「靴がないのが恥ずかしい」学校に行きたくても行けない子どもたち。インドネシア・アチェ州/世界の不登校

#不登校#行き渋り#インドネシア#災害#貧困

日本では、学校に通っていない子どもたちについて”不登校(※)”という言葉が広く使われています。

かつては”登校拒否”という呼び方が一般的でしたが、学校に行けない、あるいは行かない背景には、心身の不調やいじめなど「学校や勉強が嫌い」というだけでは説明できないさまざまな事情があることが知られ、呼び方が変化しました。

世界には自らの選択で学校から離れる子どもたちもいれば、貧困や災害など、自分ではどうすることもできない事情によって学校に通うことができない子どもたちもいます。

多様な背景や実情を知り、学校に行っていない子どもたちの未来について考えるため、国や地域を問わず取材をはじめました。

さまざまな立場の人々の声を聞き、一人ひとりの子どもが学校から離れる背景や、必要としているサポートを多角的に捉えたいと考えています。

これまでにもシンガポールやマレーシアなどで取材を行ってきました。

今回は、インドネシア・アチェ州で子どもたちの教育支援に取り組む市民団体「Komunitas Teman Baik」のアルフルカンさんに話を聞きました。

(※)文部科学省の統計上の定義では、「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるため年間30日以上欠席したもののうち、病気や経済的な理由によるものを除いたもの」を不登校としていますが、今回の「世界の不登校」の取材では、この定義に限定せず、病気や貧困などあらゆる事情を含めて継続的に学校へアクセスしていない子どもたちのケースを対象としています。

Komunitas Teman Baik(コムニタステマンバイック)

インドネシア語で「よい友だちのコミュニティ」の意味。貧困や災害の課題に直面している子どもたちのサポートを目的として立ち上げられたインドネシア・アチェ州を拠点とした市民団体。今回取材を受けてくださったアルフルカンさんは立ち上げメンバーのひとり。

活動の様子は下記リンクから。
https://www.instagram.com/seharga.segelas.kopi/

アルフルカンさん

 

伊藤真依

靴や学用品が買えない。貧困が阻む教育へのアクセス

「アチェ州の子どもたちに平等に学びの機会を用意することはとても難しいです。」

そう語るのは、インドネシア・アチェ州で子どもたちの教育支援に取り組む市民団体「Komunitas Teman Baik」を立ち上げたアルフルカンさんです。

教育を妨げる要因は一つではありません。

  • 学校が自宅から遠く、通学そのものが難しい
  • ノートやペン、靴といった基本的な学用品を買えない
  • 家計を支えるために子どもも働かなければならない

アルフルカンさんが出会った14歳のある男の子は、中学校を卒業したものの高校に進学できませんでした。

父親が亡くなり家庭が非常に貧しく、母親とともに幼い頃から働き弟や妹の生活を支えていたからです。

アルフルカンさんは、子どもたちが学校に通えないことによる長期的な影響も懸念しています。

アルフルカンさん:
学校に通えなければ、まだ働くべき年齢ではない子どもたちが、家族の生活を支えるために働かなければならなくなることもあります。
そうなれば、貧困から抜け出すことはますます難しくなります。そして、その貧困は本人だけでなく、子どもや孫の世代にまで引き継がれてしまうかもしれません。

経済的な事情によって教育の機会を失い、十分な教育を受けられないことが、将来の経済的な選択肢を狭めてしまうーー

アルフルカンさんは、こうした貧困の連鎖が次の世代にも続いてしまうことを危惧しています。

こうした状況は、彼の家庭だけのケースではなく、インドネシア全体の課題でもあるといいます。

ユニセフが2025年に公表した資料によると、インドネシアでは推計約350万人の7〜18歳の子どもが学校教育を受けておらず、その約95%が中等教育段階の年齢だとされています。

また、インドネシア政府の報告では、子どもの11.8%が国内の貧困線を下回る生活を送っているとされおり、実際に貧困が学校を離れる選択に影響したケースも多く見られます。

貧困の影響は、学費を負担できないことだけにとどまりません。

必要なものを持っていないことが、子ども自身の恥ずかしさや不安につながり、子どもたちが自ら学校を離れていく要因につながっている場合もあると、アルフルカンさんは指摘します。

アルフルカンさん:
小学校では、経済的な困難がいじめの原因になることもあります。学用品や制服、靴を持っていないことを理由に、いじめられる場合があるのです。

多感な年齢を生きる子どもたちにとって、「他の子どもたちと同じようにできない」という不安は深刻な悩みであり、いったん就学できても、最終的に学校を離れるケースが少なくないのです。

災害で失われた学習環境

貧困による困難に加え、アチェ州の子どもたちを襲ったのが大規模な洪水災害でした。2025年末、アチェ州、北スマトラ州、西スマトラ州では豪雨や洪水により多くの学校が被災し、インドネシア政府の発表によると、3州の被災校は計4,922校に上ります。

