕入れているのに、小説家になってないじゃん。なんで?」と思う人がいるでしょう。鋭いご指摘です。

「小説の書き方」を読んで小説家になった人はいない!?

今回紹介する『一億三千万人のための小説教室』のまえがきで、著者は「わたしの知っている限り、『小説教室』や『小説の書き方』を読んで小説家になった人はひとりもいません」と断言します。なぜでしょう。それは、「小説家は、小説の書き方を、ひとりで見つけるしかないから」だということです。

すべての傑作といわれる小説は、その小説家が、最後にたったひとりでたどり着いた道、その道を歩いていった果てにあります。そんなのを書く方法なんか、だれにも教えられるわけがない。(「少し長いまえがき」より)

いきなり突き放されたような気分になってしまいますが、じっさいのところ、それが真実だと思います。

では、この本には「小説の書き方」が書かれていないのかというと、そんなことはありません。この本には、「小説の書き方をひとりで見つける方法」がしっかりと、手とり足とり、書かれています。

「最初の一行」は小説と楽しく遊んでから

本書では、「小説を書くにあたってはじめにやることは、小説がまだ書かれていないことをじっくり楽しむこと」とあります。

最初の一行を書きはじめる前に、なにより、あなたは、絶対、書く前の沈黙を味わわなければならない。(p. 26)

小説の、最初の一行は、できるだけ我慢して、遅くはじめなければならない(同)

なぜなら、小説とは、なにを書くかを徹底して考えてみて、どうしようもなくなったらまた別の角度から考え、世界がまったく違うように見えるまで待つことで初めて「つかまえられる」ものだから。

世界がまったく違うように見えるまで何をすればいいかというと、「小説と楽しく遊ぶこと」だといいます。キャッキャッと笑い声を立てながら、小説というどんなボールが飛んできても目をそらさずに、つかまえる。豪球が来ても変化球が来てもつかまえられるように、いろいろな小説を読んで、運動神経を鍛えることがたいせつだといいます。

本書の大きな魅力は、引用されている小説の文章がどれもとてもおもしろいことです。本書を読むだけで、自然と読者は「小説の遊び方」がわかるようになり、どんなボールが来ても恐れずにつかまえられるようになるのです。

暗闇の先で、小説を「つかまえる」

小説とキャッチボールをしてたくさん遊んだあとは、いよいよ具体的に小説を書き始めるパートに入っていきます。

私がなぜ今回この本を選んだかというと、学校が苦手な人のなかには小説を「つかまえる」ことが得意な人が多いのではないか、と思ったからです。

誤解を恐れずにいいますが、学校に行って、みんなと同じように漫然と文法を覚えたり方程式を解いたりしているだけでは、ほかの人とちがった目で世界を見つめることはできません。

真っ暗闇のなか、ひとりで横になり、部屋を見つめても何も見えない。暗闇のなかで耳をすましても何も聞こえない。そんな状況のなかで何日も過ごすことで初めて、ほかの人には見えない何かが見えてくる、と思うのです。

そして、世界がちがったように見えたときに初めて、小説を「つかまえる」ことができるのだ、と著者は言います。

私は高校時代に不登校を経験し、何日も鬱々とした日々を過ごしていました。しかし、あるとき高校の先生が、「きみのその経験を、いつか文章にするといい」と言ってくれたのです。そのとき、暗闇の先に少し光が見えたような気持ちになりました。

小説を書いてみたい人はもちろんのこと、そうでない人でも、この本を読むと、言葉っていいな、小説っていいな、楽しいな、ときっとワクワクしてくることでしょう。

学校に行っていない人が抱えている、どこにも行くところがなくて、孤独で、それでも外に向かおうとする言葉を、私は読んでみたいのです。

【連載】ひきこもり読書のススメ
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