被災地の子どもたちを支援する中で、アルフルカンさんは厳しい学習環境を目の当たりにしてきました。

アルフルカンさん:
子どもたちの様子を見に行くと、涙が出てしまうことがあります。

彼が目にしたのは、東南アジアの気候で非常に暑くなるテントの中で、一生懸命に勉強する子どもたちの姿でした。

校舎も制服も靴も、十分な筆記用具もない。それでも子どもたちは学びを続けていました。

学校再開に向けた取り組みは、行政によっても進められています。

インドネシア初等中等教育省が2026年9月23日に発表した資料によると、被災した4,922校すべてで授業が再開されました。

ただし、仮設の建物を使用したり、別の学校を間借りしたりして、依然として過酷な環境が続いている学校が100校以上あります。

学校の再開が進んでも、被災前と同じ学習環境を取り戻すには金銭的にも体制としても課題が残る地域もあるということです。

アルフルカンさんは、授業が再開することと子どもたちの安心して学べる環境の回復は必ずしも同じではなく、今も多くの子どもたちがサポートを必要としていると訴えます。

貧困や災害など、子どもたちではどうしようもできない外的な要因によって、学びから遠ざかる子どもがいること、そして課題となる状況の具体的な様子を伝えるためにアルフルカンさんは今回の取材に答えてくださいました。

学校に通い続けるために必要なのは、物資だけではない

子どもたちが安心して学びを続けるためには、どのようなサポートが必要なのでしょうか。

アルフルカンさんは、学用品などの基本的な物資に加え、心理的なサポートの重要性を挙げます。

アルフルカンさん:
災害や家庭での困難を経験した子どもたちには、心理的なサポートが必要です。さまざまな困難の中でも、学ぶ意欲を持ち続けられるようにするためです。

アチェ州で学校にアクセスできていない子どもたちには、災害や貧困といった外的な事情に加え、いじめや学校への不安といった心理的な負担がのしかかっていることが少なくありません。

経済的な課題が多い地域では、学用品の確保など、物質的な支援が優先され、心理的なサポートまで十分に行き届かないこともあります。

心理的な支援には、専門的な知識を持つ人材や、継続的に子どもたちを支える体制が必要です。しかし、こうしたリソースを地域だけで確保することは、容易ではありません。

アチェ州の教師たちによる教育支援チームの発足

アルフルカンさんが活動する「Komunitas Teman Baik」は、もともと友人同士の集まりから始まった、アチェ州の教育支援チームです。

メンバーの多くは学校の教師で、仕事の合間に寄付を募り、経済的に困難な家庭の子どもたちに学用品を届けてきました。

地域を襲った洪水災害をきっかけに、支援活動により本格的に取り組むようになったといいます。

アルフルカンさん自身は、アチェ州にあるアルムスリム大学の国際交流部門に勤務しており、大学でも洪水被災住宅の支援事業などに携わっています。

チームの活動は学用品などの物質的なサポートにとどまりません。

学校設備の整備や教師への研修、子どもたちへのメンタルヘルス教育など、物質的な支援以外にも子どもたちの学びの機会を守るための活動に力をいれているといいます。

家庭環境や外的な要因にかかわらず、アチェ州の子どもたちが安心して学べる環境づくりが活動の目標だとアルフルカンさんは語ります。

「Komunitas Teman Baik」活動の様子。子どもたちの日常に必要な物資を揃えている。

子どもたちを支える側の課題

アルフルカンさんは、アチェ州に存在する課題として、厳しい待遇の中で教育を支える教師たちの存在にも触れました。

教師の給与が生活に十分な額ではないことも少なくなく、支払いが滞り数か月に一度になるケースもあるといいます。

そのような中で、自分たちのリソースを使って子どもたちを支えるのは簡単ではありません。

子どもたちの学びを守るためには、支援を必要とする子どもたちだけでなく、教育や支援を担う人々の働く環境にも目を向ける必要があります。

アルフルカンさんたちの活動では、個人でできる範囲を超えた解決策を探っています。

どこに生まれても、明るい未来を歩めるように

アルフルカンさんが留学した日本の大学の学生が、国際協力の研修にアチェを訪れた際の記念撮影

日本の大学への留学経験もあるアルフルカンさんは、日本とインドネシアが互いの教育体制について学び合うことにも期待を寄せています。

アルフルカンさん:
日本の規律正しさや発展した教育制度は、私たちに刺激を与えてくれます。一方、インドネシアの地方に暮らす子どもたちは、困難に立ち向かう強い意志を世界に示しています。

そして最後に、こう呼びかけました。

アルフルカンさん:
どこに生まれた子どもであっても、明るい未来を手にする権利があります。その権利をすべての子どもたちに保障するために、お互いの知見を学び合っていきたいです。
 
 
※本記事は「Yahoo!ニュースエキスパート」に掲載した記事を、不登校オンライン向けに再編集したものです。元記事は下記リンクからご覧いただけます。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/e7826b8d37ab2936c728979640e0a4dbfc428b24

関連記事

登録から30日間無料!ゲーム依存、昼夜逆転、勉強の話、子どもにしてもいいの…?疑問への「答え」が見つかるウェブメディア 不登校オンライン お試し購読はこちら